異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

挿話14 陽だまり亭のクリスマス -4-

公開日時: 2021年1月6日(水) 20:01
文字数:1,859

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「ぁ、てんとうむしさん」

 

 開店して間もなくてんとうむしさんがお店にやって来た。

 飲食店や朝の早い人のために、お店はこの時間からやっている。常連さんは朝一で買いに来てくれるけれど、てんとうむしさんがこの時間に来るのは初めて。

 またお花を買ってくれるのかな?

 

 注文された花を取りに、店の前に出て来たところだったんだけど、てんとうむしさんが来たからちょっと中断。話を聞く。

 

「モミの木ってないか?」

「もみのき?」

 

 木…………は、売ってない。

 

「生花ギルドの管理している森に生えてないかな? 気候とか一切無視した無茶な話なんだが、この街だったらなんでもありな気がしてさ」

「ぇ? 気候? 無茶?」

 

 口早に、てんとうむしさんはどこか言い訳めいたことをしゃべり、真剣な目でみりぃを見つめてくる。

 なんだか、とっても焦っているみたい。

 

「もみのきって……こう、ギザギザってしたやつ……だよね?」

「そうだ。こんな感じの」

 

 そう言って、空中にギザギザとした木を描く。うまく特徴を捉えているなぁ、と思った。

 

「それなら、ある……と、思う」

「なんとか譲ってもらえないか?」

「ぇ…………なにするの?」

「飾りつける!」

「…………なに、するの?」

 

 答えを聞いたら余計分からなくなった。

 けれど、森の木を譲ることはたぶん出来る。

 木こりギルドの人にお願いすれば切ってくれるだろうし、木こりギルドなら、てんとうむしさんに知り合いがいるはずだから。

 

「出来れば、小さめのヤツがいいんだよな。1メートルくらいの」

「ぇ……? そんなサイズじゃ、木材にはならない……よ?」

「あぁ、いいんだ。そのまま使うから」

「その、まま?」

 

 てんとうむしさんはいつもちょっと不思議なことを言う。

 けれど、その不思議なことが最後にはとても素敵なことになる。

 なら、今回の不思議なことも、最終形態を見てみたい。

 

「ゎかった。その大きさならみりぃが行って切ってきてあげるね。陽だまり亭に届ける? ……それとも、一緒に、行く?」

 

 てんとうむしさんと一緒にいるのは楽しい。

 一緒に森に行けたら…………きっと、また楽しい。

 

「あ、悪いな。今日はクリスマスの準備をしたいんだ。届けてくれると助かる」

「くりすます…………って、なに?」

 

 初めて耳にする言葉。

 

「クリスマスってのは、俺の故郷のイベントで……なんていうか……まぁ楽しいもんだ」

「どんなことするの?」

「まぁ、だいたいが恋人同士でイチャコライチャコラ…………なんか腹立ってきたな」

「こいびとさんの日?」

「まぁ、そうなってるかな、最近は」

「ふぅん……」

 

 こいびとさんがいないみりぃには、関係ないかもしれないなぁ。

 

「それじゃあ、お昼頃に届けるね」

「おう。よろしくな。俺はこれからネフェリーのところに行ってくるよ」

「ぇ……?」

 

 ねふぇりーさんのところに?

 

「……たまご?」

「あ、いや。たまごは関係ない」

 

 じゃあ、ねふぇりーさんに、用事……かな?

 

「クリスマスには、絶対必要だからな。OKしてくれるかは分からんが、頼んでみるよ」

「それって……」

 

 ねふぇりーさんと、こいびとさんになれるように?

 

「んじゃ、またな。あ、そうだ。夜ヒマなら陽だまり亭に来てくれよ。じゃあな」

「ぁ…………行っちゃった……」

 

 どうしよう……言いそびれちゃった。

 

「ねふぇりーさん、今、ここにいるのに……」

 

 みりぃはお店の中に視線を向ける。

 ねふぇりーさんは毎日お花を買いに来てくれる常連さんで、今も、おすすめのお花をみりぃが選んでいるところで……

 今、ねふぇりーさんは、入り口のところで立ったまま固まっている。

 お花の陰になって、てんとうむしさんからは見えなかったのかな。

 

「ぁの……ねふぇりーさん?」

「…………私…………帰るね……」

「ぁ……お花は?」

「また、あとで、取りに、来るから!」

 

 ぎくしゃくと、油が切れた荷車の車輪みたいにぎこちない動きでねふぇりーさんが帰っていく……こいびとさんに……なるのかなぁ?

 

「ミリィ!」

「ミリィさん!」

 

 ねふぇりーさんと入れ違いで、えすてらさんといめるださんがやって来た。

 

「揉まれてないかい!?」

「ぇ……な、なにを?」

「その反応……無事なようですわね」

「ぇ…………う、うん……無事」

 

 なんだか、二人がすごくほっとしている……揉まれる?

 

「それで、ヤシロは!?」

「どこにいますの!?」

「ぁ…………ねふぇりーさんの、ところに……」

「くそ! 本命は鳥か!」

「急ぎましょう!」

「ぁ…………行っちゃった……」

 

 本命…………なのかな、やっぱり。

 

「モミの木……取りに行こうっと」

 

 みりぃは、荷車を引っ張り出し、森に向かいました。

 

 

 

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