異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

191話 激励に来た二人 -1-

公開日時: 2021年3月18日(木) 20:01
文字数:2,513

「ヤシロ様。四十区のデミリー様が、是非お会いになりたいそうです」

「ヤシロさん。お父様が会いたいそうですわ」

 

 ランチの賑わいが過ぎ去った頃、ナタリアとイメルダが同じタイミングで陽だまり亭にやって来て、それぞれが自分勝手に俺へと用件を告げてきた。

 同じタイミングで同じようなことを言いやがって。

 

「テメェが会いに来いと伝えてくれ」

「ヤシロ……相手を誰だと思っているんだい?」

「暑苦しいオッサンだろ?」

「それは一体どちらのことを……まぁ、両方だろうね、君の場合は」

 

 神経質なエステラが重いため息を漏らす。

 

「細かいことを気にしていると、デミリっちゃうぞ?」

「だから、君は他区の領主に対する敬いの気持ちをもう少しだね……っ!」

「いいじゃねぇか。ただの薄毛と幼女愛好家のオッサン二人なんだから」

「こらこら、人のいないところで陰口を叩くのは感心しないなぁ、オオバ君」

「言葉遣いってもんにもっと気を付けた方がいいぜ、ヤシロよぉ!」

 

 俺の言葉尻を捕まえるように、二人のオッサンがドアを開けて揃って陽だまり亭へと入ってくる。

 俺の裏をかいたつもりなのか、してやった感満載のしたり顔をさらす四十区領主のアンブローズ・デミリーと、木こりギルドギルド長スチュアート・ハビエル。

 

「よぉ、ハゲとロリコン」

「暴言がダイレクトになったねっ!?」

「目の前だから言っていいってわけじゃねぇんだぞ!?」

 

 ずかずかと近付いてきて俺を取り囲むように左右に立つ。

 

 ふん。

 やたら重厚な馬車の音が聞こえていたから、お前らが表に待機していることくらいお見通しだったっつの。

 

「マグダと妹たちを鑑賞に来たハビエルはともかく、デミリーは何しに来たんだよ? ウチの置き薬に育毛剤は含まれてねぇぞ?」

「悪意の塊なのかな、君は?」

「誰がマグダたんと妹たんたちを見に来たんだ!? 決めつけるな!」

「じゃあ、マグダ。妹を連れて教会に行ってろ」

「ぬわぁああ、待てい! それは言葉の綾で、いてくれた方が嬉しいに決まっているだろうが!」

 

 盛大に取り乱しているところ申し訳ないがな、ハビエル。お前の娘が死んだ魚を見るような目でお前のこと見てるぞ。

 

「……ハゲればいいのですわ」

「おぉい、スチュアートの娘! それ、こっちにも流れ弾飛んできているからね!?」

 

 イメルダの一言がハビエルとデミリーの心にダメージを与える。

 コンパクト且つ無駄のない攻撃。さすがだ、イメルダ。

 

「それで、くっそ遅い情報を聞きつけて『俺たちは同盟だ』とかいう話を完全に外したタイミングで言いに来たリカルドよりもさらに後になって、何を言いに来たんだ?」

「オオバ君……君は、本当に、心の底から意地が悪いんだねぇ……」

「こっちだって暇じゃねぇんだ。これでも、出来る限り急いで来たんだぜ?」

 

 要するに、こいつらも『BU』の動きを聞き及んで駆けつけてきたというわけだ。

 出遅れ感が半端ではないけどな。

 

 いや、情報は入っているはずだから、何かしら行動を起こしてから会いに来たのだろう。

 なにせ、ハビエルには馬を借りている。その時に話は伝わっているはずだ。

 

「三十六区から三十九区の領主と会ってきたよ」

 

 俺の向かいに座りながら、デミリーが言う。

 ハビエルもデミリーの隣にどっかと腰を下ろす。

 

「『BU』の連中は、いつも数に物を言わせて圧力をかけてくるからね、領主たちをこちらに引き込むのは割と簡単だったよ」

「つまり、全面対決になった際は、三十五区以下、四十二区までの領主が連盟を組めると、そういうことですか?」

 

 エステラがそんなことを言いながら俺の隣に座る。

 濃い顔ぶれが揃ったもんだな、このテーブル。

 

「まぁ、そういうことだ。もっとも、最悪の事態が起こらないに越したことはないというのが、全領主一致の意見ではあるがね」

「それは、ボクたちも一緒ですよ」

 

 くしゃりと顔を歪めて苦笑を浮かべるエステラ。

『BU』に対抗するために、結婚式のパレードに携わった区の領主が連盟を組む。

 もっとも、こっちは規則も罰則もない即席の連盟だ。結束力なんてあってないようなもので、どの区も「自区に被害が及ばないようにしたい」という理由で協力を申し出ているのだろう。

 

 全面対決なんてもんにもつれ込んだら惨敗は必至だ。

 だが、脅し程度には、なるかもしれないな。

 

「わざわざあっちこっちの領主と会って、しかもそれを伝えに領主自らが出向いてきたのか?」

「ふふふ。オオバ君に恩を売っておくと、後々いい思いが出来そうだからね」

「いい頭皮マッサージでも教えてほしいのか?」

「そんな無駄遣いはしないよ! 君に恩を売るチャンスはそうそうないからね!」

「本当は教えてほしいくせに」

「はっはっはっ、見くびってもらっては困るよオオバ君。私も長く生きているんだ。……自己流のマッサージは逆効果だということくらい、身に沁みてよく知っている」

「オジ様、会話の着地点はそこではない方がよかったのでは?」

 

 長く生きているから、自分の欲求になびいたりしないとか、そういう度量の大きなことは言えないらしい。

 

「それに、スチュワートが四十二区に来たいとうるさかったからね」

「……お父様(という名の赤の他人)、そんなに妹さんたちを愛でたくて……」

「違うぞぉ、イメルダ!? お前に会いたかったんだよぉ!」

 

 こいつらは本当にブレない。

 なまじ、オッサンになると成長とかしないもんな。あとは衰退あるのみだ。

 

「いや、なに。ドーナツという新しいデザートを生み出したそうじゃないか」

「生み出してねぇ。俺の故郷の食い物をこっちで作っただけだ」

「この街からすれば、それは誕生だよ」

 

 いい歳したオッサンが、二人して話題のスイーツを食いに四十二区まで足を伸ばしてきたのか? 日本だと失笑ものだな。スイーツ友達、スイ友か?

 

「四十区にラグジュアリーという喫茶店があるんだが……あぁ、君たちとは馴染みの店だったね……、そこのオーナーシェフがその味に惚れ込んでいたようでね」

「……来たのか、ポンペーオ?」

「はい。ヤシロさんがいないことに、かなり落胆されていましたよ?」

 

 にっこりと笑みと答えをくれるジネット。

 あのオッサン……またウチの味を盗みに来やがったんだな……つか、教わる気満々だったと見える。よかった、留守にしてて。

 

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