「んじゃ、俺がちょっと変わったヤツを作ってやるよ」
「オーソドックスなものもお願いしますわ!」
「はいはい。ジネット~!」
「はぁ~い!」
俺が呼ぶと、ジネットが厨房から顔を出す。
そうだな。折角だから目の前で焼いてやるか。
「七輪を出してくれるか? 焼きおにぎりを作る」
「七輪で焼くんですか? なんだか楽しそうですね!」
ジネットが瞳をキラリと輝かせる。
「……ふっふっふっ。マグダの味を超えられるかな?」
事の発端であるマグダが不敵な笑みを浮かべて……つってもいつもの無表情ではあるのだが……俺のそばに寄ってくる。
「特に言うことないですけど、ふっふっふっ」
ロレッタがなんとなく乗っかってくる。面白そうなものに見切り発車で飛び乗るクセ直した方がいいぞ。いつか痛い目を見るからな。
で、結局。急遽、『陽だまり亭・焼きおにぎりフェア』が開催されることとなった。
ホント、ノリがいい店だよな、ここは。
そうと決まれば早速行動だ。
まずはおにぎりを作るわけだが……
あえて店内で握ってもらう。
握るのは、陽だまり亭が誇る三人娘、ジネット、マグダ、ロレッタだ。
「それくれ! 焼かなくてもいいから!」
「なんなら、ダイレクトで口に放り込んでプリーズ!」
「はぁぁぁん! マグダたんが握ったおにぎりっ! 天からの贈り物ッスゥゥウッ!」
アホどもの絶叫が示すように、大好評だ。
やっぱり、手料理ってすげぇんだな。
衛生面では少々問題あるだろうが……これはフェアだ。祭りみたいなもんだからな。大目に見てやろう。
それに、あの客どもなら何か問題が起こっても大丈夫、むしろ美少女の握ったおにぎりで腹を壊しても本望だろう。
うん。問題ない。
で、俺はというと、一人厨房に入ってせっせと味噌ダレを作っている。
味噌と酒を混ぜ合わせて……ん~、いい香りだ。
しょう油と味噌。この二つは米に合う!
しかも焼くと香ばしい、最高の香りを放つ。
焼きおにぎり界のツートップだ。
しょう油しか知らない無知なる民草どもよ、驚嘆するがよい!
意気揚々と、味噌ダレを持って食堂に戻ると……
「焼きおにぎりっ! 焼きおにぎりっ! 待ちきれませんわっ!」
不思議な舞を舞いながら、イメルダが七輪の周りをぐるぐる回っていた。
……おい、コラ。ミス・エレガント。
「わぁ、お味噌ですか。確かに、焦げたお味噌は美味しいですね」
味噌ダレを見て、ジネットが顔をほころばせる。
きっと、もうなんとなく味の想像がついているのだろう。
ここに柚子でもあれば、さらに風味豊かに出来るんだがな。
「ヤシロ! 鮭を持ってきてやったぞ!」
「デリア……お前は、いつ、誰からの要請で行動したんだよ」
なんだか、知らない間にデリアへ連絡が言っていたらしい。
まぁ、焼きおにぎりに焼き鮭がつけば最高だけどさ。
「お吸い物かお味噌汁を作ってきましょうか?」
「完全に定食だな」
「……レギュラーメニューに入る勢い」
「なんか豪華美味しそうです!」
奇妙な造語を作り、ロレッタも興味津々な様子だ。
レギュラーメニューね。…………ふむ。
「ジネット。お吸い物を頼む。薄めの味で、けど、しっかりと出汁は効かせてな」
「はい。焼きおにぎりは、少し味が濃くなりがちですからね。分かりました」
それもある。
味噌ダレに味噌汁では少しくどいだろう。
だが、狙いはそのもう少し先にある。
「とにかく焼くぞ! 素人は手を出すな!? 大火傷するぜ!」
「では、あたしは見守ってるです!」
「お前はプロだろう、ロレッタ!?」
「この前火傷して泣きそうになったです!」
「……泣いていた」
なんてドンクサイヤツなんだ。
いい機会だ、俺が教えてやる。
結局七輪をすべて稼働させて、大量の焼きおにぎりを焼くことになった。
……暑い。
だが、美味い飯のためだ。がまんがまん。
握る前に、しょう油ダレを混ぜて味を調えておいたおにぎりを金網へと並べていく。
その間に、味噌ダレの方へおにぎりをつける。両面から、内部に味噌が浸透するように、たっぷりと。
「むはぁぁぁ!」
しょう油が焦げた香りが店内に広がり、客から悲鳴が上がる。
確かに、これは堪らんな。
だが! そこへ、味噌ダレおにぎりを追加する!
「ぐわぁぁ! 胃が、胃が出てきちゃう!」
出すんじゃねぇぞ、怖いから。
「……おもむろに、マグダがひっくり返す」
「はぁああん! 今の瞬間、焼きおにぎりが神聖なる食べ物に昇華したッス!」
あいつ、うるさいから退場させてやろうかな?
「あたしも負けじとひっくり返すです!」
「おぉ、うまいうまい」
「反応が普通です!? もっと、『ぅおおおお!』とか『はぁぁぁん!』とか欲しいです!」
最早、客にまで浸透したロレッタ弄り。
中には、ロレッタのこの反応が見たくて足しげく通ってくる客もいるほどだ。
見た目に地味だが、ロレッタ人気も着実に根付いている。
「はぁぁっ、待ち遠しいですわ! 今日はお腹がぐぃんぐぃん鳴いていますわっ!」
大丈夫か、イメルダ?
腹が奇妙なことになってるけど?
「じゃあ、とりあえず、第一号をイメルダに食ってもらうか」
「いやですわ!」
断られた!?
「先ほど厨房に向かわれた店長さんがまだ戻ってきていませんもの! お腹一杯になった後で、また何か美味しいものが追加されるのは御免ですわ!」
なるほど。
一応アホの娘なりに学習はしたってことか。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!