異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加101話 誰かを笑顔にすることが -4-

公開日時: 2021年4月6日(火) 20:01
文字数:4,153

「パウラ」

「は、はい!」

 

『ミス元気娘』の本番よりも緊張した面持ちのパウラ。

 気楽でいいから。

 

「ただ、パウラの賞はちょっと向こうと被っちゃったんだよなぁ」

「え? 元気娘と?」

「おう。『ミスふわふわ尻尾』だ」

「被ってないじゃない!?」

 

 だって、絶対向こうの審査でも尻尾の点数が高かったって!

 

「もう、……ヤシロは尻尾、好き過ぎ」

 

 そりゃだって、もっふもふですし。

 

「パウラのトレードマークだからな。そいつが元気に揺れてると、パウラは今日も元気なんだなって安心する」

「もう、無意識で動くところはあんまり見ないでっ。……けど、うん、そっか……トレードマークを気に入られてるって、ことなんだ……ふふ」

 

 ピンバッチを握りしめるパウラの尻尾が高知のよさこいを髣髴とさせる勢いで揺れ始める。

 おぉ~、喜んどる喜んどる。

 

「ネフェリー」

「待ってました。……なんてね」

 

 ペロッと舌を覗かせるネフェリー。

『ミス80年代』を授与したかったんだが……伝わらないからな。

 

「ネフェリーは『ミスオシャレ女子』だ」

「オシャレで受賞!? すごい! 嬉しい!」

 

 俺の周りで一番オシャレにこだわってるのがネフェリーだ。

 俺が商品の一例としてノーマに教えたアンクレットも、いつの間にか手に入れて身に着けてたしな。

 

「男が『女の子はこうあってほしいな』って勝手な妄想を具現化したら、ネフェリーみたいになるんだろうなって」

「ふぇっ!? そ、それって……理想の女の子、って、こと?」

「一般論でな」

 

 よく働き、家族と友人を大切にし、困った時には駆けつけてくれて、それでいてオシャレや可愛い物、流行には敏感で感情の変化が分かりやすい。

 仕草や怒り方も、昭和のぶりっ子みたいでありつつ悪意がないので可愛く見える。

 アニメのヒロインを実写で出来そうな稀有な存在だ。……顔さえニワトリでなければ。

 

「あ、ありがと、ね。これ、大切にする!」

 

 たたっと駆けていくネフェリー。

 あ、でも飛び出してはいかないんだ。だよな、ご飯食べたいもんな。

 

「次は……」

「ワタクシですわ!」

 

 呼ぶ前に割って入ってくるのは、イメルダらしいな。

 イメルダはいろんなところで褒められてるだろうから難しいんだが……

 

「イメルダは『ミスエレガント』だ」

「ワタクシにふさわしい華やかな賞ですわね」

「どんなに弱っていても気丈に振る舞えるお前の強さは、素直にすごいと思う。けど、あんま無理し過ぎんなよ」

「へ…………」

 

 イベントの度にハビエルを押さえ込み、賑やかに騒いでいるように見えるが、やっぱりまだ母親への思いはイメルダの心の中の大部分を占めているように感じる。ハロウィンで母親の仮装をしたりしていたしな。

 それなのに、寂しさを一切見せない強さを持っちまっているから、たまに心配になる。

 だから、せめてそういう強さを認めてやるくらいはしたかった。

 

「…………感想は、後日日を改めてお伝えしに来ますわ」

 

 奥歯を噛みしめ、俯き加減で後方へ下がるイメルダ。

 いや、そんな泣くほどのことではないと思うんだが……

 

「じゃあ、次はレジーナ」

「ちょっと待ってや。まだ服全部脱いでへん」

「誰が脱げっつった!?」

「ガイアが『脱げ』と言ぅとった」

「おぉう、エロいなガイア」

 

 つか、ガイアってなんだ。誰だよ。

 

「さ~て、ウチはなんやろ? 【自主規制】入らへんかったらえぇけどなぁ」

「残念ながら、俺の口からはちょっと……。自分で確認してくれ」

「なんやの!? ホンマに【自主規制】かいな!? かなんなぁ~」

 

 言いながら、俺がつけたピンバッチに刻まれた文字を読む。

 

「え~っと……『ミス慈愛』? ……え? 自分、これ間違ぅとらへん? これ、店長はんかシスターはんのとちゃうん?」

「いや、お前のだ」

 

 慈愛なんて言葉とは縁遠いように見えるレジーナだが。

 

「俺たちは何度もお前に助けられたからな。それも、ほぼ無料みたいな値段で。マジで無料だった時もあった」

「いや、それは……そら、病気やぁ言ぅてる時に『金あらへんのやったら薬やれへん』とか言われへんやん」

「それに文句を言うこともなく、一人ぼっちの時だってずっと薬を作っていた。誰かを助けるために」

「いや、せやから、それは……」

「お前にこそ、相応しいと思うけど? 『ミス慈愛』」

「う……ん…………」

 

 ピンバッチをぎゅっと握って、口をつぐみ、強烈なビンタを俺の肩に食らわせる。

 

「あぁー、もう! なんなん!? 真面目か、自分! かなわんわ、ホンマ!」

 

 ぷん! と、そっぽを向きフロアのすみっこへずんずん進んでいく。

 照れ方までヘタなヤツだな、あいつは。

 

「……おおきにな」

 

 そんな呟きだけ、寄越してきやがった。

 どういたしましてだ。

 

「マーシャは『ミスホタテ』な」

「むぅ! 冗談じゃなきゃ泣いちゃうぞ☆」

 

 冗談だよ。

 

「はい、どうぞ。『ミスブルーオーシャン』」

「わぁ! なんだかカッコいいね~☆」

 

 陸が大好きな海の生き物。

 俺の知る海の生き物では、ダントツで美しいのがマーシャだ。マーシャに『ミスブルーオーシャン』を授与することになんのためらいもない。

 それに、『海』って言葉が入ると嬉しいだろう? 海と自分を認められたみたいで。

 

「うふふ~ふふ~ん☆」

 

 軽やかな鼻歌がすっげぇ綺麗なメロディで、保険扱いだったけど、こういうのを作っといてよかったと思えた。

 

「ナタリア」

「はい。エステラ様の分までいただく所存です」

「勝手なこと言わないで! ヤシロ、分かってるよね?」

 

 分かってるよ。

 ナタリアに『ミスぺったん娘』は授与できないからな。

 

「なんだと思う?」

「どうして私にはそのような質問を?」

「なんとなくだ」

「そうですか。では気軽に、ありそうなものを……『ミス欲望の捌け口』でしょうか?」

「え、なに? 『ミスレジーナ』が欲しいの?」

「自分、それウチにも失礼やで~!」

 

 遠くからツッコミが飛んでくる。律儀にどうも。

 

「こういいところが多過ぎると、他人にどこを褒められるのか、想像がつきませんね」

 

 なんて大口を叩いているが、こいつは自分の何が他人に認められるのか不安なんだ。

 仕事には絶対の自信と誇りを持っているとしても、女としての自分となればその限りではない。

 そうではないからこそ、自信に満ち溢れた発言をしてギャグにしてしまっているんだ。

 ……と、思っているんだが。ナタリアだからなぁ……真相は藪の中だ。

 

「おっぱいかお尻か生脚のどれかだとは思うのですが」

「惜しいな。正解はコレだ」

 

 ピンバッチを手渡す。

 ナタリアのシルクのドレスには、さすがに穴はあけづらい。

 

「……『ミス甘え上手』?」

「この一年で、ナタリアが飛躍的に伸ばしたスキルだからな」

「そう……ですか」

 

 クールに呟いたナタリア。

 だが、すごい勢いで耳が赤く染まっていく。

 恥ずかしいらしい、甘えていることを指摘されたのが。

 

「ナーたんにもつけてくれなきゃヤーダー」

 

 とか、ふざけて誤魔化さなければいたたまれないくらいに。

 ふふふ。俺は割と好きなんだよなぁ、ナタリアの素の甘えは。

 いいですとも。おつけしましょう。

 

「じゃあ、着けてやるよ」

「どさくさに紛れてお乳を突かないように」

「へいへい」

「…………にやにやしないでください」

「してないけど? ……ふふ」

「…………もう。意地悪ですね、貴方は」

 

 真っ赤なナタリアが、出てきた時とは対照的に静かに帰っていく。

 ほんのりピンクのほっぺたで、クールを気取ってまぶたを閉じている様は、うん、なかなか可愛いじゃないか。

 

「じゃあ次は、『ミスぺったん娘』のエステラ――」

「泣くよ?」

「攻撃じゃなく?」

「ボクが本気で泣けば、君への一番の攻撃になると思うけど?」

「そいつはどうかな?」

 

 別にエステラが泣いたからって……

 へいへい。ちゃんとやりますよーだ。

 

「ほい。グランプリおめでとう」

 

 四十二区の領主なので『ミス四十二区』でもよかったし、きっと誰も文句は言わないのだろうが、たぶんそれじゃエステラが喜ばない。

 領主として評価されたんじゃ、きっと拗ねるだろう。エステラなら。

 なので、もっと身近で、ありふれた、どーってことのない名称の賞にしておいた。

 

「『ミス……頑張り屋』?」

「副賞として、陽だまり亭足ツボ券でもつけてやろうか?」

「あはは。それは辞退させてもらうよ」

 

 職務中のエステラは、誰にも見せない努力をし続けている。

 苦労をこっそり背負い込んでいる。

 本気で倒れる直前まで、そのつらさをおくびにも出そうとしない。

 

 だから、あんま頑張り過ぎるなってメッセージを込めて、『ミス頑張り屋』だ。

 

「そんなに無理はしてないよ?」

「じゃあ、いらないか?」

「ううん。もらっとく。……ありがとね」

 

 らしからぬ、穏やかな笑みではにかむエステラ。

 女の子っぽい顔しちゃって。

 

「ちなみに、『ミスぺったん娘』のピンバッチもあるんだが……」

「それはいらない」

 

 きっぱりと断られた。

 

「あ、あのあのあのっ、お兄ちゃん!」

 

 ロレッタが「どだだだっ!」と駆け寄ってきてピンバッチを差し出す。

 着けてほしいのかと思ったのだが……

 

「あたしの! 『ミス普通』じゃないですよ!?」

「……なに? 『ミス普通』がよかったの?」

「違うです! お兄ちゃんが真面目に作ってくれたのが嬉しかったです!」

 

 いや、だから、マジでヘコんでいたらって想定で作ったからさ……

 

「じゃあ、着けてやるから、こっちこい」

「はいです!」

「ロレッタ。『ミスムードメーカー』グランプリ、おめでとう」

「はいです! あたし、これからもっともっと頑張って、陽だまり亭を明るく楽しい場所にするです!」

 

 ロレッタのヤツ、ちょっと涙ぐんでやんの。

 ……嬉しかったなら、よかったよ。

 

 

 

 ベルティーナの『ミス微笑み』とバルバラの『ミス一直線』、テレサの『ミスおりこうさん』は、また後日手渡すとしよう。

 あ、シェリルには『ミスとうもろこし』を用意しておいた。

 

 ……ウェンディ? 『ミスセロン』でいーんじゃねーの?

 

「ちなみに、ウーマロとベッコもいる?」

「いらないッス!」

「拙者も、遠慮するでござる」

 

 もう帰っちゃったモーマットには、後日嫌がらせのために『ミス四十二区』でも贈っておくか。

 

「みなさん、お待たせしました! さぁ、お食事にしましょう!」

 

 ジネットが豪勢な料理を運んできて『ミスコンお疲れ会in陽だまり亭』が開幕する。

 

 打ち上げは大いに盛り上がり、ジネットは忙しく動き回り、マグダとロレッタも負けじと動き回って、あっという間に夜が更けた。

 

 

 

 

 

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