……と、ここまで言えばお分かりだろう。
そうだ。
次の競技は、運動会の定番中のド定番。
『騎馬戦』なのだ。
敵との攻防を任される『上』も重要だが、足回りをしっかりと守る『馬』も重要になってくるこの競技。
それぞれが好き勝手にチーム決めをしているように見えて、実は適材適所になっていたりする。
棒引きで、俺がちょっと目に余るくらいの強引な作戦に出て、それが見事に裏目に出た。
その結果、白組は俺の言うことを聞かなくなり好き勝手に組を決め出した。
もう、勝つことよりも楽しむことを優先しているのだ。
――と、そんな風に周りに思わせるための『ヤシロ、オメーの席ねぇーから』大作戦!
いやまぁ、こんな作戦、ジネットが食ってかかってくるって分かりきってたのに、抜かったなぁ。
というか、ジネットは料理をしていれば周りのことなんか気にしないんじゃないかと思ったんだが……余計な心配をさせてしまった。
罪滅ぼしってわけじゃないが、まぁ、こいつには俺が――
「ヤシロさん。ヤシロさんはわたしと同じ組になりましょうね」
――そばにいてやろうと思ったら、向こうから申し出られてしまった。
「わたしがそばにいますからね」と。
だから、これは作戦で、俺は別に嫌われてるわけじゃ…………ない、よな? え、大丈夫? だよ、な? な?
「じゃ、よろしく頼むわ」
「はい!」
日が暮れたにもかかわらず、太陽のような笑みを浮かべるジネット。
こいつ、料理は後回しでいいのかね。
「英雄」
バルバラが、俺とジネットの前に立つ。
あ……そういえば、こいつは俺の嫁になるとかなんとか言ってたんだっけ……やめてくれよ、ここでジネットに敵対心むき出しにするとか……
「アーシ、よく考えたらお前のこと、そんな好きじゃなかった」
「……は?」
「だから、ごめんな。お前の嫁になってやれねぇんだ、やっぱ」
え、なにこれ?
「やっぱ、その……け、結婚って、た、大切な人と、さ、するもん、だろ? そーゆーもんらしいじゃん、なんか」
「お、おぅ。まぁ、な」
「だから、アーシは無理だけど、お前、割といいヤツだからきっと誰かいいヤツ現れるよ! だから、な。あんま落ち込むなよ!」
なんか俺、バルバラに振られてるんですけど!?
なんで!?
俺、一切好意を示してないのに!?
むしろ有り有りと『迷惑感』出しまくってたのに!
なんで俺が振られてるの!?
「でさ、出来たらアーシも英雄と組んでやりたいんだけど……ほら、アーシと英雄ってさ、一時期、その、ちょっと噂になっただろ?」
お前だ! その根も葉もない噂を必死に火付けして、火もないところに煙を立たせようとしてたのは!
で、一時期って、ついさっきのほんのほ~んの短い時間だけだよ!
「だから、ほら、一緒の組になると、なんかアレだよ、冷やかされたり、……か、勘違いされたら、困るから、さ。だから、一緒の組になってやれねぇんだ! 悪いな! 誰か他を当たってくれ! じゃあな!」
と、誘ってもないのに断られた。
また一方的に振られてるんですけど、俺!?
なんだろう?
パーシーを殴れば収まるのかな、この怨嗟?
マジで殺っする5秒前なんですけど?
「バルバラ。また私と組みやがれください。今度は協力して敵をバッタバッタなぎ倒してやろうぜですよ!」
「おう! 望むところだぜ!」
で、あ~っさりとパートナーを見つけてはしゃぐバルバラ。
一つ言っとくぞ?
いや、二つだ。
俺、お前に惚れてなかったからな!?
故に全然悔しくなんかないからな!?
ただ、すっげぇームカついてるけどな!
「ぱぁぁぁあ……しぃぃいい…………!」
「ヤシロさん、ヤシロさん! 顔が怖いですよ」
怖いのは俺の顔じゃない。
妄想にどっぷり浸った盲目恋野郎だ。
肯定しても否定してもこっちが怪我をする。こっちだけが大火傷だ。
「応援してあげましょうね、バルバラさんの初恋」
「どーでもいーわ」
「素敵じゃないですか、初めての恋」
「お前もあったのか、初恋」
「わたしの初恋はシスターです」
そういえば、そんなこと言ってたっけな。
「で、その次が祖父さんか? ○○○○○年上ばっかだな」
「ヤシロさん。口が『ものすごい』って動いてましたよ……怒られますよ、シスターに」
ふふん。声に出さなければ会話記録にも記録はされないのだ。
「俺は他人の幸せになど興味はないんだ」
「うふふ」
なんだよ、その「またまたぁ」みたいな笑みは。
気に食わんな。
「それじゃあ、ヤシロさんご自身の幸せには興味があるんですか?」
「そりゃもちろん」
俺は、誰が不幸に噎び泣こうが、自分が幸せならそれでいいタイプの人間なのだ。
自分の幸せが一番だ。当然だ。
「わたしも興味があります。ヤシロさんの幸せに」
「ん?」
「出来ることなら、ヤシロさんが幸せそうに笑っている姿を、いつまでも、ずっと、すぐそばで見ていたいです」
いつまでも、ずっと、すぐそばで。
なぁ、ジネット。
俺の故郷ではそういうのをな、プロポーズと言うんだぞ。
まぁもっとも、漫才コンビだってずっと一緒にいるわけだし、コンビ組もうってお誘いかもしれないよな!
真意なんぞ分からん。誰にも分からん。
分からんことに頭を使うなんてのはただの浪費だ。これ以上考えないようにしよう! はい、しゅーりょー!
「じゃ、ジネットが騎馬の上な」
「え!? どうして急にそういう話になったんですか? あ、あの、わたし、デモンストレーションで拝見したんですが、たぶん上は無理なんじゃないかと……」
「大丈夫大丈夫。たぶんなんとなくそんな気もしなくもないし」
「大丈夫な感じが一切しませんよ!?」
お前はいい加減気が付くべきだ。
迂闊な発言をした後にはきっちりと痛い目に遭っているという現実に。
……もうちょっと考えて物をしゃべれっつの。ったく。
「コメツキ様」
「ふっくらお胸様」
「そんな呼び方やめてください、デボラさん!?」
イネスとデボラがやって来て、ジネットがデボラに突っ込んだ。
やっぱ漫才コンビ組みたいのかなぁ、ジネット。
「騎馬戦は四人一組と聞きました」
「私たちが残り二名を務めます」
「おう。お前らなら百人力だ」
「あと、先ほどの作戦実行中、アドリブでいくつかのほころびをフォローしました」
「自分で言うのもなんですが、見事な手腕でした」
「うん。あんま自分で言うな、そういうこと。デボラ、ちょっとそういうところあるから気を付けろな?」
「そろそろお時間かと!」
「イネスさんに同意かと!」
「分かった分かった! 偉かった、すごかった、最高だった、YOUたちベリーナイスだったよ!」
「「満足です」」
にっこにこの給仕長ズ。
なんだろう……仕事が出来るバカが増えている。
というわけで、『もう優勝なんかどーでもいいから残りの競技は存分に楽しんじゃおうぜ、どーせ俺たち最下位なんだし』大作戦で、俺たちは優勝を目指す。
まずは騎馬戦!
見てろよ。
騎馬戦が終わった時、お前たちは度肝を抜かれることになるだろう。ふふ……ふはははは!
空が紫になり、少し遠くの者の顔がはっきり見えなくなった頃合い。
篝火が焚かれてグラウンドはまさに戦場の様相を呈していた。
演出も利いて、選手たちのボルテージはどんどん上り詰めていくのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!