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「ぁ、てんとうむしさん」
開店して間もなくてんとうむしさんがお店にやって来た。
飲食店や朝の早い人のために、お店はこの時間からやっている。常連さんは朝一で買いに来てくれるけれど、てんとうむしさんがこの時間に来るのは初めて。
またお花を買ってくれるのかな?
注文された花を取りに、店の前に出て来たところだったんだけど、てんとうむしさんが来たからちょっと中断。話を聞く。
「モミの木ってないか?」
「もみのき?」
木…………は、売ってない。
「生花ギルドの管理している森に生えてないかな? 気候とか一切無視した無茶な話なんだが、この街だったらなんでもありな気がしてさ」
「ぇ? 気候? 無茶?」
口早に、てんとうむしさんはどこか言い訳めいたことをしゃべり、真剣な目でみりぃを見つめてくる。
なんだか、とっても焦っているみたい。
「もみのきって……こう、ギザギザってしたやつ……だよね?」
「そうだ。こんな感じの」
そう言って、空中にギザギザとした木を描く。うまく特徴を捉えているなぁ、と思った。
「それなら、ある……と、思う」
「なんとか譲ってもらえないか?」
「ぇ…………なにするの?」
「飾りつける!」
「…………なに、するの?」
答えを聞いたら余計分からなくなった。
けれど、森の木を譲ることはたぶん出来る。
木こりギルドの人にお願いすれば切ってくれるだろうし、木こりギルドなら、てんとうむしさんに知り合いがいるはずだから。
「出来れば、小さめのヤツがいいんだよな。1メートルくらいの」
「ぇ……? そんなサイズじゃ、木材にはならない……よ?」
「あぁ、いいんだ。そのまま使うから」
「その、まま?」
てんとうむしさんはいつもちょっと不思議なことを言う。
けれど、その不思議なことが最後にはとても素敵なことになる。
なら、今回の不思議なことも、最終形態を見てみたい。
「ゎかった。その大きさならみりぃが行って切ってきてあげるね。陽だまり亭に届ける? ……それとも、一緒に、行く?」
てんとうむしさんと一緒にいるのは楽しい。
一緒に森に行けたら…………きっと、また楽しい。
「あ、悪いな。今日はクリスマスの準備をしたいんだ。届けてくれると助かる」
「くりすます…………って、なに?」
初めて耳にする言葉。
「クリスマスってのは、俺の故郷のイベントで……なんていうか……まぁ楽しいもんだ」
「どんなことするの?」
「まぁ、だいたいが恋人同士でイチャコライチャコラ…………なんか腹立ってきたな」
「こいびとさんの日?」
「まぁ、そうなってるかな、最近は」
「ふぅん……」
こいびとさんがいないみりぃには、関係ないかもしれないなぁ。
「それじゃあ、お昼頃に届けるね」
「おう。よろしくな。俺はこれからネフェリーのところに行ってくるよ」
「ぇ……?」
ねふぇりーさんのところに?
「……たまご?」
「あ、いや。たまごは関係ない」
じゃあ、ねふぇりーさんに、用事……かな?
「クリスマスには、絶対必要だからな。OKしてくれるかは分からんが、頼んでみるよ」
「それって……」
ねふぇりーさんと、こいびとさんになれるように?
「んじゃ、またな。あ、そうだ。夜ヒマなら陽だまり亭に来てくれよ。じゃあな」
「ぁ…………行っちゃった……」
どうしよう……言いそびれちゃった。
「ねふぇりーさん、今、ここにいるのに……」
みりぃはお店の中に視線を向ける。
ねふぇりーさんは毎日お花を買いに来てくれる常連さんで、今も、おすすめのお花をみりぃが選んでいるところで……
今、ねふぇりーさんは、入り口のところで立ったまま固まっている。
お花の陰になって、てんとうむしさんからは見えなかったのかな。
「ぁの……ねふぇりーさん?」
「…………私…………帰るね……」
「ぁ……お花は?」
「また、あとで、取りに、来るから!」
ぎくしゃくと、油が切れた荷車の車輪みたいにぎこちない動きでねふぇりーさんが帰っていく……こいびとさんに……なるのかなぁ?
「ミリィ!」
「ミリィさん!」
ねふぇりーさんと入れ違いで、えすてらさんといめるださんがやって来た。
「揉まれてないかい!?」
「ぇ……な、なにを?」
「その反応……無事なようですわね」
「ぇ…………う、うん……無事」
なんだか、二人がすごくほっとしている……揉まれる?
「それで、ヤシロは!?」
「どこにいますの!?」
「ぁ…………ねふぇりーさんの、ところに……」
「くそ! 本命は鳥か!」
「急ぎましょう!」
「ぁ…………行っちゃった……」
本命…………なのかな、やっぱり。
「モミの木……取りに行こうっと」
みりぃは、荷車を引っ張り出し、森に向かいました。
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