異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

後日譚50 明日からも -3-

公開日時: 2021年3月10日(水) 20:01
文字数:2,433

 教会での夕飯は、まさに戦場だった。

 

「あたしの方がいっぱい食べられるです!」

「あたいの方がすげぇよ!」

「あたしは大食い大会出場選手ですよ!?」

「あたいもだ!」

 

 大会で共に一敗を喫した二人が、くだらないことでいがみ合っている。

 聞けば、「どっちがたくさんたこ焼きを食べられるか」という勝負らしい。

 

 ……アホらしい。

 

 お前らがどんなに頑張ったところで、ベルティーナがナンバーワンになるのは目に見えてるんだから。

 無駄な争いは消耗するだけだぞ。

 

「「たこ焼きやきたいー!」」

「……残念ながら、この仕事は厳しい実技試験を受けて初めて免許皆伝になるもの。やすやすと譲るわけにはいかない」

 

 なんだかもう、たこ焼きの大食い大会は開催決定らしく、マグダがたこ焼き職人としての闘志を燃やしていた。

 妹たちは、おねだりするようにマグダの周りにまとわりついている。

 商品じゃないからやらせてやってもいいんじゃないか?

 失敗したやつはウーマロに食わせればいいんだし。

 

「勝負方法は簡単です! たこ焼きを多く食べた方が勝ちです!」

「おう! 熱かったからとか、あとで言い訳すんじゃねぇぞ!」

「こっちのセリフです!」

「こっちの…………『熱かった』って言い訳がロレッタのセリフってことは…………熱かったからとか、あとで言い訳すんじゃねぇぞ!」

「アレ!? 状況が変わってないですよ、デリアさん!?」

「ん?」

 

 ……大丈夫なのかな、こいつら。

 

「では、たこ焼き大食い大会! 勝者には、お兄ちゃんと一日デート出来る権利をプレゼントです!」

 

 ってコラ待て、ロレッタ。

 お前は何を勝手に……

 

「やったぁ! あたい、超頑張るっ!」

 

 ……あ~あ。デリアに「さっきのは冗談」とか、通じないぞ。

 デリア、そういうのすっごいヘコむんだからな…………ったく、しょうがねぇな。

 

「分かった。じゃあ、一日どこかに連れてってやるよ」

「やったです! 本人の許可が出たです!」

「俄然やる気が出てきたさね……」

「ボ、ボクも、ちょっと興味あるかもなぁ……い、いや! たこ焼きに、だよ! いっぱい食べてみたかったんだ、前から! ホントだよ!?」

 

 なんだか、ノーマとエステラも参戦するようだ。

 

「ぅう……みりぃ、そんなに食べられないし……でも、参加だけはしてみようかな」

「お家デートも可、やったら、ウチも出ようかな」

「「「「お家デート!? なんかいいなぁ、それ!?」」」」

 

 物凄い食い付いたな。

 つか、ミリィとレジーナも参加するのかよ。

 

「私は、家では全裸なのですが、その場合は……」

「おーいみんなぁー、ナタリアもう帰りたいってー!」

「冗談です! ちゃんと服は着ておきます! ですから参加権をください!」

 

 最近飛ばしまくりのナタリアには、熱ぅ~いお灸が必要かもな。

 まぁとにかく、これで参加者は出揃ったかな……

 

「……妹たち。あなたたちはもう一人前。きっと素晴らしいたこ焼きが作れるはず」

「って、こら。お前も参加する気か、マグダ」

「……浮ついた者たちに、たこ焼きの真髄を見せつけるには、マグダ自身が参加することこそが相応しいと判断した結果」

「へぇ、そうかい」

「……ちなみに、お家デートの際は日向ぼっこを所望」

「勝てたらな」

 

 マグダの目がキラキラしている。

 こいつの表情も、随分読み取れるようになってきたな。

 

「あらあら。面白そうですね。では、私も……」

「「「「「シスターはダメ!」」」」」

「えぇ……なぜでしょう?」

 

 いやぁ……なぜかって…………プロ、だからじゃないか?

 参加者が満場一致で拒否権を発動した。 ベルティーナの参加は無理だろう。

 

「あ、あの! わたしも、参加したいです!」

「えっ!? ジネットちゃんが!?」

「店長さんがこういうのに参加するのって、珍しいです!」

「……ダークホース」

 

 ジネットの参加表明に、そこにいた全員が目を丸くした。

 あまりこういうのには参加しないジネットなのだが、結婚式や祭りの雰囲気にでも当てられたのだろうか。

 

「わたしが勝ったら、ヤシロさんとお人形遊びがしたいです!」

 

 なんだとっ!?

 

「一日中、ずっとです!」

「俺も参加する!」

「お兄ちゃんまで!?」

 

 当たり前だろう、ロレッタよ。……お人形遊びに一日付き合わされて堪るか。

 

「……ヤシロが優勝すれば、ヤシロはヤシロの部屋で丸一日……」

「ただの引きこもりじゃないのかい、それって!? レジーナの日常じゃないか」

「失敬な領主はんやなぁ……まぁ、否定こそ、せぇへんけども!」

 

 誰がレジーナレベルだ。

 こうなったら意地でも優勝して、お前らの目論見をことごとく潰してやる!

 

「ヤシロさん……私の参加を認めてくだされば、ジネットの目論見は露と消えますよ?」

「ベルティーナが勝ったら一日中飯作らされるんだろ? ヤだよ、そんな高カロリーな休日」

 

 お前はお前で、勝負には参加せず、勝手にもりもり食ってろ。

 妹たちなら、文句も言わずに焼き続けてくれるだろうよ。

 

「「「「それじゃー、どんどん焼くよー!」」」」

 

 妹の声に俺たちの表情が引きしまる。

 ルールは簡単。

 一個ずつ順番に食っていき、食えなくなったら脱落。

 最後まで残っていたヤツが優勝だ。

 

 自分のペースで食い続けられる大食いとは異なり、食った後の待機時間が満腹を誘う、恐ろしいルールだ!

 

「さぁ、大食いゲームを始めようか」

 

 こうして始まったたこ焼きロワイヤルは……二時間の死闘の末、ノーマが優勝を勝ち取った。

 いやぁ、あまりに地味過ぎて語ることがないのだが……とりあえずしばらくたこ焼きは見たくない。

 

 そうだな……、ノーマの家に行くなら何か美味いもんでも食わせてもらおうかな。

 

「おにーちゃん、粉なくなったー」

「シスター、まだ食べたいってー」

「小麦畑にでも叩き込んでおけよ、もう!」

 

 ベルティーナなら、粉になってなくても美味しくいただけることだろう。

 

 折角ジネットがあれこれと作ってくれたのに、胃袋のほとんどを小麦粉とタコが占領している。……何やってんだかなぁ、ホント。

 

 その後、長い長い食休みを経て、俺たちは各々の帰るべき場所へと帰っていった。

 

 俺はもちろん――陽だまり亭にだ。

 

 

 

 

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