異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

無添加38話 玉入れ~スポーツマンシップに則って~ -1-

公開日時: 2021年3月31日(水) 20:01
文字数:3,462

「折角着替えたんですから、シスターも参加しましょう。ね?」

「いえ、私は……」

「一緒に出たいです」

「もう……ジネットはたまにすごくわがままになりますね。特に、最近は」

「えへへ」

 

 なんて、母娘の微笑ましい会話がなされている。

 二人ともブルマで。

 いいねっ!

 

「顔の筋肉が緩みっぱなしのところ悪いんだけどね、ヤシロ」

 

 ふゃ~んとした俺の頬を摘まんで、エステラがルールの書かれた紙を俺に突きつける。

 

「この次の『玉入れ』は、頭上のカゴに玉を入れる競技だからね」

「なんだよ、改めて。知ってるよ」

「他チームの選手の玉を奪ったり、カゴを倒したり、玉拾いや投擲の妨害したりするのは禁止だからね! ここに明記してある」

 

 玉入れでは、他のチームの選手の体に触れる行為や、他のチームの玉に触る行為は基本的に禁止されている。

 他チームの玉を全部集めて投げさせない――なんてのは当然出来ないわけだ。

 

「あと、他の選手が投げた玉をキャッチするのも禁止だよ。もちろん、カゴの前に壁を作るのもね!」

「だから、分かってるっつうの! なんなんだよ?」

「君なら、何かしらの裏工作をしてくるだろうと思ってね」

「お前なぁ……俺が信用できないってのか?」

「今日だけで何回奇抜な作戦を実行したのさ!? それでまだ信用が残っていると考えられるとは、驚きだよ」

 

 バカモノ。

 俺はただの一度たりともルール違反はしていない。

 こんなにもスポーツマンシップに則っているのというのに、心外だ。

 

「スポーツマンシップに則って玉入れをやろうぜ、お互いにな☆」

「……君に言われると、詐欺の入り口に立たされているような気分になって、背筋がゾクゾクするよ」

「そのうちクセになるかもよ」

「冗談は顔だけにしてくれるかい?」

 

 暖を取るようにおのれの二の腕をさするエステラ。

 そんなエステラの後ろに、『お客様の中にレース』で引っ張り出されたレジーナが立っていた。

 

「自分ら……『スポーツマンのヒップに乗っかって玉を出し入れしてたら背筋がゾクゾクしてクセになりそうやわ~ん☆』とか、大きい声で言うたらアカンで?」

「ベルティーナさーん、ちょっとー!」

「ちょっ、アカンて領主はん! 冗談やんか! なんもない! なんもあらへんさかいに! シスターはんはな~んも気にせんでえぇで!」

 

 両腕をバタバタ振って懸命に誤魔化すレジーナ。

 こいつ、頭いいはずなのに学習しないよなぁ。

 

「ほんまもう、発言には気ぃ付けてほしいわぁ、領主はん」

「それはこっちのセリフだよ。子供たちもいるんだから羽目を外し過ぎないようにね」

「え? 何をハメるって?」

「よし、レジーナ。次の玉入れに強制出場決定ね」

「ちょっ!? なんでなん!?」

「チームリーダー権限と領主権限のダブル発動」

「かなんなぁー! もうそろそろお日様真上に来るやん!? いっちゃん暑ぅなる時間やん! そんな時間に太陽の下でタマタマ弄くり倒さなアカンのかいなぁ!?」

 

 ブレねぇな、レジーナ……何を言われてもぶっ込んできやがる。

 まぁ、ここまでどの競技にもまともに参加してなかったんだ。強制出場でもなんでも、参加させてやるべきだろう。

 あいつは強引に引っ張り出しでもしなければ動かないからなぁ。

 そのくせ、ちょっと出てみたかったなぁ~とか、あとになってこっそり思ったりしてんだから。寂しがり屋のくせに、それ以上に面倒くさがり屋なんだよな、まったく面倒くさい。

 

「んじゃ、そっちはそっちで頑張れよ」

「ふふん。こっちには狩猟ギルドがいるからね。標的に命中させるのはお手の物さ」

「命中ね……」

 

 玉入れは的に当てるのではなく、カゴに入れる競技だ。

 その差に気付いていないのであれば、俺たちには勝てない。

 

「確かに、『的に当てる』のは得意だよな。ウチのマグダとリカルドも」

「数は力だよ、ヤシロ。メドラさんを有する黄組でさえ、数を揃えた青組には敵わないんじゃないかなぁ」

「言ってくれるじゃないかい、エステラ。アタシが子供らに負けるわけないじゃないか」

 

 巨大な体を揺らし、メドラがエステラの前に立ちはだかる。

 あの筋肉むきむきのオッサンどもを『子供ら』って、お前……ベルティーナと似たようなこと言ってるはずなのに、この差はなんなんだろうな?

 

 余裕の表情で胸を張るメドラ。そういう格好をしていると、本当にデカいな、こいつは。クマみたいだ。

 エステラ食われそうだな~と、眺めていると、メドラが急に背を丸め腕を組んだ。胸を隠すように。

 

「……ダーリンの、エッチ」

「見てねぇわ」

「ヤシロ。嘘はよくないよ」

「疑いの余地を一切持たずにノータイムで決めつけてんじゃねぇよ」

 

 俺は別に乳しか見ない生き物じゃねぇんだぞ。

 ただ、なるべく多く長く頻繁に乳を見ていたいと思っているだけで。

 その差は天と地ほどもある。

 

「で、青組の出場選手は向こうにずらりと並んでいるむさ苦しいオッサンどもなのか?」

「そうだよ。狩猟ギルドで固めた必勝の布陣さ。ボクとナタリアも参加するけどね」

 

 エステラのヤツ。いまだ一位は死守しているものの、白組の追い上げにちょっと焦ってやがるな。稼げる時に点数を稼いでおこうって腹づもりか。

 

「黄組も負けてないよ。ノーマを筆頭に金物ギルドの器用者たちを集めさせたのさ」

「奇妙者? ……確かに」

「「「ひっどぉ~い~~ぃ、ヤシロちゃ~ん!」」」

 

 揃ってくねくねすんな、オッサンども!

 ノーマにパウラも参戦か。

 

「オシナも出るのネェ~☆」

 

 握りしめた鉢巻を振り回してぴょんぴょん跳ねるオシナ。

 なんだよ、オシナ。肌も若々しいんだな。太もものハリがまるで十代じゃねぇか。

 

「肩車したいな」

「ヤシロ、退場させるよ?」

 

 大会委員長が横暴だ。

 ろくでもねぇな、まったく。

 

 黄組も気合い十分といった布陣だ。

 確実に点数を取りに来ている。

 まぁ、それもそうだろう。メドラがいるんだ。狩猟ギルドに警戒するのは当然か。身内ゆえにその脅威をよく理解しているだろうしな。

 

 一方、我が白組はというと……

 

「皆のもの! わしに続くのじゃー!」

「「「ぅはは~い!」」」

 

 リベカ率いる『かわいい隊』のガキどもが腕を振り上げて気勢を上げている。

 白組のメイン選手層はガキどもだ。それも、年齢一桁のちんまいガキがほとんどだ。ちらほらと十~十三歳くらいの『お兄さん、お姉さん』が混ざっているけどな。

 

「……ふふ、『かわいらしい』ものよ」

 

 ふぁっさぁ~っと髪をかき上げて、いい女オーラを出しまくろうと画策しているマグダ。まぁ、オーラが出ているかどうかは受け取り手の判断に委ねられるところではあるが。

 

「大人の余裕を見せるマグダたん、マジ小悪魔ッスー!」

 

 ちょっとは出ているっぽいな。受信感度バリバリのヤツには届くくらいに。

 

「ウーマロ。投擲は得意か?」

「狙いを定めて、ってなるとちょっとどうッスかねぇ……。ここはカブリエルたちに譲るッス」

 

 そんなわけで、ガキどもの他にカブリエル&マルクス、イネス&デボラ、狩人の端くれリカルド、そして雑用係のロレッタと大本命マグダを参加させる。

 ここが白組勝利のための最重要人員だ。

 

 あとは特別枠としてジネットとマーシャが参加する。

 しゃがんで、ボールを掴んで、腕を振り上げて、ちょっと跳んだりしつつ、玉を投げる。

 そうしたらどうなる?

 ……もう、言わなくても分かるよな?

 

「ワクワク枠だ!」

「ヤシロくぅ~ん☆ 店長さんは気付いてないかもだけど、私はばっちり気付いてるからね☆」

 

 いつもの水槽ではなく、底の浅いたらいに浸かってマーシャが尾びれで塩水を叩く。

 深いと地面に散らばる玉が拾えないからな。

 とは言え、移動は出来ないわけで、ちょっと遠いところの玉を取るには腕を伸ばして背筋を伸ばして、ぐぃぃ~っと胸をそらさなきゃいけないことだろう。

 

「ワクワク枠っ!」

「ヤシロ君、めげないねぇ~☆」

 

 尾びれが塩水を飛ばしてくる。

 ふふん! マーシャが浸かっているたらいの水ならご褒美だ! もしそれが出汁の風味香るすまし汁だったなら一気飲みしているところだぜ☆

 

「さぁ、子供たちよ! 我らの手で勝利をもぎ取ろうぞ!」

 

 赤組の選手団の中で、ルシアが腕を振り上げガキどもを鼓舞している。

 赤組も、参加選手のほとんどがガキどもだ。教会のガキとロレッタの弟妹たちがわらわらしている。

 大人はルシアにデリアに、ジネットに勧められて参加するベルティーナ。そして、ギルベルタだ。

 ギルベルタと目が合うと、ぴこぴこっと触角が動いた。

 よしよし。うまくルシアとデリアを説得してくれたようだな。

 戦力的に不安は残るが、孤軍奮闘でなくなった分気分的に楽だ。やっぱ、エステラ領主を黙らせるにはルシア領主を引き込むのが手っ取り早いからな。

 

 

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート