異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加99話 みすこん! -5-

公開日時: 2021年4月6日(火) 20:01
文字数:3,118

「マグダと一緒に『ミスキュート』に出てみたらどうだ?」

「みりぃ、今日の衣装が、こうぃう感じだから……それに」

 

 十二歳以上が参加する可愛い部門と位置づけられている『ミスキュート』コンテスト。

 そこに参加すればミリィなら優勝すら狙えると思うのだが……

 大人っぽい衣装であることとは別に、ミリィが『ミスキュート』に出ない理由、それは。

 

「みりぃ、そろそろ『かわいい』って言われる年齢じゃない……と、思う、の」

 

 いやいや、ミリィ。

 ミリィの評価はいくつになっても『かわいい』だよ。

 

「俺なら、お婆ちゃんになったミリィのことも可愛いって思うと思うぞ」

「ぅう……それは、それでちょっと嬉しぃ、けど…………でも、みりぃも、のーまさんみたいになりたいの!」

 

 ノーマのように!?

 いやぁ……それはどうなんだろうなぁ……

 ノーマの色香って、たぶん天性のものだしさぁ。

 

「代わりに、じゃなぃけど、でりあさんが出るょ、『ミスキュート』」

「デリアが!?」

 

 あいつ……マジでマグダに挑戦するのか……

 

「どんな衣装なのか、楽しみだ」

「ホントか、ヤシロ!?」

 

 話題にしていたところに、本人の声が聞こえてちょっとびっくりした。

 振り返ればデリアがいて、その格好が……

 

「ひらっひらだな!?」

「へへっ、……どう、かな?」

 

 ミリィコーディネートなのか、花束を彷彿とさせるようなフリルとレース満載の衣装を身に纏っているデリア。

 セパレートになっていて、おへそがちらりと覗いている。

 

 高身長なので、あまりに広がりのあるフリル満載の衣装に違和感があるのだが……

 デリアの照れた表情にはよく似合って見えて、可愛らしい。

 デリアをよく知る者が見れば手放しで「可愛い」と称賛するだろう。

 

 ただ、デリアを知らない者が見たらどう感じるか……

 

「俺は可愛いと思うぞ」

「ホントか!? やったぁー!」

 

 両腕を振り上げて喜ぶデリア。

 服が持ち上がり、引き締まった腹筋があらわになる。

 

 う~ん。筋肉とフリル……マニアなら好きな組み合わせかもしれない。

 

「ダーリ~ン!」

 

 地響きが近付いてくる。

 やばい、逃げなきゃ!

 

「見ておくれよ、アタシのド・レ・ス!」

 

 メドラが現れた。

 どうする?

 

 逃げる

 逃げる

 逃げる

 諦める

 

 しかし回り込まれた。

 

「フリルがいっぱいで可愛いだろう?」

「うぅ……目がぁ……俺の目がぁ……!」

 

 メドラがふりふりのワンピースドレスを着ていた。

 くるりと回って、スカートの裾がふわりと持ち上がる。

 

 ぎゃぁぁあああ! 太ももがチラリってぇ! 目がぁぁあ!

 

「アタシも出るよ、『ミスキュート』!」

「なんでだ!?」

「アタシは気付いたんだよ…………アタシの中の可愛さに!」

「どうしてそんな、地底深く封印されていた魔神をわざわざ目覚めさせるようなことを!?」

「そして、アタシはマグダに勝つ!」

「どこに勝機を見出したんだ!?」

 

 無謀という言葉すら生ぬるいぞ、それ!?

 

「あ、メドラさん! デリアさん!」

 

『運営委員』という腕章をつけた、狩猟ギルドの女性二人が駆けてくる。

 

「探しましたよ。間もなく予選が始まりますので、控室へ急いでください」

「ん? もうかい?」

「まだ早いんじゃないのか?」

 

 メドラとデリアが目を丸くする。

 しかし、運営委員は焦った様子で二人を急かす。腕をつかみ、ぐいぐいと引っ張る。

 

「何をおっしゃっているんですか! 次ですよ、次!」

 

 焦る運営委員を眺めながら、俺はスケジュールを思い出す。

『ミスプチエンジェル』の次はたしか……

 

「この後すぐ始まるんですよ、『ミスマッスル』が!」

 

 そうそう、『ミスマッスル』だ。

 筋肉美女を競うコンテスト。

 

「ちょっと待ちな! アタシは『ミスキュート』に――!」

「あたいも『ミスキュート』に――!」

「はい。お二人とも、申請用紙が間違っていましたのでこちらで訂正しておきました」

「「はぁ!?」」

「さぁ、存分に自慢の筋肉を披露してください! さぁ! さぁ!」

「「いやいやいや! 間違いじゃなくて『ミスキュート』に――」」

「私たち、楽しみにしているんですよ! 四十一区最強のメドラギルド長と、四十二区のエクササイズエキスパート、デリアさんの直接対決を!」

「「えぇ…………」」

 

 なかなかの筋肉を持つ運営委員二人に引きずられるように移動するデリアとメドラ。

 ……そっか、認められなかったのか『ミスキュート』。

 書類の不備扱いかぁ……他人のイメージって、覆すのが難しいんだよなぁ。

 

 とにかく、二人の健闘を祈る。

 

「だいじょうぶ、かなぁ……でりあさん……」

「まぁ、デリアも大人だから、不貞腐れてボイコットするなんてことはないと思うけど……」

 

 

 

 そして、『ミスプチエンジェル』の後に始まった『ミスマッスル』に参加した――というか、参加させられたデリアは……すっごくふくれっ面だった。

 不貞腐れてるなぁ。ボイコットこそ、しなかったけれど。

 

「すごい、ね……なんだか、でりあさんが、小さく見える……」

 

『ミスマッスル』の参加者は、みんな凄まじい筋肉を持っていた。

 メドラほどとまではいかないが、メドラと並んで狩りが出来そうな出来上がった体つきだ。

 

 そんな中に混ざると、本業じゃないデリアは一回りくらい小さく見える。

 腕や足にも丸みがあって、すごく女の子らしい体つきに見える。

 周りの女性たちは、筋肉が発達しまくりで丸というより四角いシルエットになっている。

 

 そして、「筋肉こそ最高の美!」とでも言わんばかりに筋肉を見せつける衣装なもんだから、みんな薄着なのだ。

 ひらひらした服を着ているのはデリアとメドラくらいなもので、一層目立っている。

 

「でりあさん、かわいい」

「そうだな。この中にいると、すっげぇ女の子だな」

 

 可愛さを競うなら、デリアがダントツで一番だ。

 筋肉美を競うならメドラかもしれないが。

 

「デリアとメドラの一騎打ちかもな、今回は」

 

 と、何気なく呟いたその声が聞こえたようで、デリアとメドラの瞳が「きらーん!」と輝いた。

 

「よぉし、勝負だよ、デリア!」

「望むところだ!」

「それじゃ……『可愛いポーズ』! さん、はい!」

 

 メドラの合図で、デリアとメドラがそれぞれ「自身の思う可愛いポーズ」をとる。

 デリアは、軽く握った拳を頬に当ててぶりっこのポーズ。

 オメロをはじめ、四十二区川漁ギルドの数名が目を回して倒れた。

 

 メドラは、親指を軽く噛んで体をS字にくねらせてセクシーなポーズ。

 区もギルドも関係なく、直視した男性客が数十名真っ青な顔で倒れた。

 

 うん。殺傷力はメドラの勝ちだな。

 

「ダーリン!」

「ヤシロ!」

「「どっちが可愛かった!?」」

「ごめん、俺、審査員じゃないんで」

 

 審査員に聞いてください。

 

「は~いはいはい☆ 審査の前に、私にもアピールさせてぇ~☆」

 

 水槽の中で挙手をしていたのは、特別参加枠のマーシャだった。

 ……特別参加枠って。

 海漁ギルドのお願いは断りにくいもんなんだろうな、きっと。

 

 運営委員に押してもらって舞台中央に出てきたマーシャは、白く柔らかそうな腕を曲げて、人差し指で二の腕のお肉を裏側から押し上げた。

 

「ちからこぶ~☆」

 

 小学生がよくやるやつだな。

 そんなことを恥ずかしげもなく出来てしまうのがマーシャだ。

 そして、そんなあざとい行為が、また可愛いんだ。

 

 見ろ。

 観客の男どもがメロメロになってる。

 

「チカラコブって……かっ、かわえぇ~!」

「今のは反則だ……可愛くないわけがない」

「アンコール! アンコール!」

 

 観客を巻き込んで、そんな大盛り上がりを見せたマーシャのアピールは、審査員に高く評価され――

 第一回『ミスマッスル』は、たいしてマッスルの目立たないマーシャが掻っ攫っていった。

 可愛けりゃいいって?

 じゃあ、『ミスマッスル』ってなにかね?

 

 次回は、もっとちゃんと審査基準を設けないとダメかもしれないなぁ……

 

 そんなことを思いながら、午前の部は終了した。

 

 

 

 

 

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