「あ、ヤシロさん。マグダさん!」
教会に着くと、ガキ共がもう飯を食っていやがった。
早いっつの。
……いや、結局三十分くらい外にいたから、しょうがないっちゃしょうがないか。
「寒かったですよね? 温かいスープをどうぞ」
「サンキュウ」
「……感謝」
「……あ。…………マグダさん。ヤシロさんの持ってきたお汁粉、すごい食べ物ですよ、期待していてくださいね」
マグダの顔を見て、ジネットが微かに反応した。
涙の跡に気が付いたのだろう。
その後、いつもの笑顔でマグダに優しく語りかける。
こういう気配りが出来るあたり、こいつは実にいいヤツだと思う。
「お兄ちゃん! 味見をお願いするです!」
「おう。レシピ通り作ったんだろうな?」
「ばっちりです! 全部店長さんがやってくれたです! あたしはかき混ぜてただけです!」
……それで、なんでそんなに自慢げな顔が出来るのか……
ロレッタに続いて厨房に行くと、デカい鍋から湯気が立っている。
そして小豆の甘い香りが立ち込めていた。
厨房の作業台の上に、粗く潰したもち米を一口大にまとめた「なんちゃって白玉」が並んでいる。「なんちゃってモチ」の方がしっくりくるか?
絹のようななめらかな輝きを放つお汁粉を一口啜る。
…………ん。普通!
普通に普通のお汁粉だ。
「さすが、ロレッタがかき回していただけはあるな。すげぇ普通だ」
「関係ないですよ!? 味付けは店長さんですからね!?」
「美味いよ。上出来だ」
「えへへ……です」
こいつも、マグダのために何かをしたかったのかもしれない。
陽だまり亭で一番の仲良しはマグダっぽいからな。
「じゃあ、飯が終わったらデザートにこいつを……」
「「「「「ごちそーさまでしたっ!」」」」」
言い終わる前に、談話室からガキどもと、それからひと際大きなベルティーナの声が聞こえてきた。
……早ぇよ、食い終わるの。
「あの、ヤシロさん……シスタ……みなさんが待ちきれないようなのですが?」
「……それで大急ぎで飯を食ったのか…………」
ここのガキ共、将来ベルティーナみたいな大人にだけはなるなよ。いや、マジで。
「んじゃあ、ガキ共にくれてやろうじゃねぇか!」
「「「「わぁぁああー!」」」」
「シスターは!?」
俺が声を張り上げると、歓喜の声が上がった。
約一名のシスターを除いて。
「ジネット、ロレッタ。手伝ってくれ」
「はい」
「はいです!」
と、お汁粉を盛り付けようとした俺の服の裾を引っ張る者がいた。
マグダだ。
「……マグダもやる」
「出来るか?」
「…………愚問」
愚問と来たか……んじゃ、完全復活した様を見せてもらおうか。
「よし! ではミッションだ! ベルティーナに奪われないようにガキどもにお汁粉を配れ!」
「はい」
「はいです」
「……了解」
器に入ったお汁粉を持って、陽だまり亭のメンバーが厨房を出ていく。
出たところでジネットがベルティーナに捕まりお汁粉を奪われていたが……ミッション失敗。
「おいしー!」
「あまーーーい!」
「あっつぃ!?」
「おもちー!」
「甘みの革命児やー!」
あ、ハム摩呂も食ってやがる。
ざっと見渡す限り、お汁粉は大盛況なようだ。
今度、教会で本格的な餅つきでもやってみるかな。あんこと……あ、ジネットが大豆を大量に買ってたからきな粉も出来るじゃねぇか。よしよし。餅つき大会はほぼ内定だな。
「……ヤシロ」
「おう、マグダ」
ガキ共にお汁粉が行き渡り、陽だまり亭のメンバーもお汁粉に舌鼓を打っている。
マグダも食べているようで、頬を薄ピンクに染めてほくほくしている。
「美味いか?」
「……肯定。ヤシロの甘さ」
「俺の甘さってなんだよ」
「……その甘さが、いつか命取りに……」
「甘さ違いだし、恐ろしいこと言ってんじゃねぇよ」
冗談が言えるくらいには元気になったぞ、と、わざわざ言いに来てくれたように俺には思えた。
頭に手を載せると、外ではぺったりと寝ていたケモ耳が微かな抵抗を持って手のひらを押し返してくる。もふもふだ。
「折角だからよ、思いっきり楽しんでやろうぜ、雪」
「……そうする」
前向きに。
マグダの目は、しっかりと前を向いているように思えた。
「……雪合戦とやらに、全力で参加する」
「『赤モヤ』は禁止だからな?」
「……その略称は失礼。それはトラ人族の由緒ある……」
「冷めるぞ」
「…………ずずっ…………ぷはぁ」
雨降って……ではないが、大雪のおかげでマグダはまた大きくなれたのだろう。
お汁粉を美味そうに啜るその横顔は、昨日よりも少しだけ大人びて見えた。
……なんてのは、気のせいかもしんないけどな。
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