異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加100話 ぐらんぷり! -1-

公開日時: 2021年4月6日(火) 20:01
文字数:2,174

「――というわけで『ミス料理上手』準グランプリは、四十二区金物ギルドのノーマさんです!」

「「「お嫁さんにしたい!!」」」

 

 いつものなんちゃって和装を脱ぎ捨てて、藤色の艶やかなドレスを身にまとったエプロン姿のノーマが、淑やかにぺこりと頭を下げる。

 会場の、特に四十一区の男たちが大騒ぎだ。

「あの娘は誰!?」

「なんて名前!?」

「彼氏はいるのか!?」

「どうなってるんだ、あの色気!?」と、情報収集に躍起になっている。

 

 どうやら、大食い大会の時のチアガールリーダーだとは思われていないらしい。

 雰囲気が違うからなぁ。

 今日のノーマは、『ザ・淑やか』だ。

 

 そして、四十一区ではそういう大人な女性が人気なようで――

 

「まさか、店長が準ミスにも選ばれないなんて思わなかったです」

「……四十二区では考えられないこと」

 

 ロレッタとマグダもショックを受けている。

 当の本人は、料理の出来に満足がいっているらしく壇上でにこにこしている。ノーマに拍手を送ったりして特段気にしている様子は見えない。

 

「グランプリには、きっと裏の事情で謎の力が働いていたに違いないです」

「……審査員は賄賂と権力に弱いもの。嘆かわしい」

 

 まぁ、そう言いたくなる気持ちも分かる。

 なんたって、グランプリを獲得したのが、四十一区のはんなり美魔女オシナなのだから。

 

 ……実際、素敵やんアベニューの大看板を背負うことになる『サワーブ』の店長だからな、宣伝のために加点があった可能性は否定できない。

 もっとも、審査員が四十一区のオッサンどもだったので、ジネットのようなピュアな可愛さよりも、オシナやノーマのような大人な妖艶さが評価されたって部分が大きいのだろうが。

 

 というか、だ。

 

「お前が審査員の買収にとやかく言うなよ、マグダ」

「……マグダは純然たる審査の結果、グランプリを受賞した」

 

 あぁ、そうだな。

 トルベック工務店と砂糖大根農場が特別スポンサーについた『ミスキュート』でぶっちぎりのグランプリだったよな。

 あからさまにスポンサーの意向が働いていたように見えたけども、純然たる審査の結果ぶっちぎりでグランプリだったよなぁ。ぶっちぎりで。

 

「お兄ちゃん……このミスコン、第一回目にしてすでに腐敗してるです」

「美しさは最高のステータスだからな。血眼になる層が一定数いるんだよ」

 

「ミス○○愛用!」とか「ミス○○の美しさの秘訣」とか、「ミス○○と□□体験」とか、集客力を高めるにはうってつけの看板になるとこだろうよ。

 

「これで、オシナの店は当面閑古鳥とは無縁になるだろう。忙し過ぎてオシナが音を上げそうだ」

 

 オシナ好みのゆったりとした営業方針は、このグランプリで少々狂うことになるだろう。

 打開策は……店先にメドラを置いておくとか? わぁ、効果絶大。

 

「あ、戻ってきたです! 店長さ~ん!」

「みなさん、ただいま戻りました」

「……店長は健闘していた。審査員に見る目がなかっただけのこと」

「そんなことないですよ。オシナさんもノーマさんも、とっても綺麗でしたから」

「店長さんだって、すっごく綺麗です!」

「うふふ。ありがとうございます」

「……試食までが審査範囲なら、絶対に勝っていた」

 

 今回の審査は『料理を作る姿』までで、完成品の味は対象外だった。

 確かに味なら負けないかもしれんが……

 

「すまなかったな、ジネット。俺のせいだ」

「どうしてヤシロさんが? ヤシロさんに責任なんてありませんよ」

 

 いいや、俺が悪い。

 ミスコンの前に教えた料理が……モツ鍋だったんだから。

 

 そりゃあ、覚えたての料理を作るよな、ジネットは!

 だって、作りたい病を発症してんだもん!

 今、めっちゃ作りたい時期なんだよ、こいつは! 試行錯誤が楽しくて仕方ないんだ。

 

 けどな、ジネット。

 アレの調理過程は……知らないヤツにとっては衝撃的過ぎるんだよ。

 

 予選や、本線で入場したところまでは、ジネットだって優勝候補の一人だったんだ。

 観客のどよめきでそれくらい察しがつく。

 ちょっと背伸びした感じの今日の衣装も、ドレスというほど華美ではないにせよ、朗らかな笑顔がトレードマークのジネットをよく引き立ていて十分魅力的だ。

 

 だからこそ。

 第一印象がよかったからこそ……内臓の登場に悲鳴が上がったんだよ。

「こんな可愛らしい娘が一体何を!?」ってあの空気。……正直、頭を抱えたね。

 料理のことだからジネットに任せっきりで、一切話を聞かなかった俺が悪い。

 

 清純そうで笑顔が素敵な可愛い美少女が、持参した樽の中から牛の内臓を引きずり出し、そこに大量の塩をまぶしてガッシガッシこすり始めたら……初見の人はドン引きだよな。

 水を捨て、小麦粉をまぶし、もみもみごしごし。臭みが取れていくのを実感し、完成した時のあの美味さを思い浮かべていたのか、でろぉぉぉ~んとした内臓をこすりまくっている時のジネットは終始にこにこ顔だった。

 

 

 

 笑顔で内臓をこすり倒す美少女。

 

 

 

 ……な? 引くだろ?

 

「せめて『ふわとろタマゴのオムライス』を直前に教えておくんだった……っ」

「えっ、それはどんな料理なんですか? わたし、作ってみたいです!」

「もう遅いわ!」

「いえ、コンテストとは別に」

「あたしも食べたいです!」

「……マグダはすでに予約済み」

 

 くそう……

 オムライスのタマゴをうまく載せて、「上手に出来ました」って嬉しそうにジネットが笑っていれば、きっと今回の結果も変わっていただろう。悔やまれる。

 

 

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