異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

157話 河原に集う -2-

公開日時: 2021年3月13日(土) 20:01
文字数:2,451

「デリア。モーマットは、イライラしてお前に八つ当たりしちまったんだと」

「あたいの真似か?」

「真似じゃないが、まぁデリアと同じ気持ちだったんだな。向こうは向こうで大変なんだ」

「まぁ、大変だよなぁ。ウチも大変だもんな」

「で、ケンカみたいになったから、美味い飯を一緒に食って仲直りしようってさ」

「なんだ、そういうことか!」

 

 そういうこと以外には聞こえない話だったと思うんだが……

 

「だったら気にすんなよ。あたいも悪かったしさ…………モーマット、怒ってないか?」

「全然だ! 無茶言って、悪かった」

「じゃあ、おあいこだな!」

「お、おう! そうだな!」

「んじゃ、あたいも鮭食わせてやるよ! 美味いんだぞ、今の鮭!」

「ははっ、そりゃ楽しみだ!」

 

 話せば分かり合える。

 こいつらは、やっぱり根っこの部分でお人好しばかりなんだろうな。

 

「で、殴り合いはいつするんだ?」

「しねぇよ!?」

「あれ? 拳で語るんじゃなかったっけ?」

「それはヤシロの戯れだ! 真に受けんな!」

「なんだよぉ……どうやって攻めようか考えてたのに……」

「それで黙ってたのか、さっき!? おっかねぇ! こいつマジでおっかねぇ!」

 

 まぁ、デリアなら、作戦なんて立てなくても一撃でKO勝ちだろうな。

 

「……デリア。いざという時は、加勢する」

「デリア一人でもオーバーキルなのに、マグダまで加勢したら、俺細胞も残らねぇよ!」

「……平気。モーマットには、ウーマロ、ベッコ、パーシーを貸与する」

「俺をそいつらのグループに混ぜんな!?」

「どういう意味ッスか、このワニ!? こっちこそ願い下げッスよ!」

「もぅ~、オッサン同士でケンカすんなよ。デリアに殴ってもらうぞ?」

「仲直りしようぜ、ウーマロ!」

「そうッスね、モーマット!」

 

 爽やかな笑顔で握手を交わすモーマットとウーマロ。

 命を救うための、尊い握手だ。

 

「ょかった……でりあさんが、仲直りできて」

 

 ミリィが、小さな声で呟く。

 心底安堵したような、穏やかな表情でデリアの顔を見つめている。

 

 デリアも、それを見つめるミリィも、もう顔に薄暗い影は落ちていない。

 いつもの、こいつららしい表情を取り戻していた。

 

「あっ、殴り合いといえば……」

 

 人差し指をピンと立て、ロレッタが思い出したように言う。

 

「ノーマさんも陽だまり亭に来てたです」

「なんで殴り合いで思い出した!?」

 

 ノーマには一切そういうイメージがないんだが!?

 

「あ、いや。この前、ノーマさんと『殴り合いをするなら場所はどこがいいか』って話で盛り上がろうとして失敗したです」

「失敗したんかい!?」

「ノーマさんが全然ノッてくれなかったです……」

 

 振る話題、もうちょっと選べよ……

 

「なんでもマーシャさんと待ち合わせしてたみたいです」

「ノーマがマーシャと?」

「船で使うイカリを発注したみたいです」

 

 あぁ、それでノーマなんだな。

 デリアを励ましに来たついでに、いろいろと用事を片付けているのか。

 ……せめて、デリアの元気が出てから個人行動してくれりゃいいのによ。

 

「あとから来るです。『絶対行く』って言ってたです」

「ジネットが誘ったんだろ?」

「な、なんで分かったんですか!?」

 

 いや、分かるよ。

 だって、ジネットだからな。

 

「あ、あの……マーシャさんがいれば、デリアさんも元気が出るかなぁ……と、思いまして」

 

 チラチラと、俺とデリアに視線を向けるジネット。

 怒りゃしねぇよ、俺もデリアも。

 

「ありがとな、店長。気ぃ遣わせて悪いな」

「いえ。わたしのお節介ですから」

 

 なんだか、気に入られてしまったのだろうか……『お節介』。

 実に嬉しそうに口にしているけど。

 

「それに、大勢で食べた方が美味しいですしね」

「そうだな。その分の代金は領主に請求すればいいし」

「惜しいね、ヤシロ。河原での出店は、今回許可が出てないから『振る舞う』に留めておかないと違反になっちゃうよ」

 

 分ぁーってるよ。これまでも散々無償提供してきたろうが! ……うっせぇヤツだ。

 四十二区内で自由に移動販売できる許可とか下りねぇかな?

 二号店七号店も大通りと、決まった場所でしか売れないし……

 

 と、そんな話の途中で、いつもの川遊びスポットへと到着した。

 ここは河原と堤防の段差が比較的低く、荷車や屋台を降ろすのが楽なのだ。

 そして、十分に広い河原は平坦で料理も作りやすい。

 川の流れはやや速めだが危険のない範囲で、水深の浅い部分と深い部分があって各種の水遊びに最適な場所だ。

 

「では、準備を始めましょう!」

 

 河原に降りるなり、ジネットがぽんと手を打つ。

 それを合図に、陽だまり亭七号店の収納が開かれる。

 食材や調理器具を入れておけるそこそこ広い収納が本体に内蔵されているのだが、そこからどんどんと食材が運び出されていく。

 今日の七号店は鉄板モードだ。ちゃんちゃん焼きでもするのだろうか。

 

「デリアさん、テーブルをお借りしますね」

「あぁ。板持ってくるか?」

「では、お願いします」

「任せとけ!」

 

 この付近は、デリアたち川漁ギルドが休憩などに利用している場所で、河原に川漁ギルドの備品をしまっておく小さな小屋があったりする。

 普段は、平らな大きな岩、通称『テーブル』を利用して飯を食ったりするのだが、今回みたいに人数が多い時は、似たような大きさの岩の上に板を渡して簡易テーブルを作ったりもするのだ。

 これが随分デカいテーブルになるのだ。

 

 ロレッタとマグダが川で食材を洗い、調理の準備を進める。

 俺も手伝おうかと思ったのだが……

 

「……手伝いは不要。手は足りている」

「お兄ちゃんは、あっちの濃い人たちの相手をお願いするです」

「そっちのが手伝いよりメンドクサイんだけど……」

 

 ハムっ子たちがきびきびと手伝いをしているおかげで、俺は出る幕がない。

 ジネットの隣にはミリィがいて、あっちでも俺は必要とされてなさそうだ。

 しょうがないので、ウーマロあたりを弄って遊ぶとするか。

 

「ヤシロさん。岩に座るのはお尻が痛いですわ! ふっかふかの岩はありませんの?」

「あるわけないだろう……」

 

 イメルダほどアウトドアの似合わないヤツも珍しいよな。

 レジーナほどではないけれど。

 

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