異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

247話 『宴』誘致合戦 -1-

公開日時: 2021年3月26日(金) 20:01
文字数:2,661

 今、四十二区は激しい争いの渦中にあった。

 

「お祭りなら大広場でやればいいじゃない! 大通りも使って出店とか出してさ」

「新しい通路の完成を祝う『宴』ですから、ニュータウンでやるべきです! 出店の屋台も片付けずに置いてあるですし!」

「お祭りも、木こりギルドの完成パーティーも、みんな西側ばっかりだからさ、たまには大通りから東側でもやってほしいな、私は」

 

 パウラにロレッタ、それにネフェリーが加わって、『宴in四十二区』の開催場所で揉めている。

 ミーティングが行われている場所はもちろんというか、陽だまり亭である。

 

「じゃあよぉ、また街道でやりゃあいいじゃねぇか。他の区の領主様も来るんだろ? 街道の方が来やすいんじゃねぇのか?」

「「「モーマット(さん)は黙ってて!」」です!」

 

 余計な発言をして三娘に怒鳴られるワニ。

 お前さぁ、突けば蛇が出ると分かりきっている藪にダイブしてどうするよ?

 そんな慰めてほしそうな顔で俺を見るな。自業自得だろうが。

 

 領主会談の翌日。

 四十二区の連中に「『宴』をやるぞ~」と伝えたところ、ミーティングの席に呼んでもいない連中が大挙して押し寄せてきやがったのだ。

 エステラとのミーティングの日程がどこかから漏れたらしい。

 

 雨不足以降、結構いろんなヤツの力を借りたり、話をしたりしていたせいで、「あれ、俺関係者なんじゃね?」という勘違いをあちらこちらで生んでしまったらしい。

 デリアやノーマはもちろん、パウラにネフェリーにベルティーナ、ウーマロにイメルダにベッコ、セロンとウェンディにモーマットまで参加してる。

 驚くべきことに、レジーナまでいるんだよな、今日は。

 他にも見知った顔が何人かいるのだが、おかげで揉めに揉めているというわけだ。

 

「パウラさんは、カンタルチカにお客さんを引き込みたくてそんなこと言ってるだけです! あさましいです!」

「誰があさましいのよ!? ソーセージ禁止にするわよ!」

「あさましいは撤回するです!」

 

 ロレッタ弱っ!?

 あいつ、どんだけ好きなんだよ、魔獣のソーセージ。

 下手したら、ジネットの料理よりあっちの方が好きなんじゃないだろうか。

 

「でも、ネフェリーの意見はないよね」

「なんでよ、パウラ!?」

「だって、大通りの向こうって、今回関係ないじゃない」

「あるもん! そもそも、今回の騒動はセロンたちの結婚式がきっかけだったんだから!」

「「申し訳ございませんでした……」」

「あぁ、ごめん! そういう意味じゃないのよ、セロン、ウェンディ!」

 

 しゅんとうな垂れるセロンとウェンディに慌てて謝罪するネフェリー。

 そりゃそうなるわ。

 

「だから、あれよ! 今回の騒動が解決したのって、マーゥルさんの力が大きいじゃない? そのマーゥルさんが四十二区に協力してくれたのって、やっぱりセロンのレンガがあったからだと思うの! そうよ! だから、今回の功労者って断然セロンだと思うの! そのセロンのレンガ工房があるのは大通りの東側なんだから、東でやるべきだと思うわ!」

 

 苦しいぞネフェリー。

 単純に、自分が住んでいる東側が最近地味だから誘致したいだけだろうに。

 

 大広場を街の中心とした場合、西側には陽だまり亭をはじめ、教会、ニュータウン、川漁ギルドに木こりギルド、それに生花ギルドとミリィの店なんかがある。

 

 で、中心部――というか、大通り付近にはカンタルチカや、ウクリネスの服屋、大広場の北側にある丘の上にはベッコの実家である養蜂場などがある。

 ノーマたちがいる金物通りも、若干西寄りではあるが、まぁ中心部といってもいいだろう。

 

 大通りの東側には、領主の館があり、レジーナの薬屋があって、奥へ行けばゼルマルの爺さんの家があり、少し大通り側に行けばネフェリーの養鶏場や狩猟ギルドなんかがある。

 街の北東方面には牧場なんかがあったりもする。

 あと、妹と仲の良い帽子ちゃんが住んでいるのもその辺りだ。

 

「とにかく! 今回の『宴in四十二区~ロレッタちゃんが頑張って掘った新しい通路開通記念祭~』はニュータウンで開催するべきです!」

「おかしなサブタイトルつけてんじゃないわよ! だいたい、通路の総指揮を執っていたのはベッコでしょ? なら中央に権利があるじゃない」

「うぅ……確かにござるさんが総指揮者ではあったですけど…………ござるさんとウーマロさんを比較するとウーマロさんの方がまっとうな人間なので、ウーマロさんのいるニュータウンでやるべきです!」

「ん……まぁ、ウーマロとベッコを比べると…………ねぇ」

「そうね……こう言っちゃなんだけど、ベッコさんじゃ、……ねぇ?」

「なんか酷いでござるぞ、婦女子方!?」

 

 無意味に人を傷付けて、三人娘の議論は平行線をたどっていく。

 

 で、その間に『宴in四十二区』の打ち合わせを進める。

 ん、会場?

 ニュータウンだぞ。

 大通りや東側でやる意味が分からんからな。

 

 不公平?

 いいんだよ、西側が盛り上がればそれで。

 やりたきゃ、自分たちで企画して『酔いどれ大通り祭り』とか『東方月下夜奏会』とか開催すればいいのだ。

 

「屋台の数は増やすのかい?」

「そうだな。あまり範囲を広げ過ぎない程度にしつつ、店の行列が邪魔にならないような配置にしたいんだよな」

「じゃあ、微増ッスかね?」

「なぁ、ヤシロ。川の方にも店出したらどうだ? 川漁ギルドを手伝いにやるぞ?」

「いや、だからな。今回は祭りじゃなくて『宴』だからさ、一ヶ所に集まってわいわいやるのが目的なんだよ。距離を歩かせると目的がブレるだろ?」

 

 イメージは、あくまで花見なのだ。

 一ヶ所メインとなる広場を用意して、それを取り囲むように出店を配置する。

 食い物を買って、自分たちの場所に戻って、馬鹿話をしながら飯を食う。

 そんな催し物だ。

 店を眺めて歩くのは、また女神祭でやればいい。

 

「ちょっと、ヤシロ! あたしたちの話まるっと無視して話進めないでよぉ!」

「そうよ。少しは私たちのことも考えてよね。まったく、ヤシロってばいっつも勝手なんだから」

「あのなぁ……」

 

 イメージしてみろよ。

 

 新しく出来た通路を通って四十二区に来るだろ?

 そしたらまず、「おぉ! 本当に着いた!」って感動があるだろ?

 その後に、ちょっと遠くから楽しげな音と美味そうな匂いが漂ってきて、「何やってんだろう?」ってちょっと歩くと、そこでは宴が開催されている!

 そうなりゃ、「四十二区は楽しい場所だなぁ、さすがだなぁ、やっぱ勝てないなぁ」となるわけだ。

 

 それが、『宴』の会場が大通りや東側だったらよ、結構歩かなきゃいけなくて、会場に着く前に一発目の感動がさめちまうんだよ。

 畳みかけが重要なんだよ、感動ってのは。

 

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