異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加44話 お弁当お弁当嬉しいな -2-

公開日時: 2021年4月1日(木) 20:01
文字数:2,488

「ではみなさん。そろそろお弁当を開けますよ」

 

 全員が揃うのを待っていたらしいジネット。

 群がる人々の顔をぐるりと見渡して、そして最後に俺を見た。

 

「お弁当は、開けた時のわくわくも大切ですからね」

 

 誰に入れ知恵されたのか、そんなことを俺に言う。

 妙に嬉しそうな顔で。

 なんだ? それでまた「ヤシロさんみたいになっちゃいました~」とか言うつもりか? まだまだ甘ぇっつの。

 

 にこにこ顔のジネットが弁当に手を添えると、皆が一様に固唾を飲む。

 大勢に見守られながら、弁当の蓋が開かれる。

 

「「「おぉ……っ」」」

 

 野太い感嘆の声が漏れる。

 まずお目見えしたのは、色とりどりの俵型のおむすび。

 お弁当といえば俵型、と思ってしまうのは女将さんの影響なんだろうな。

 とりあえず、ジネットにその概念は引き継いでおいた。ほら、三角よりもぎっしり詰められるしな。

 

「「「わぁ~!」」」

 

 女子たちが歓声を上げたのは、色味も楽しい野菜たちだ。

 アスパラのベーコン巻き、レンコンの挟み揚げ、ほうれん草のおひたしの海苔巻き、プチトマトが鎮座するポテトサラダ。マカロニなんかも作って入れてある。

 

「「「よっしゃあー!」」」

 

 比較的年齢の高いガキどもがガッツポーズを見せたのは肉に対して。弁当の中が真っ茶色だ。これは若い男には堪らないパンチ力だ。

 ごろっとした唐揚げは、どこの世界でも男子の胃袋を鷲掴みにするらしい。

 

 それから、ミニハンバーグやミートボール、玉子焼きといったド定番のおかずが次々お目見えして、レジャーシートの上のボルテージは上がり続けていく。

 そしていよいよ、今回の隠し玉。

 海漁ギルドの全面協力で実現した夢のお弁当。

 

「エビフライ尽くしです!」

 

 ジネットが蓋を開けると、ガキを筆頭に歓喜の声が轟いた。

 弁当箱の中にびっしりとエビフライ。

 しかも、マーシャ厳選の車エビだ!

 コレ一尾で2000円くらい取る洋食屋だってありそうな、実に見事なエビフライなのだ。

 それが、もう、これでもかと。

 

「エビフライはマーシャが、唐揚げはネフェリーが材料を提供してくれたんだ。みんな礼を言っておけよ」

「「「「ありがとー!」」」」

「「好きです…………いや、エビが」いや、唐揚げが」

 

 感謝の言葉に紛れて、ヘタレ男の――甲高い魚の声とチャラいアイメイクタヌキの声が聞こえたが……まぁ、無視しておこう。ネフェリーには聞こえてないだろうし、耳のいいマーシャには聞こえたかもしれんが聞こえなかったことにしたみたいだし。

 

「ではみなさん、召し上がってください!」

「「「「いただきまーす!」」」」

 

 ジネットの声を合図に、それぞれが弁当へ手を伸ばす。

 陽だまり亭の面々や、ノーマ、それから給仕たちがそれぞれの取り皿におかずやおむすびを取り分けてくれている。

 我慢できない連中が手近な物に手を伸ばす。

 

「うっま! え、なにこれ、うまっ!?」

「おむすび、何か混ぜてある! うまー!」

 

 おむすびには、いつものサケフレーク以外にいろいろ混ぜておいた。

 高菜やじゃこを使ってふりかけを自作しておいたのだ。酒や味噌を使えばいろんな風味になるし、バリエーションはいくらでも出来る。

 最後の方はジネットが面白がってすげぇいろんな種類のふりかけが出来ていた。

 なので、おむすびの種類は物凄い豊富なのだ。

 

「鮭、最高だな!」

 

 うん。お前はそうだろうよ、デリア。

 

「ヤシロ! これ! この菜っ葉はなんだ!? ウチの野菜か!?」

「高菜だよ」

「高菜かぁー! アレがこうなったかぁー!」

 

 高菜おむすびにテンションを上げるモーマット。

 そんなデカい声を出して、「これ、ウチの野菜なんっすよ」アピールかよ。

 

「おいおいおい、ヤシロ! こっちのやたらと美味ぇ肉は、もしかしなくても俺たち狩猟ギルドが狩ってきた魔獣の肉か!?」

「残念だな、ウッセ。そいつは牛肉のしぐれ煮だ」

「はぁーっはっはっはっ! 惜しかったな狩猟ギルド! こいつはオレたちの牛肉なんだとよぉ!」

「ちぃ! ヤシロ! 魔獣の肉を食わせろ! 牛なんかよりもっと美味いヤツを!」

 

 争うなよ、弁当くらいで。

 魔獣の肉は特に手を加えなくても美味いから凝った料理にしてねぇんだよ。

 このしぐれ煮だって、魔獣の肉と並べて見劣りしないようにって俺とジネットがアイデアを出し合って完成させた逸品なんだぞ。

 

「ほれ、魔獣の串焼きだ」

「美味ぇ!? なんだこれ!? ボナコンか!?」

「……違う。それはマグダが狩ったイノポーク」

「ウッセさん、味が一切分かってないです」

「ふははは! 言われ放題だな、ウッセ!」

「……と、茄子と肉の区別がつかないバカ舌のリカルドが言っている」

「どの口が言うですかね?」

「がはは! あんたも形無しだねぇ、リカルド!」

「う、うっせぇメドラ! 黙って食え!」

「……じゃあ、あんたも黙って食ってくださいっつの」

「なんか言ったか、ウッセ?」

「いいえ! あー魔獣の肉は美味ぇなぁー!」

 

 狩人の群れがわいわいと楽しそうにやっている。

 つか、メドラは相変わらず小食なんだな。取り皿にはサラダが少しとおむすびが一つ載っているだけだ。

 

「メドラ、それだけで足りるのか? 遠慮するなよ」

「ダーリン、優しい! 新婚生活って、こんな感じなのかねぇ……ぽっ」

「はっはっはっ、メドラ~。『たくさん食えよ』なんて、養豚場のオッサンがブタに対して言ったりするありふれた言葉だぞぉ~」

「でも、あんまり食べちゃ……太っちゃうから(ちらっ)」

「バカだなぁ。ちょっと太ったって、メドラはメドラじゃないか(=そんな些末なマイナスポイント誤差だ、誤差。仮に50キロくらい太ったって気付かないかもな、元がもういろいろとすご過ぎるからな!)」

「ダッ、ダーリンが、『太ったって痩せたってメドラはメドラだろ(≠そんなこと関係なく、俺はどんなお前だって愛しているぜ☆)』って! ……ちょっと向こうで鼻血吹いてくるっ!」

 

 メドラが周りにいたオッサン数名を巻き込んで飛び出していった。

 よかった、ここで吹かれなくて。

 

「ヤシロ……お前、ママを弄ぶなよ……」

「ウッセ。『じゃあ、お前が責任を持って俺への接触を食い止めてみろ』」

「無茶言うな! 俺百人が百回死んでも無理だ!」

 

 弄んでんじゃなくて、うまくかわしてるんだよ。

 

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