異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

89話 特別なもの -3-

公開日時: 2020年12月25日(金) 20:01
文字数:2,110

「よう! よかったな! 滅茶苦茶ラッキーじゃねぇか!」

 

 ガキの頭をわっしゃわっしゃと撫で、俺は爽やかな笑みを向けてやる。

 ……ちょっと怯えられてしまった。

 ま、まぁ。別に? 俺、ガキとか好きじゃないから嫌われたって、全然問題ないけどな。

 

「こいつはな、領主様がお前らガキ……君たち子供のためにって提供してくれた『オモチャ』だ」

「「「「おもちゃ?」」」」

「ちょっと借りるぞ」

 

 当たりを引いたガキに了承を得て、俺は紙粘土をこね始める。

 食卓で粘土遊びなど言語道断なので普段は絶対させないところだが、まぁ、初日はいいだろう。

 よく練り込まれた粘土は柔らかさが増す。その柔らかくなった粘土を、ベッコの作った型へと押しつけていく。背後から「ギュッ、ギュッ」と押しつけてから、ゆっくりと型を外すと…………粘土は馬の形をしていた。

 

「「「「すげぇーっ!?」」」」

 

 ガキどもが食いついた。

 

「馬以外に、犬や猫、キツネやワニなんかもあるんだ。動物じゃないものとかあるかもな」

「「「「ほしーっ!」」」」

 

 よし。とりあえずオモチャは効果を発揮したと言っていいだろう。

 ガキどもが無条件で、それもかなり欲しがるもの。それがオモチャだ。

 

 しかし、オモチャは難しい。

 単純過ぎるとガキが食いつかないし、複雑でも、ガキは敬遠するのだ。

 本当は動物のミニチュアフィギュアでも作らせようと思ったのだが、そうすると一体一体彩色を施さなくてはいけなくなる。

 ベッコは絵画の才能も持ち合わせているが、如何せん時間がなかった。彩色すれば乾燥させる時間も必要になるし、何より塗料を準備するのにも時間を要するのだ。

 文房具屋に絵の具が売ってる、なんて便利な世界ではないからな。必要な色を自分で組み合わせて作り出さなければいけないのだ。そいつを一個一個試している時間は、今回なかった。

 

 ミリィに頼んで竹を用意してもらい竹とんぼを作ったり、木材を使ってけん玉なんてのも考えたのだが、それの遊び方を教えて回る時間もなかった。

 竹とんぼなんて、外に行かなきゃ出来ないしな。けん玉は作るのがスゲェ難しい。

 

 時間的に余裕があり、且つ遊び方が単純なもの……と、考えた時、粘土は実に都合がよかった。

 こねて押し当てるという単純さもさることながら、ガキが簡単に複雑な動物の模型を作れるのだ。そりゃ熱中するだろう。

 こいつのいいところは、こちらが色を塗らなくても済むというところにある。

 

 何より手間が省けるし、よく言えば『お子様の創造性を最大限に引き出せる自由な創作活動』に打ってつけなのだ。

 好きに色を塗ればいい。馬が赤かろうが迷彩だろうが、なんだっていいのだ。

 もしかしたら、これをきっかけにこいつらの中から将来の芸術家が生まれるかもしれない。その際は、是非とも食堂に多額の寄付をお願いしたいね。きっかけを与えた俺は産みの親も同然なのだから。

 

 そして、粘土をこね直せば何度でも遊べるってところも、こいつの大きな利点だ。飽きるまで遊ぶ。そして、飽きた後に、これまでにない遊び方を発見する。

 それこそがイノベーション!

 あぁ、俺は今、なんていいことをしているのだろうか。将来の四十二区の発展を、今この俺が作り上げていると言っても過言ではなかろう!

 

「粘土はレンガ工房に行けばいつでも売ってくれる。型がたくさん集まったら、友達と交換して遊んでもいい。オモチャをどう使うかは、お前らの決めることだ。盛大に遊べ!」

 

 俺を見上げるガキどもの瞳の、なんとキラキラ眩いことか……

 

 俺、知育系の教材とかで一山当てられるな、これは。

 いや、やんねぇけど。

 

「ねぇ、ねぇー! かえして! 僕のだから!」

 

 当たりを引いたガキが両腕を伸ばして型と粘土を欲する。

 やりたくて仕方ないだろう? 周りのガキもやらしてほしいだろう?

 

「領主様の旗が当たりだ。当たりを引くと、もれなくこいつがもらえるぞっ!」

「ママァ! 僕もお子様ランチー!」

「あれ、やりたいー!」

「お馬さん、ほしい!」

 

 ガキどもが各テーブルに散らばり、おねだりの猛攻をかける。

 初日サービスで領主の割合は多くしてあるが……そうそう簡単には当たらねぇぞ?

 何度も何度もおねだりするがいい!

 そして母親どもも「ウチの子だけ当たりを引いてないなんてかわいそう! 当たるまで毎日通いましょう!」となるがいい! さぁ! 可愛い我がガキどものために財布の紐を緩めるのだ! そして、ついでに自分たちも美味い飯を食って帰るがいい!

 ふふっ、ふはははははっ!

 

「あ~っ! 海漁ギルドだったぁ!」

「はっはっはーっ! 僕は当たり引くもんねー! 見ててよ~! ……………………トルベックッ!?」

「ぷぷぷー! 次私ねー!」

 

 ガキが小型自動販売機に群がっている。

 マグダが、押し寄せるガキどもをうまく捌いて順番に並ばせている。さりげにすごいな、あいつ。あの無秩序なガキどもが衝突もせず大人しく言うことを聞いているなんて……え、おっぱいパワーじゃないのか、ガキどもが言うこと聞くのって!?

 

「やっっっっったぁぁぁぁぁあああっ! 領主様だぁー!」

「うそっ!? 見せてー!」

「いーなぁー!」

「ホントだ、領主様だー!」

「かーえーてー!」

「だめー!」

 

 わいきゃいわいきゃいと、ガキどもが子ライオンのようにじゃれ合う。

 

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