異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

213話 協力者たち -2-

公開日時: 2021年3月21日(日) 20:01
文字数:2,571

「やっほ~☆ 遊びに来たよ~☆」

 

 ドアが開き、中華の香りが外へと逃げていく。

 店に入ってきたのはマーシャとデリアだった。

 

「随分早かったね」

「うん☆ デリアちゃんが迎えに来てくれたから」

「ちょうど三十五区まで行く用事があったんだよ。そしたら偶然マーシャに会ってさぁ」

 

 それで、これ幸いと連れてきてもらったらしい。

 しかし、デリアはちょいちょい三十五区に行っているようだが、何をしているんだ?

 そもそも、デリアとマーシャはどこで知り合ったんだろうか。

 

「三十五区の川漁ギルドのギルド長がさ、あたいの親父の弟子でさ。あたいが子供の頃から知ってんだよ」

「弟子って……師匠の方が格下の区にいたのか?」

「ヤシロ……格下って…………まぁ、事実だけどさ」

 

 エステラがぷくっと頬を膨らませる。

 いちいち気にするなよ、そんなもん。

 

「親父は四十二区の川を気に入ってたからなぁ。野性味溢れるってよく褒めてたよ」

「……ごめん。それは、他の区ほど整備されていないということなんだろうね」

 

 だから、いちいち気にするなってのに。

 そのおかげで、デリアみたいな使えるヤツがここにいてくれるんだからよ。

 

「なんかさ、水不足で川の水位が下がってるみたいでさぁ、農水池に水を送る用水路が干上がってんだってさ。で、なんかいい方法はないかって聞かれたんだけど……なんかいい案ないかなぁ?」

「それ前に解決させたよな、四十二区で!?」

「ん?」

「忘れたのか!? 足漕ぎ水車を作ったろ!?」

「あぁ! アレ面白いよな! 今でも子供らがよく遊びに来てるぞ」

「遊具じゃねぇんだ、アレ!」

 

 こいつ……水不足が一段落したせいで、すっかり足漕ぎ水車本来の目的を忘れてやがる……川の水位はまだ元に戻ってねぇだろうが。

 

「じゃあ、今度ウチの川に来てもらえばいいか」

「そうだね。なんなら、足漕ぎ水車をルシアさんに紹介してあげるよ。買ってもらえばウチも助かるしね」

 

 しれっと、足漕ぎ水車の権利を自分のもののように言っているが、エステラよ、報酬は寄越せよ? うまい思いしたのなら、それに見合うだけの、な?

 

「あ、そうそう。ルシア姉っていえば~」

 

 マーシャがぱしっと手を叩き乳を揺らす。

 

「……ヤシロ。めっ」

 

 くっ。

 最近鋭くなってきたな、マグダ。

 

「ルシア姉からも、ヤシロ君に伝言預かってきてるよ~☆」

「俺に?」

 

 エステラへの伝言なら、なんとなくありそうなもんだが、ルシアが俺に?

 なんだろうか、想像がつかない。

 

「『ハゲろ、カタクチイワシ』だって~☆」

「どうでもいい伝言を持ってくるな!」

「絶対伝えてくれって言われてたからぁ~☆」

「あいつは俺に何を伝えたかったんだ!?」

「『構ってくれなくて寂しい』ってことじゃないのかなぁ~☆ ねぇ~☆ にやにや☆」

 

 何をにやにやしてやがんだ。

 ルシアがそんなことで寂しがるかよ。

 大方、俺たちが二十四区で『宴』を開催するって聞いて、「そういえば二十四区の教会には獣人族がわんさかいるんだったな……おのれ、なぜ私を呼ばない!? カタクチイワシめ!」みたいなことに違いない。……重症だな、どいつもこいつも。

 

「領主は変人ばっかりだな」

「「一緒にするなっ」」

 

 エステラとリカルドが声を揃えて言う。

 そして、エステラが物凄く嫌そうな顔をした。お揃いが不服らしい……ぷっ。

 

「お魚は、表の水槽に入れてあるからねぇ~☆」

 

 デリアにお姫様だっこされながら、マーシャが表を指差す。

 店内に入る時はいつも水槽付き荷車から降りているマーシャ。まぁ、デカいからな、こいつの荷車は。

 そこに魚が入っているということは……

 

「マーシャと混浴していた魚たちか…………エキスが……っ!」

「刺すよ?」

「殴るぞ?」

 

 おぉう!?

 エステラの「刺すよ」は、もはやお約束のギャグっぽいのだが、デリアの「殴るぞ」はマジでシャレにならん。なぜデリアまでもが、そっちの立ち位置に。

 

「お待たせしました、麻婆茄子です!」

 

 意気揚々と、ジネットが麻婆茄子を運んでくる。

 そして、有無を言わさずリカルドの目の前へと置く。うん。食えってよ。そして、金を払えってよ。

 

「……ちっ。頼んでもねぇもんを……まぁ、今回はこれで我慢してやる」

 

 そんな悪態を吐いてリカルドが麻婆茄子を一口、口へと運ぶ。

 

「――んっ!? 美味ぇ!」

 

 思わず漏れたのであろうリカルドの言葉に、ジネットが手を合わせて喜ぶ。

 今回の味付けは自信があったようだ。

 

「歯応えこそねぇが、こいつはぴりっと辛くて美味ぇな!」

 

 がつがつと流し込むように麻婆茄子を搔っ食らうリカルド。

 頬をぱんぱんに膨らませてもっしゃもっしゃと咀嚼している。……行儀の悪い食い方だな。野性味、溢れ過ぎだろう。

 

「しかし、ジューシーで美味いな! なぁ、この黒いのは何肉だ?」

「え…………あの……」

 

 ジネットが視線で助けを求めてきたので、「言っていいぞ」と首肯で返す。

 

「それは……茄子、です」

「「「「ぶふぅー!」」」」

 

 エステラとマグダとロレッタ、そしてマーシャが一斉に吹き出す。

 

「な、茄子を『何肉だ』って…………ば、バカ舌がいる……っ!」

「……舌までバカ」

「ちゃんと野菜食べないから味が分からなくなるですよ」

「あぁ~、私も茄子肉食べたいなぁ~☆」

「やっ、やかましいぞ、テメェら! しょうがねぇだろ! 初めて食った料理なんだからよ! それに、肉の味もしてるし! 見た目も肉っぽいし!」

 

 牙を剥いて怒鳴り散らすリカルドだが、顔が真っ赤だ。

 見た目、肉っぽいかぁ~? くすくすくすっ。

 

「ミンチ肉が入っていますので、お肉の味はしますよね。それに、肉汁もたっぷり入っていますし」

「だよな! な! だから、茄子と肉を間違うこともあるよな!?」

「え…………あの……わたしは、その……本業、ですので」

「ジネットちゃん、遠慮しないで『ないよ、バカ舌』って言ってやっていいよ」

「そんなことは……」

「ねーよ、ばーか」

「お前が言うな、オオバ! 折角の店長の心遣いを踏みにじんじゃねぇよ!」

 

 まさか、茄子と肉を間違えるとは……

 どこかの寺がやってる『お肉みたいな精進料理』とか食わせたらコロッと騙されるだろうな、こいつ。

 

「け、けど、お口に合ったようでよかったです」

 

 ジネット必死のフォローにも、リカルドは赤い顔のまま肩を落としている。

「専門分野なら間違わねぇよ……野菜とか、専門外だっつうの……」とか、往生際悪くぶつくさ言っているが、その専門分野と間違ったんじゃねぇかよ。

 

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート