「さぁさ、ご注目ですよー!」
マグダが準備をしている間に、ロレッタは早々と屋台を開けた。
ロレッタのはこの場での調理が必要ないからな。
「新しいパン、食パンを使った今世紀最大級の大発明! こちらが、サンドイッチでーす!」
じゃじゃーん! と、ロレッタが三角形のサンドイッチを掲げてみせる。
種類はハムチーズ、ハムレタス、タマゴ、ポテトサラダとなっている。
カツサンドを作ろうかとも思ったんだが、今回はフライヤーが別件で埋まっていたので諦めた。まぁ、もうちょっとサンドイッチがメジャーになってから登場させても、カツサンドなら埋もれることなく一気にスターダムに上り詰めることだろう。
「おいしい!」
「食べやすい!」
「なんか、ちょっとヘルシーな気がしない?」
「あ~……これ好きだぁ」
「タマゴ、うまぁ~」
サンドイッチを食べた者たちの反応も上々。
「これはパンの表面にハニーマスタードを塗ってあるです。ピリッと甘辛のソースがレタスやハムを一層美味しく引き立たせてくれてるですよ」
ロレッタの説明に、サンドイッチを食っている連中が感心したように頷いている。
あのぴりっとした刺激が食欲をそそって、いくら食っても飽きさせないんだよなぁ。
「でも、作るところ見られないから、なんか地味というか……」
「美味しいけど、華がないというか……」
「う~ん……普通?」
「普通言わないでです! 物凄く美味しいですよ、サンドイッチ!?」
パフォーマンスがない分、サンドイッチは確かにちょっと地味だ。
ただ挟んで切るだけとはいえ、これがなかなかどうして難しかったりする。
なので、調理は陽だまり亭で終わらせてしまったのだ。
食パンはどうせ大量に残るだろうと思って、こっそり妹にある程度の数を持って帰らせてな。
ロレッタだし、地味でもいいかなぁって。
で、会場に残った食パンはというと――これからマグダが使用する。
「……華のあるマグダプレゼンツの新商品。あてんしょんぷり~ず」
準備が整ったマグダが挙手をして注目を集める。
お前はスッチーか。どこで覚えたアテンション。
「まぐだちゃんは何をつくる、の?」
「あれは、ピザトーストだ」
「ぴざとーすと……」
「ピザですか!?」
にょきんっと、ベルティーナが俺とミリィの間から生えてきた。
……っくりしたぁ。
「ピザなのですか?」
「ピザみたいなもんだ」
「楽しみです!」
かつて食べたピザを思い出してか、ベルティーナの顔がにっこにっこと笑みを浮かべる。
「そんなに、おぃしいん、ですか?」
「はい、とても。私は、いまだにあの日のピザの味を忘れてはいません」
過去の記憶を呼び覚まし、ベルティーナのお腹がくるると鳴く。
……そろそろ二分目くらいにはなってるよな? なってる、よな?
鉄板の上では細切りのピーマンとベーコンが軽快な音を鳴らしている。
オーブンが間に合わなかったので、材料は先に火を通してしまうのだ。
分厚めにカットした食パンの両面を軽く火であぶりかりっとさせる。
その上にトマトソースを塗り、ピーマン、ベーコンを並べる。……あ、茹でコーンとか持ってきてる。アレンジしたな。まぁ、合うからいいけど。
で、その上にしっかりととろけてくれるチーズをたっぷり乗せて、松明の火でチーズがとろけるくらいにあぶる。
うん。ピザトースト用のオーブンは後日ちゃんと作ろう。
見てたら食いたくなってきた。いつでも気軽に食えるように、調理を簡略化したい。
となるとノーマの出番か……忙しそうなんだよなぁ……まぁ、頼めば絶対やってくれるだろうけど。
「……完成。ピザトースト」
とろけたチーズが印象的なその見た目に、歓声が上がる。
「……最初に食べたい人は……」
「はい!」
元気よくベルティーナが挙手をした。
そんなにか。
「……では、シスター」
「ありがとうございます!」
ぱたぱたと駆けていき、ピザトーストを受け取るベルティーナ。
早速かぶりつこうとしたので、先に忠告をしておく。
「ベルティーナ! チーズは熱いから、上あごのこの辺、前歯の裏側辺りを火傷するなよ!」
「大丈夫ですよ」
と言って齧りついたベルティーナ。
チーズがにょぃ~んと伸びて、観衆から息が漏れる。
そして、もぐもぐと咀嚼したベルティーナは……
「美味し過ぎます!」
その味に感動を覚えていた。
何度か見た光景ではあるが、「俺にもくれ」「俺も」「私も」と観衆が殺到する。
こりゃ店で出せりゃ大ヒットするな。
店で出せれば、な。
「ヤシロ。このピザトーストは今後陽だまり亭のメニューに加わるのかな?」
「今のところその予定はないな」
「なんで? すごく美味しいのに」
チーズをぅにょろ~んと伸ばしてエステラが問う。
「まず原価が高い。一斤60Rbもするパンを使うと、相応に値段が上がる」
ピザトーストに使うのは四分の一斤ではあるが、それでも15Rb。そこにチーズやソース、それに手間暇なんかを考えれば嫌でも値段は上がっていく。
無理して安く設定してしまえば、数が出た時に破綻しかねない。
「あと、供給の不確定さだな」
パンは、教会が定めた日にまとめて焼かれる。
それは毎日ではない。
このパンの売れ行きを見て、教会はパンを焼く日を増やすかもしれない。
だが、それでも毎日まとまった数を入荷するのは難しいだろう。
買いたいというヤツは他にもいるだろうし、毎回奪い合いになるような状況では、メニューに載せるのは難しい。
大量に買いだめ過ぎても、保存料もないこの街じゃそんなに日持ちしないしな。
「そっかぁ……残念だなぁ」
「家で作れよ。ピザソースとチーズがあればそれなりの味になる」
「そうか! じゃあピザソースを陽だまり亭で売ろう!」
「エステラさん。申し訳ありませんが、それは我々行商ギルドの領分なのですが?」
盛り上がるエステラに、いつからそこにいたのか、アッスントが苦笑を浮かべる。
「大丈夫! 領主が許可を出すから」
「おや? 我が聡明な領主様はこんなに残念な方でしたでしょうか?」
「なんだアッスント、知らなかったのか?」
「認めたくはなかったというところでしょうか」
「君たち、本人を目の前にして悪口を言わないように」
「よし、アッスント! ちょっとあっちに行って『ぺったんこー!』って言ってこようぜ!」
「本人がいないところでも悪口言うなぁ!」
「聞こえないように言うから。な、アッスント?」
「いえ、私は遠慮しておきます。それより――」
アッスントが商人の顔つきになる。
「あのピザトーストやホットドッグは本当に販売されないのですか?」
「パンの供給量はおおよそ予測がつくだろう?」
「そうですね……しかし、いやはや、残念です。私の好みの味でしたのに、ピザトースト」
アッスントが心底残念そうな顔をする。
こいつが飯の話で落胆するなんて初めてだな…………って、騙されるかよ。
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