「ダ~リ~ン!」
緊急事態発生!
本陣に向かってモンスターが突撃してきた!
「全軍前へ! なんとしてもヤツの侵入を防ぐのだ!」
な~に、大丈夫だ!
こっちにはマグダとデリアとノーマの獣人三人に、エステラ・ナタリアのナイフの達人コンビ、さらにはウーマロにベッコという生贄コンビまでいるのだ!
俺まではたどり着けんぞ、メドラッ!
「……マグダには、不可能」
「アレは止められねぇよ」
「アタシも、お手上げさね」
「ごめんヤシロ、ナイフじゃ無理だ」
「ヤシロ様、人柱になってください」
「お前ら、揃いも揃って薄情者か!?」
マグダもデリアもノーマもエステラもナタリアも役に立たない!
こうなったら、逃げるかっ!?
俺は地面を蹴り、最初の一歩から全速力で駆け出した。
だが、回り込まれた。
速いっ!?
「うふふ~。ゲッチュッ!」
「ゲッチュじゃねぇよ! なんだよもう! 敵だろ、お前!?」
「戦いと愛は別だよ、ダーリン」
滅茶苦茶な理論を振りかざし、メドラが四十二区のスペースに侵入してきた。
自由人か!?
「いや、なに。アタシも遊びで来たわけじゃないんだよ。敵陣に踏み込むのがどういうことかくらいは弁えているさ」
「つまり、何か用があるってことか?」
「リカルドがね、『ちょっと言い過ぎたかなぁ』ってねぇ」
ロレッタのことだろう。
俺も若干キレて睨んじまったからな。
「『誰かが様子見てきてくれたらなぁ~』とか言ってたもんだから様子見と、あと、悪かったって伝えにね」
「なんか……リカルドって意外と小心者なんだな?」
「ヘタレではあるかもね。がはは」
豪快に笑うメドラ。
なんだかんだで過保護なヤツだ。
「リカルドに伝えておいてくれ。『ウチのロレッタを泣かせたことは一生忘れない』」
「前から思ってたけど、かなりの過保護だねぇ、ダーリンは」
そんなことねぇよ。
ただちょっとリカルドは苦しんだ方がいいと思うってだけで。
「それじゃ、アタシは戻るよ。三戦目も負けないからね」
「ふふん。残念だが、次の試合は俺たちがもらったも同然なんだ」
「大した自信だねぇ。勝算でもあるのかい?」
「ふふん。まぁな」
ロレッタのおかげで、流れは完全にこちらに向いている。
四十一区が誰を出してこようと、俺たちの勝ちは揺るぎないのだ。
「ん? ありゃ誰だい?」
メドラが会場の入口へと視線を向ける。
俺たちが入ってきた関係者用の通路だ。
俺も倣ってそちらを見ると……
「デ~リアちゃ~ん!」
ふにゃ~んとした声を上げて手を振るマーシャを乗せて、四十二区の待機スペースに巨大な水槽が乗り入れてくるのが見えた。
「マーシャ! 応援に来てくれたのか!?」
「うん! ちょ~っと準備に手間取っちゃって、遅れちゃったぁ。もう出番終わっちゃった?」
「いいや、まだだ」
マーシャは四十二区の人間ではないが、デリアがどうしてもと言うのでここへの入場を許可していたのだ。観客席にこの水槽は……無理だからな。
「ふん。海漁ギルドかい。乳だけが取り柄のぶりっこ人魚だね」
黙るがいい。乳だけで辛うじて女と認識されている狩猟ギルドの大ボスめ。
と、そこへ――
「マ、ママママ、マーシャさんっ!」
突然、妙に甲高い声を上げて、ピラニア顔の男が俺たちのスペースへと乱入してきた。
なんだ、その声は!? ふざけてんのか!
と、改めてよく見ると……
「グスターブじゃねぇか」
「……グスターブがなぜここに?」
「なんだいグスターブ。あんた、何しに来たんだい?」
「あらあらぁ~、グスタ~ブさぁ~ん。お久しぶりだねぇ~☆」
「はいっ、マーシャさん! お久しぶりでございます!」
俺ら全無視かっ!?
「虎っ娘はいいとして、なんでダーリンが知ってんだい?」
「すげぇ食うヤツがいるって噂を聞いてな」
「さすが、抜かりがないねぇダーリンは。あ、あれかい? あの、その……アタシとのデートの時に視察とかしてたのかい?」
「デカい体でもじもじすんな!」
まぁ、まったくもってその通りなんだけども!
「マ、ママと……デート?」
「……ヤシロ…………チャレンジャー」
グスターブとマグダに、変人を見るような目で見られてしまった。
酷い風評被害だ。
「そ、それよりも、マーシャさん。私を見に来てくださったんですか!?」
「う~うん。お友達のデリアちゃんの応援だよぉ☆」
「わ、私! 明日! 最も重要な場面で活躍しますので! なんといっても大将ですので! 是非! 是非明日もお越しくださいますよう、お願い申し上げます!」
どうやら、暴食魚グスターブは、海漁ギルドのギルド長マーシャにお熱なようだ。
「私も捕られたい!」とか、思ってんのかねぇ?
だがまぁ……こりゃ脈無しだな。マーシャは完全に受け流してる。
マーシャレベルの巨乳マーメードともなると、言い寄ってくる男は数知れないだろう。
四十二区の連中にはない大人な余裕が垣間見える。ちょっと、火遊びしたくなるような色っぽさだ。
「……やはり、グスターブが大将」
「マグダと当たることになりそうだな」
「あぁ、こら、バカ、グスターブ! あんた、ウチの情報漏らしてんじゃないよ! ウチのダーリンはそこらの男より頭が切れるんだ、ちょっとの情報漏洩で足元掻っ攫われちまうよ!」
褒めてもらってるとこ恐縮なんだが……なんだ、その『身内自慢』みたいな口調は。あと、誰が『ウチのダーリン』だ。
「じゃあね、ダーリン。アタシはこのバカが余計なことを口走らないよう、もう帰るとするよ」
「おう、急いで帰れ」
そして、もう来るな。
メドラたちが帰ったのを見計らって、マーシャが俺に尋ねてくる。
「それで、デリアちゃんはいつ参戦するの?」
こちらの情報を相手に漏らさないよう配慮してくれたらしい。
よく気の利くヤツだ。空気が読めているんだろうな。
……に、引き換え。
「はぁぁああっ、はぁぁああっ、生っ、生足っ!」
「なにさね、あんたは!? あんまじろじろ見るじゃないよ!」
「はぁぁぁああああああああっ! 蹴られたぁ~! いいー! 幸せ! もっと、もっと蹴ってぇ! 足で! 生足でぇ!」
「ひぃいいいっ! 気持ち悪いさね、この半漁人!?」
ノーマの生足に大興奮の海漁ギルド副ギルド長キャルビン(重度の足フェチ)。あいつはダメだ。空気が読める読めない以前に人としてダメだ。……あいつ、海の藻屑になればいいのに。
「あ、うん。アレは気にしないでねぇ☆」
「ウチの応援団が被害を受けてるんだが」
「がまんがまん☆」
なんて横暴なっ!?
まぁ、ノーマなら、キャルビンくらい簡単にノックアウト出来るだろうし……放っておくか。
「それで、デリアの試合だが……」
マーシャの隣に立つデリアに向かって、俺ははっきりと言う。
「このあとすぐだ」
「えっ!? あたい、三回戦に出るのか!?」
「わぁ~、ちょうどいいタイミングで来られたみたいねぇ~☆」
マーシャが見に来たタイミングはともかく、流れは確実にこちらに向いている。
「ロレッタのおかげで、勝機が見えた」
ロレッタが反則負けを喫し、ペナルティーとして最下位の権限すら奪われたおかげで、三回戦の料理担当は四十区になっている。
四十区の初めての料理だ。
「四十区はラグジュアリーのケーキを出してくる! ケーキの大食いなら、デリアは無敵だ!」
ここで二勝目を挙げれば、優勝に王手がかけられる。
「そうか! ロレッタもなかなかやるなぁ!」
「策士ねぇ~☆」
「そうとも! ロレッタは偉い!」
「ほ、ほにょにょ!? な、なんかあたしのいないところで、メッチャ褒められてるです!?」
タイミングよく戻ってきたロレッタは、チア服を着て、ポニーテールにしていた。
ジネットやマグダほど髪が長くないので、ポニーテールにするとうなじがばっちり見える。
ふぅ~む。ほつれ毛の具合がなかなかにセクシーだ。
うんうん。いいじゃないか、ロレッタ。
「そうとも! ロレッタはエロい!」
「なんか言葉変わったですよ!?」
目を見開きながらも、どこか嬉しそうなロレッタ。
お前はそうやって元気な顔をしていればいい。
「んじゃ! いっちょ頑張るかな!」
手を組んでグッグッと腕の筋を伸ばすデリア。
その表情からはみなぎる自信が感じ取れた。
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