「……白組必勝の作戦、それは………………『敵には負けるな』」
「ぅおおお!? すげぇ! その作戦なら絶対負けねぇじゃん! やるなぁ、チームリーダー!」
「おぉっと、いつものマグダっちょの『言ってやった』感満載のドヤ顔が出る前に、アホのバルバラさんがノリノリで食いついたせいで、なんかマグダっちょの意図していた感じにならずに、ちょっとマグダっちょが不機嫌そうです!」
「ん? 不機嫌そうか? いつもの無愛想じゃねぇか。なぁ?」
「…………」
マグダが心を開いてくれたのか、周りの人間のスキルが上がったのか、陽だまり亭の従業員はマグダの表情をかなり正確に読み取れるようになっていた。
ロレッタもやるもんだ。
バルバラにはその違いが分からんようだが。あ~ぁ、尻尾振り始めちまった。不機嫌な時の合図だぞ、あれ。
「がっはっはっ、マグダはすっかり人気者だな。あんなに尻尾を振って、楽しそうじゃねぇか」
「何言ってるんッスかモーマット。あれは不機嫌な時の可愛い尻尾の動きッス! 楽しい時はもっとピーンって可愛く尻尾が立つんッスよ!」
ウーマロも大したもんだ。いちいち「可愛い」が付くのがイラッてするが、伊達にこの一年半マグダだけを見つめていたわけじゃないな。
あいつも、一人の幼女を執拗に追いかけ回す変態予備軍を卒業して……
「立派なストーカーになったんだな」
「ストーカーじゃないッスよ!? これは純粋な憧れッス!」
「パーシーみたいなことを……やっぱりストーカーか」
「あんなんと一緒にしないでほしいッス!」
「あんなんってなんだしぃー、マジでぇー!?」
遠くの方でタヌキメイクの男が叫んでいるが、お前はどうせ東地区の青組応援団なんだろ? こっち見んな。今日は徹底的に無視してやる。
「ごめんごめん。ウーマロ『は』純愛だもんな」
「そうッス! オイラ『は』、穢れた心で愛を語ったりしないッス」
「ちょっ、あんたら、言葉選べし! オレだってチョー純粋だっつぅーの!」
はい。無視無視。
ウーマロがみだりにマグダに触れないのは、マグダを大切にしたいと思っているからだが、パーシーがネフェリーに触れられないのはただのヘタレだからだ。
「ウーマロは、パーシーみたいにはなるなよ☆」
「もちろんッスよ☆」
「むがー!」
「……なぁ。俺ぁ、ウーマロはもうちょっとマシな人種だと思ってたんだが……やっぱ、ヤシロはハンパねぇな……感染力が」
ん?
なんだモーマット?
お前も敵になりたいのか?
いいぞ、ぶっ潰してやる……運動会とはまったく別のベクトルで。物理的に、そして経済的に。
「さぁ、みんな! マグダたんが考えた最高の作戦で、勝利をマグダたんに捧げるッスよ!」
「意気込みは分かったが、ウーマロ、こっち向いて言えよ」
「いや、ヤシロさん。そっちには女性が多いッスから……」
誰もいない方向へ向かって拳を掲げ、吠えるウーマロ。
もうそろそろ、ジネットやロレッタくらい慣れればいいのに。
「……まぁ、ちゃんとした作戦も考えてある」
「あるのかよ!?」
つか、「ちゃんとした」ってことは、やっぱりさっきのはおふざけだったんだな。本人が認めやがった。
マグダ的には、チームリーダーとしてきっちり勝利したいという思いがあるようだ。
耳をぴんっと立てて、新たな作戦を口にする。
「……ヤシロを全裸で競技に参加させれば、多くの女子はまともに目を開けていられない」
「ほにゃ!? だ、ダダ、ダメですよ、そんなの!? だって……ヤシロさんがぜん…………も、もう! 懺悔してください、ヤシロさん!」
「なんで俺だ!?」
盛大に照れて、俺に向かって頬を膨らませるジネット。
立案者に言え!
つか、誰がやるか、そんな作戦!
「……では、代わりに店長を……」
「ふむ。詳しく聞かせてくれ」
「やりませんよ! もう!」
まぁ、マグダがジネットにそんなことさせるわけないし、冗談だよ。
だから……ちょっと期待したみたいな顔しやがったモーマットは、追々泣くような酷い目に遭ってもらう。……絶対に、だ。
「あの、ヤシロさん。マグダたんの可愛いおふざけは本当にご褒美で堪らないんッスけど……そろそろ作戦会議をした方が……ほら、オイラ、今ちょっとそっちの方は向けないんッスけど、あまり馴染みのない人もいるッスし……」
と、頑なにこちらを見ないウーマロ。
まったく、いい加減慣れろよなぁ……
「ここにいるのは、今日一日を共に戦う、心強い仲間たちなんだからよ」
そう言って、俺は背後に控える心強い連中にウィンクを送る。
「な、『みんな』☆」
「話が違います。私は、あなたがゲラーシー様を来賓として招待したいというからそのお供としてこの場所へ赴いたのですよ」
「私も同じです。我が二十三区と四十二区の友好の証にと領主様共々参ったのであって、このような展開は想定外です」
「まぁまぁ、いいじゃない☆ 私はこういうの好きだよぉ~☆ 混ぜてくれてありがとうね、ヤシロ君☆」
「ギルド長、こいつを甘やかしてはダメデスヨ。まったく……ギルド長の命令でなかったらワタシもお前に協力なんかしなかったデスヨ、カタクチイワシ!」
「まったくダゾ! オレは花火師の修行で忙しいんダゾ!」
「何言ってんだ、新入り。俺たちを花火と出会わせてくれた恩人の頼みだ。聞いてやるのが男気ってもんだろうが、なぁ?」
「そうですよ! それに俺、こういうの燃えるんですよねぇ、意外と」
「うむ! 燃えるのじゃ! わしはいっぱい一番を取ってやるのじゃ!」
「あはぁ……意気込むウチの妹……かわいいっ!」
「なんかよく分かんねぇですけど、大将に『やれ』って言われたから私も全力で協力してやるぜですよ!」
ずらりと居並ぶ美女たち+オッサン数名。
そう!
俺は昨日のうちに、方々に手を尽くして戦力をかき集めてきたのだ!
俺のそばから順番に、二十九区領主付き給仕長イネス、二十三区領主付き給仕長デボラ、海漁ギルドギルド長マーシャ、マーシャの命令で強制参加させられた元シラハの守護兵ニッカ、嫁(予定)であるニッカにつられて強制参加の元シラハ守護兵カール、カールの上司であり初代花火師のカブトムシ人族カブリエルにクワガタ人族マルクス、二十四区麹工場の天才麹職人リベカ、リベカの姉にして次期麹工場責任者ソフィー、そして二十九区領主の姉マーゥル付きの給仕係モコカ!
「私、バーサめも応援に駆けつけましたよ、ヤシロ様……いえ、マイ・ハ・ズ・バ・ン・ド」
「誰かー! 不審なバーサンが紛れ込んでるからつまみ出してー!」
「『ぶるまぁ』も、この・と・お・り☆」
「長ズボーン! 誰か長ズボン持ってきて! 早急に!」
……まぁ、戦力になりそうもないヤツも紛れ込んでしまったが……この際仕方ない。
ソフィーはあの巨大な鉄門扉を軽々と開閉できるくらいに凄まじい腕力の持ち主なのだ。
リベカの身体能力は、正直そこまで高くないが、ソフィーを担ぎ出すためには必要だったのでとりあえずチームに組み込んでおいた。
「このメンバーなら、勝機はあるっ!」
「お待ち願います、コ……オオバさん」
盛り上げて有耶無耶のうちに強制参加させようとする俺に、イネスが待ったをかける。
……つか、『コ』ってなんだよ? 何と間違ったら出てくるんだよ、『コ』。
『故オオバヤシロ』か? 縁起でもねぇ。
「なんだよ、E……イネス」
「……今、何と言い間違えました?」
ふふん。
これでおあいこだろうが。
「まったく……」と息を吐き、Eカップのイネスが改めて抗議を寄越してくる。
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