異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加27話 開会式の前に~Bloomers~ -2-

公開日時: 2021年3月30日(火) 20:01
文字数:3,673

「ヤシロさん。ジネット」

 

 とことこと、ベルティーナが歩いてくる。

 ……いつもの服だ。

 

「あら、ジネット。可愛い結び方ですね。それはヤシロさんが?」

「はい。結んでくださいました。……あ、いえ。結んでいただきました」

 

 俺が進んでそうしたのではなくジネットの方から催促したのだというニュアンスを含んだ言い回しにあえて言い直す。

 そういう「悪いことをした」みたいな感じがくすぐったくて楽しいのだろう。

 母娘揃って似たような顔で笑みを交わしている。

 

「シスターは参加されないのですか?」

「私は、運動は苦手ですから。それにその……その服は、ちょっと……」

 

 どうやら、ブルマがNGだったらしい。

 絶対似合うのにっ!

 

「それに、応援席の子供たちを見ていなければいけませんから」

 

 と、ガキのせいにして体よくブルマを断るベルティーナ。

 絶っ対似合うのにっ!

 応援や子守りなら、ブルマでだって出来るのに!

 

 ベルティーナって、シスター服以外、ホント着てくれないよなぁ…………いや、でも、川遊びの時は水着着てくれたし……ラッシュガード付きだったとはいえ……一応、さりげなく押しておくか。

 

「まぁ、みんなで楽しくわいわいやるのが目的の大会だ。参加したくなったら飛び入りで参加すればいいさ。一緒になって騒ぐのは楽しいし、ガキたちもベルティーナと一緒に跳んだり走ったりしたいだろうしな」

 

 と、競技への参加が難しそうな幼いガキどもがいる観客席を指差して言う。

 ガキどもは、運動会の準備が行われているグラウンドを見てぴょんぴょん跳ねていた。参加しているつもりになっているのだ。

 なんとも楽しそうな顔をあちらこちらに振りまいている。

 

「くす……」

 

 はしゃぐガキどもを見て、ベルティーナが笑いをこぼす。

 

「そうですね。では、機会があれば」

 

 そう言って、覚束ない足取りでグラウンドに出て行こうとするガキを止めるために応援席へと戻っていった。

 確かに、お目付け役は必要かもな。けど、それは別にベルティーナじゃなくてもいい。寮母のおばちゃんたちだっていいのだ。

 

 だから! どうか! ベルティーナに! ブルマを! ねぇ!

 

「なにか、邪な目でシスターを見ていないかい、ヤシロ?」

「ダメだよ、ヤシロ。シスターをそんな目で見ちゃ! 怒られちゃうんだからね」

「ヨコシマはダメだぞ、ヤシロ!」

 

 不条理なる運命とかいうヤツをねじ曲げてやろうと念を送る俺のもとへ、各組のリーダーたちが集まってくる。

 青組のエステラに、黄組のパウラ、そして赤組のデリアだ。

 もちろん、全員体操服。すなわち、ブルマ!

 

「みんな、今日は一段と可愛いなっ」

「ふなっ!?」

「ど、どうしたのヤシロ!? そ、そんなはっきりと……いや、嬉しいけど、でも……」

「あっ、あたいっ、可愛いのか!? そっかぁ……へへ」

 

 みんなが照れて、ブルマから覗く太ももと太ももがすりすり擦り合わされる。

 いいね! 挟まれたい! 巻き込まれたい!

 

 ……で、たぶん、デリアは『邪(よこしま)』の意味を理解していない。

 縦縞じゃない方、って思っているに違いない。

 

「あっ! なんかロレッタが鉢巻を可愛い結び方してる!」

 

 パウラが目敏く発見し、声を上げる。

 エステラたちの注目がロレッタに注がれ、得意気な表情をさらす――いや、見せつけるロレッタ。

 だが、次の瞬間、その背後に並ぶジネットとマグダに視線が掻っ攫われる。

 

「ジネットちゃん、どうしたのそれ!? すごく可愛い!」

「おいマグダ! それいいな! どうやったんだ、あたいにも教えてくれよ!」

 

 ロレッタをスルーしてジネットとマグダに詰め寄る各組リーダーたち。

 ロレッタ、ぽつーん。

 

「スルーしないでです! あたしのも可愛い結び方ですよ!?」

「ホント、可愛い結び方よね、ロレッタ」

 

 腕をぶんぶん振って抗議するロレッタのもとへ、ネフェリーが歩み寄っていく。

 

「私、ロレッタのマネしようかな? マグダやジネットのは、ちょっと可愛過ぎるしね」

「ですよね!? これくらいがちょうどいい塩梅の可愛さですよね!?」

 

 慰める意味もあったのかもしれないが、可愛『過ぎる』というのは理解が出来る感情だ。

 キャラと可愛さはきちんと合わせる必要があるのだ。ギャップとアンバランスははき違えられやすいが、まったくの別物だと認識する必要がある。

 

 ジネットが露出多めのセクシーな衣装を着ればギャップだが、メドラがフリル満載のひらひらふわふわロリータドレスを着てもアンバランス……いや、視覚的凶器と言える。

 その二つはまったくの別物なのだ。

 

 ……に、しても。

 

 ネフェリー、足綺麗だな。

 細過ぎず太過ぎず。いや、ちょっと細めか。もう少しむちっとしていてもいい感じなのだが、ネフェリーの場合脚のアウトラインが綺麗だからバランスがいい。それに股下も長いし、ホント、モデル体型なんだよなぁ…………顔、ニワトリなのに。

 

「ちょっ!? ……もう、ヤシロ! どこ見てるの? エッチ」

 

 べっ! と舌を覗かせて太ももを手で隠す。

 そんなことより、クチバシからのアッカンベーって、やっぱ衝撃映像だよな。たまに見るけど、全然慣れる気配がないもん、俺の心臓。

 

「ちょうど、各組のチームリーダーがお集まりのようですね」

 

 運動会の会場となるグラウンドで着々と準備が進む中、総指揮を執っているナタリアが俺たちのもとへとやって来る。

 

 紺色のブルマを華麗に着こなし、ほどよい肉付きの脚を惜しげもなく見せつけ、存在感たっぷりに揺れる胸元も誇らしげに、背筋を伸ばして歩く姿は二足歩行を行う全生物の理想型とも呼べる歩き方だ。

 

「ふぅ……今日はお天気がいいので、いつもより揺れますね」

「天気関係ないよね!? 無理やり揺らそうとしないでくれるかい、ナタリア!」

 

 主を盛大に煽っていくスタイルは今日も顕在か……

 黙っていれば、完璧な給仕長なんだけどなぁ、あいつ。

 

「間もなく準備が完了します。開会式は予定通りの時刻から始められます」

 

 区民運動会は十時から始まる。

 五時起き、六時起きが当たり前の四十二区にとっては、ゆっくりとした予定だ。

 あんまり詰め込み過ぎると、事故になりかねないからな。

 

 ちなみに、ナタリアは鉢巻を輪っかにして首にぶら下げている。ネクタイを緩めたような形だ。本番まではそんな感じなのだろう。

 割と少なくない人数がナタリアのように鉢巻を首から提げている。

 ここ一番って時に締めてこその鉢巻なのだろう。

 もしくは、単純に頭に何かを巻くことに慣れていないから違和感があるのかもしれないな。

 

 ノーマもそんな中の一人だ。

 

「ナタリア~。得点掲示板の設置、完了したさよ~!」

 

 仕事の完了を告げつつ、遠くからやって来るノーマは……えんじ色のブルマ!

 すらりとしているのにむっちりといい肉付きの、光さえも弾き飛ばすような弾力を視界に叩き込んでくる完全無欠の太ももは、まさに視覚兵器と呼ぶべき色香と美しさを辺り一帯に振りまき会場の視線を無条件に引き寄せている。

 

「すみませーん! この店、延長って可能!?」

「落ち着くさね、ヤシロ……アタシにいくらの値を付ける気か知らないけれど……店じゃな・い・さ・よっ」

 

 煙管が俺のノドを的確に突いてくる。

 ごふ……お前っ、ノドはやめろ、ノドは……いや、店とか言って悪かったけども!

 だって、似合い過ぎているのだもの! 決して学生には見えないのに、物凄くよく似合っているのだもの! 思わず『ご指名』したくなるほどに!

 

「やっぱブルマっていいな! 健康的で! 健全で!」

「とてもそうは思えないさね……あんたの緩みきった顔を見ていると、特にね」

 

 やや怒ったような口調ながらも、少し照れて煙管に火をつけるノーマ。

 すぱすぱと、いつもより早いテンポで煙をふかしいている。

 

 そうやって照れるのも込みで、ブルマって素晴らしい!

 もう、みんなのブルマ姿をじっくり観察して、一人一人、事細かに記録として文書に残したい気分だ!

 

「ダ~リ~ン! 見ておくれよ、アタシの体・操・着☆」

「さぁ! 本番に向けて気合いを入れよう!」

 

 速攻で視線逸らしたよね。

 アレを直視するくらいなら、望遠鏡で太陽を直視する方がマシだ!

 え、目が潰れる? はっはっはっ。……目が頭もろとも吹き飛ぶよりマシだろ?

 

 つか、なんでお前がブルマを穿いているんだ!?

 ちゃんと、お年を召して「生足はさすがにちょっと……」というご年配のために長ズボンも用意してあるだろうが!

 むろん、用意すると決まった直後から「脚の動きが阻害されてブルマで走るより成績は落ちるだろうけどな」ってことを念入りに触れ回ったけども! だってそう言わないと、みんな長ズボン穿きそうだったから!

 

 これはあくまで、記録にも期待できないし、生足はちょっと……っていう大人女子&ご年配の方に対する配慮、それだけの代物だ! 長ズボンなんかこの世からなくなったっていいくらいの代物だ!

 みんな、ミニスカかブルマで生活すればいい!

 

「ダ~リンちゃん。オシナもぶるまぁ穿いてきたのネェ☆」

 

 …………ほほぅ。

 これはこれでなかなか……

 

「ヤシロさん。お顔がゆるんでますよ」

 

 隣から伸びてきたジネットの指に、頬を軽く摘ままれた。

 いかんな。さっきから表情筋がゆるみっぱなしだ。

 

 いやぁ~、運動会企画してよかった。

 

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