異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

挿話15 陽だまり亭の年末年始 -5-

公開日時: 2021年1月6日(水) 20:01
文字数:1,415

☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

 パーシーが面白い顔になり、お気に入りのネフェリーに大笑いされてへこんでいる様を、ウーマロはケラケラと笑って見ていた。

 マグダは教えてあげたかった。

 

 こういう時にそういう態度を取っていると、今度は自分がそういう目に遭うということを……

 

「……ウーマロの番」

「あ、ありがとうッス、マグダたん!」

 

 嬉々としてサイコロを振るウーマロ。

 ……さて、どんな悲劇が振りかかるのか……マグダの勘が外れていなければ……ここで面白いことが…………

 

 

『来年の抱負を述べる』

 

 

 …………あれ?

 これは……このあってもなくてもいいようなゆる~い命令は……

 

「あ、わたしが書いたヤツですね」

 

 嬉しそうに店長が言う。

 ……おかしい。マグダの勘が外れるなんて……むしろ、ウーマロに面白いことが起こらなければ、ウーマロのいる意味が……お笑い担当がお笑いをしないだなんて……

 

「来年の抱負は、ズバリ! 街門を完成させることッス!」

「うっわ、つまんねぇ! 次、次!」

「なんッスか!? 普通でもいいじゃないッスか!」

 

 ヤシロがマグダと同じ感想を持つ。さすがヤシロ。分かっている。

 

「はいッス。次はマグダたんの番ッス」

「……うん」

 

 なんだかスッキリとしない気持ちのまま、マグダはサイコロを振る……『3』

 ……1、2、3…………そこに書かれた命令文に視線を向ける。

 

 

『ウーマロにデコピンをする』

 

 

「なんでオイラッスか!?」

 

 素晴らしい!

 ウーマロはまさに神を引き寄せた。

 お笑いの神を!

 

 これを書いたのは……間違いない。ヤシロだ。マグダの隣で小さくガッツポーズをしている。

 

「……では、命令だから」

「うぅ……お手柔らかにお願いするッス……」

「……平気、首が飛んでいくことは無い」

「そんなレベルの話なんッスか!?」

 

 驚愕の表情を見せるウーマロのおでこに指を添え、軽く弾く程度にデコピンをする。

 

 

 ――ゴッ!

 

 

 普段耳にしないような鈍い音がして、ウーマロが地面に蹲る。

 ……こんなに手加減したのに。

 

「あ~、ちっきしょ~、マグダに抜かれちまったかぁ……」

 

 そんな嬉しそうな声が上がる。

 出所はヤシロだった。

 

 ヤシロのコマは、今マグダの止まったマスの一つ手前に止まっている。

 

「『1』以外! 『1』以外来るッス!」

 

 そんなウーマロの言葉が天に通じたのだろう。ヤシロが振ったサイコロは『1』を示していた。

 

「なんでッスか!?」

「……素晴らしい引きの強さ……さすが、ウーマロ。『持って』いる」

「嬉しくないッス!?」

 

 涙目で訴えかけてくるウーマロ。

 気の毒なことに、ヤシロの思惑通り、二度目のとばっちりデコピンを喰らっている。

 なんとも、「おいしい」展開だ。

 

「ほい、ジネット。頑張って『4』を出せ」

 

 ヤシロが店長にサイコロを渡す。

 店長のコマがあるマスから『4』つ目には、マグダとヤシロのコマが止まっている。

 すなわち、そこに書かれているのは――

 

 

『ウーマロにデコピンをする』

 

 

 この流れでここに止まれれば、かなりすごいっ!

 いやがうえにも期待は高まる!

 

「では、行きますね~」

 

 店長がサイコロを振る。全員の視線がサイコロに注がれる。

 ゆっくりと回転をし、最終的にそのサイコロは『6』を出した。

 ……通過しちゃった…………

 

「4……5……6…………っと。えっと……」

 

 店長が身を乗り出して、自分のコマが止まった場所に書かれた命令を読み上げる。

 

「『2マス、戻る』」

 

 2マス戻った店長のコマは、マグダたちと同じところに止まり……店長は申し訳なさそうにウーマロにデコピンを喰らわせていた。

 

 

 

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート