教会での夕飯は、まさに戦場だった。
「あたしの方がいっぱい食べられるです!」
「あたいの方がすげぇよ!」
「あたしは大食い大会出場選手ですよ!?」
「あたいもだ!」
大会で共に一敗を喫した二人が、くだらないことでいがみ合っている。
聞けば、「どっちがたくさんたこ焼きを食べられるか」という勝負らしい。
……アホらしい。
お前らがどんなに頑張ったところで、ベルティーナがナンバーワンになるのは目に見えてるんだから。
無駄な争いは消耗するだけだぞ。
「「たこ焼きやきたいー!」」
「……残念ながら、この仕事は厳しい実技試験を受けて初めて免許皆伝になるもの。やすやすと譲るわけにはいかない」
なんだかもう、たこ焼きの大食い大会は開催決定らしく、マグダがたこ焼き職人としての闘志を燃やしていた。
妹たちは、おねだりするようにマグダの周りにまとわりついている。
商品じゃないからやらせてやってもいいんじゃないか?
失敗したやつはウーマロに食わせればいいんだし。
「勝負方法は簡単です! たこ焼きを多く食べた方が勝ちです!」
「おう! 熱かったからとか、あとで言い訳すんじゃねぇぞ!」
「こっちのセリフです!」
「こっちの…………『熱かった』って言い訳がロレッタのセリフってことは…………熱かったからとか、あとで言い訳すんじゃねぇぞ!」
「アレ!? 状況が変わってないですよ、デリアさん!?」
「ん?」
……大丈夫なのかな、こいつら。
「では、たこ焼き大食い大会! 勝者には、お兄ちゃんと一日デート出来る権利をプレゼントです!」
ってコラ待て、ロレッタ。
お前は何を勝手に……
「やったぁ! あたい、超頑張るっ!」
……あ~あ。デリアに「さっきのは冗談」とか、通じないぞ。
デリア、そういうのすっごいヘコむんだからな…………ったく、しょうがねぇな。
「分かった。じゃあ、一日どこかに連れてってやるよ」
「やったです! 本人の許可が出たです!」
「俄然やる気が出てきたさね……」
「ボ、ボクも、ちょっと興味あるかもなぁ……い、いや! たこ焼きに、だよ! いっぱい食べてみたかったんだ、前から! ホントだよ!?」
なんだか、ノーマとエステラも参戦するようだ。
「ぅう……みりぃ、そんなに食べられないし……でも、参加だけはしてみようかな」
「お家デートも可、やったら、ウチも出ようかな」
「「「「お家デート!? なんかいいなぁ、それ!?」」」」
物凄い食い付いたな。
つか、ミリィとレジーナも参加するのかよ。
「私は、家では全裸なのですが、その場合は……」
「おーいみんなぁー、ナタリアもう帰りたいってー!」
「冗談です! ちゃんと服は着ておきます! ですから参加権をください!」
最近飛ばしまくりのナタリアには、熱ぅ~いお灸が必要かもな。
まぁとにかく、これで参加者は出揃ったかな……
「……妹たち。あなたたちはもう一人前。きっと素晴らしいたこ焼きが作れるはず」
「って、こら。お前も参加する気か、マグダ」
「……浮ついた者たちに、たこ焼きの真髄を見せつけるには、マグダ自身が参加することこそが相応しいと判断した結果」
「へぇ、そうかい」
「……ちなみに、お家デートの際は日向ぼっこを所望」
「勝てたらな」
マグダの目がキラキラしている。
こいつの表情も、随分読み取れるようになってきたな。
「あらあら。面白そうですね。では、私も……」
「「「「「シスターはダメ!」」」」」
「えぇ……なぜでしょう?」
いやぁ……なぜかって…………プロ、だからじゃないか?
参加者が満場一致で拒否権を発動した。 ベルティーナの参加は無理だろう。
「あ、あの! わたしも、参加したいです!」
「えっ!? ジネットちゃんが!?」
「店長さんがこういうのに参加するのって、珍しいです!」
「……ダークホース」
ジネットの参加表明に、そこにいた全員が目を丸くした。
あまりこういうのには参加しないジネットなのだが、結婚式や祭りの雰囲気にでも当てられたのだろうか。
「わたしが勝ったら、ヤシロさんとお人形遊びがしたいです!」
なんだとっ!?
「一日中、ずっとです!」
「俺も参加する!」
「お兄ちゃんまで!?」
当たり前だろう、ロレッタよ。……お人形遊びに一日付き合わされて堪るか。
「……ヤシロが優勝すれば、ヤシロはヤシロの部屋で丸一日……」
「ただの引きこもりじゃないのかい、それって!? レジーナの日常じゃないか」
「失敬な領主はんやなぁ……まぁ、否定こそ、せぇへんけども!」
誰がレジーナレベルだ。
こうなったら意地でも優勝して、お前らの目論見をことごとく潰してやる!
「ヤシロさん……私の参加を認めてくだされば、ジネットの目論見は露と消えますよ?」
「ベルティーナが勝ったら一日中飯作らされるんだろ? ヤだよ、そんな高カロリーな休日」
お前はお前で、勝負には参加せず、勝手にもりもり食ってろ。
妹たちなら、文句も言わずに焼き続けてくれるだろうよ。
「「「「それじゃー、どんどん焼くよー!」」」」
妹の声に俺たちの表情が引きしまる。
ルールは簡単。
一個ずつ順番に食っていき、食えなくなったら脱落。
最後まで残っていたヤツが優勝だ。
自分のペースで食い続けられる大食いとは異なり、食った後の待機時間が満腹を誘う、恐ろしいルールだ!
「さぁ、大食いを始めようか」
こうして始まったたこ焼きロワイヤルは……二時間の死闘の末、ノーマが優勝を勝ち取った。
いやぁ、あまりに地味過ぎて語ることがないのだが……とりあえずしばらくたこ焼きは見たくない。
そうだな……、ノーマの家に行くなら何か美味いもんでも食わせてもらおうかな。
「おにーちゃん、粉なくなったー」
「シスター、まだ食べたいってー」
「小麦畑にでも叩き込んでおけよ、もう!」
ベルティーナなら、粉になってなくても美味しくいただけることだろう。
折角ジネットがあれこれと作ってくれたのに、胃袋のほとんどを小麦粉とタコが占領している。……何やってんだかなぁ、ホント。
その後、長い長い食休みを経て、俺たちは各々の帰るべき場所へと帰っていった。
俺はもちろん――陽だまり亭にだ。
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