異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加30話 チーム戦の駆け引き -1-

公開日時: 2021年3月30日(火) 20:01
文字数:3,097

「なんじゃこりゃ!?」

 

 そこそこ盛り上がった最初の種目、徒競走。

 リベカやマグダが一等賞を取り、ハムっ子たちも強敵(ハムっ子)たち相手に善戦し、二番手や三番手になりながらも、そこまで悪い結果ではなかった。

 

 きっとジネットが終始ご満悦で、走り終わった選手一人一人を称賛していたからだろうな、俺もそこそこいい成績が残せているんじゃないかという錯覚をしてしまっていたわけだ。

 チームもいい感じの空気に包まれていたし、もしかしたら結構イケてんじゃね? とか思っていたわけなんだな、これが。

 

 だというのに……

 

「さ、最下位です……」

 

 あんぐりと口を開けっぱなしのロレッタが言うとおり、現在我が白組はダントツの最下位だった。

 

 ウーマロが張り切って作り上げた特大得点ボードに、各チームの点数が掲示されたのだが……

 

 青組 629点

 黄組 569点

 白組 375点

 赤組 427点

 

 という、凄惨な結果となっていた。

 

 得点を掲示し終えて去っていくクレアモナ家の給仕たち。

 今回、区民運動会の運営は領主家が全面的に協力しているため、こういう雑務はみんな給仕や警備兵が行っているのだが……

 

「領主に忖度して、点数ちょろまかしてんじゃねーの?」

「人聞きが悪いよ、ヤシロ」

 

 納得いかない俺の呟きを、耳聡く聞きつけてエステラが抗議にやって来る。

 

「なんなら、徒競走の順位表を見てみるといいよ。計算は一点たりとも間違っていないから」

 

 そう言って、給仕たちがつけていた順位表を寄越してくる。

 徒競走は、七歳未満のかけっこを含め、十二歳未満の部、十五歳未満の部、オーバー15の部と、全四部門行われ、それぞれに20名ずつがエントリーしていた。

 一位が10ポイントで、二位が8ポイント、三位が5ポイントで最下位でも2ポイント入ることになっていた。

 

 ザッと順位表を見渡すと、……なるほど。確かに計算は間違っていないようだ。

 現在トップの青組は、全八十レース中二十九回一位を獲得している。

 狩猟ギルドの他にも、東側の外れで牧場を経営している酪農ギルドの連中がかなりの好成績を叩き出していた。動物を相手にしている連中はやっぱ伊達じゃないってわけだ。

 

 そして、二番手の黄組は、一位獲得数こそ十九回と少ないが、最下位が七回と最少であり、どのレースでも二番手三番手を取って手堅くポイントを稼いでいた。

 金物ギルドの連中や、大通りに店を構える連中が中心となる黄組だが、意外と獣人族が充実している。パウラを筆頭に、獣人族のウェイトレスは人気が高いからな。

 

 三番手の赤組は、一位獲得数二十五回と、青組に次ぐ回数なのだが、最下位獲得数が三十八回と、一番多い。

 デリアやギルベルタ、川漁の面々など、運動に特化した連中もいるが、教会の年少組や生花ギルドの穏やかなババ……いや、オバサ……もとい、大きいお姉さんたちなどが運動を苦手としているのだ。

 

 そして、現在最下位の白組だが……

 

「一位獲得数、七回って……」

 

 圧倒的に得点力不足だった。

 一位とのデッドヒートで惜しくも二位! ――なんて場面もいくつかあった。

 盛り上がりとしては申し分ない成績ではあったのだが、結果が伴っていなかったわけだ。

 

 というのも……

 

「イネスやデボラが参加しないからだぞ!」

 

 イネスもデボラも、徒競走へのエントリーを拒否しやがったのだ!

 

「『領主のために頑張るぴょん!』とか言ってたくせに!」

「言ってないですよ!?」

「『会話記録カンバセーション・レコード』を参照されることをお勧めします!」

 

 細かい言い回しなんかどうでもいいんだよ!

 そのような発言は確かにあっただろうが!

 なのに、こいつらは走らなかった!

 

「走らなかったし、揺らさなかった!」

「それが理由ですよ!」

 

 ほわい!?

 

「あのようないかがわしい目で見られると分かった上で、参加など出来ません」

「私も同じです。危険人物がいたため、今回は様子を見させていただきました」

 

 ばかやろー!

 それも含めての運動会やろがい! ふーくーめーてーのぉー、運動会やろがい!

 

 くそぅ……ここぞという時に役に立たない手駒など、ただのお荷物だ。

 ……領主にどんな報復をしてやろうか…………

 

「あなたの最下位が減点対象になったのではないですか? ヤシロさん?」

 

 薄ら寒い殺気を纏い、ソフィーが俺の背後に立つ。

 こらこら、そこのシスター。「人の背後に立つ時に鈍器は持っちゃいけません」って教わらなかったのか? まぁ、教わらないよな、そんなこと。わざわざ。教わらなくても常識的に理解しとけ、な?

 

「ですが、みなさんよく頑張りましたよね?」

 

 にわかに漂い始めた不穏な空気を払拭しようと、ジネットが笑顔を振りまく。

 しかし、……「頑張った」ってなぁ。

 

「努力で点数は増えないんだよ……」

「そーゆーセリフは、成果をあげてから言うデスヨ、カタクチイワシ!」

「そうダゼ! お前は二点しか取ってないんダゼ!」

 

 と、二位と三位に終わったアゲハ人族の役立たずどもが吠えている。

 

「黙れ、獲得点数一桁ども……」

「一桁はお前も一緒デスヨ!」

「じゃ、俺たちみんな一緒だな☆」

「お前と一緒にされるのは心外ダゾ!」

 

 結局、組み合わせの妙もあり、一位を狙えるヤツがことごとく不発に終わったわけだ。

 

「……しかし、奇跡も起こった」

 

 得点ボードの前にたむろする俺たちのもとへ、マグダが颯爽と現れ、誇らしげな無表情で言う。

 

「……店長が、点を獲得した」

「しますよ!? 最下位でも二点いただけるというルールでしたから!」

「……下手すれば、アレは次のレースの最下位」

「そんなことないですよ!? 最終レースでしたし!」

 

 まぁ確かに。最終レースでなければ、次のレースの全選手に抜かされてもおかしくない速度だったな。

 

 最終レースでメドラやギルベルタ、ナタリアがデッドヒートを繰り広げる中、ほぼ徒歩という速度でゆっくりとトラックを一周したジネット。

 最後の方は、盛大に揺れるおっぱいをそうとは気付かれずにいかにチラ見できるか大会に変貌していた。

 

「……そういえば、カールは結構見てたデスネ?」

「そ、そんなことないダゼ! オレはニッカ一筋って決めたダゼ!」

「モーマットさんはチラチラ見てたです」

「んなぁああにを言い出すんだロレッタ!? お、俺ぁ、そんなこと! ほ、ほんとだぜ、ジネットちゃん! 俺は全然、そんな!」

「花火師のご両人も、がっつりチラ見てやがったですね!」

「ちょっ、待てよ! 俺たちは別に……なぁ!?」

「そうですよ! 僕らは、別に、そんな……ねぇ!?」

 

 まったく、どいつもこいつも……

 

「お前ら、ジネットに失礼だとは思わないのか?」

 

 呆れ果てて俺が苦言を呈する。と、さも当然かというようにソフィーが俺に冷ややかな視線を向けてきた。

 

「あなたが一番見ていたのではないんですか?」

 

 バカだなぁ、ソフィー。

 お前は何を言っているんだ、まったく。

 

 だからこそ、だ。

 

「ジネット」

「え? は、はい」

「どうもありがとう!」

「懺悔してください!」

 

 ガン見していたからこそ、心からの感謝を表明するべきだろうが!

 

「ホントは見ていたくせに誤魔化すなんて最低だ!」

「見ていた時点で最低なんですよ、お兄ちゃん!?」

「あぁ、ヤベ……ちょっと首が筋肉痛に……」

「釣られ過ぎですよ、上下の揺れに!?」

「で、最終レース誰が勝ったんだっけ?」

「おっぱい以外見てなかったですか!?」

「……さすがヤシロ。一切ブレない男」

「もう! 懺悔してください!」

「君たち。そーゆーくだらないお遊びは自軍の陣地でやってくれるかな?」

 

 エステラによって、得点ボード前に集結していた白組メンバーに解散命令が出される。

 ちっ。こっそり『3』を『5』くらいに掛け換えてやろうと思ってたのに。

 

 得点を見に来た他のチームに場所を譲り、俺たちは自軍の陣地へと引き返していった。

 

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