異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

228話 領主到着。……そして。 -1-

公開日時: 2021年3月23日(火) 20:01
文字数:2,084

「ようこそ、二十四区教会へ」

 

 ドニスとフィルマンを出迎えたのは、陽だまり亭一同。

 メイクを施したマグダとロレッタを両脇に従え、センターで太陽のような微笑みを湛えるジネットが来客を出迎える。

 ……つかロレッタ。いつの間にメイクしてもらってたんだよ? エステラが迎えに行く前、だよな。あの短時間で、リベカとソフィーの感動の再会の横でおねだりしたのか。たいしたヤツだよ、ホント。

 

 本来なら、教会のシスターであるソフィーやバーバラが出迎えるべきなのだろうが……ソフィーを連れてくると、出会い頭でフィルマンに危害を加えかねない。でなくとも、表情に出るだろうからソフィーは置いてきた。

 バーバラは……

 もし俺がドニスの立場で、初めてこの教会に来たとしよう。重い鉄門扉を開けた先にバーバラが立っていたら……悲鳴を上げて逃げ出す。

 後ろには鬱蒼と生い茂る林もあるしな。

 心臓に悪そうなので、バーバラも置いてきた。

 

 そんなわけで、陽だまり亭メンバーだ。

 こいつらは出迎えにも慣れているし、何より見た目に華やかだ。

 現に、ジネットたちがいる付近は鮮やかに色付いて見える。

 

「ほぅ、これは美しい」

 

 思わずといった感じで、ドニスの口からそんな言葉がこぼれ落ちる。

 もっとも、その「美しい」が指しているのは、陽だまり亭ご自慢の美人従業員たちではなく、ミリィ渾身のフラワーアレンジメントであるようだが。

 

 ドニスたちを出迎えたのは、三十五区にある花園の美しい花々。

 存在感たっぷりの飾りつけで、そこに小さな花園が誕生している。

 会場までの道を花で埋め尽くすことは敵わなかったが、緩急をつけた装飾で不足分をうまく補い「あえてそうしている」ようにすら感じさせる。

 ミリィはセンスがいい。

 うまく育てれば一流の詐欺師になれるだけの素質がある。ないものをさもあるように見せるそのセンスは、きっと詐欺の世界でも異彩を放つことだろう。

 

「まずは、こちらをお試しください」

 

 ジネットの言葉に、マグダとロレッタが花園の花の蜜――ネクターを差し出す。

 花のカップに入れられたネクターは、さながらウェルカムドリンクのようなものだ。

 

「これは、見事な味だな」

「え、えぇ。とても美味しいです」

 

 酒を飲まないドニスは結構甘党なようで、ネクターをとても気に入ってくれたようだ。

 一方、フィルマンの表情は冴えない。……女性に差し出された飲み物を受け取ったのが、そんなに気になるか。罪悪感に濡れた表情をさらすな、この拗らせボーイ。

 

「ぁは、ょかった……。喜んでもらぇて」

 

 林の中に身を隠す俺の隣で、ミリィがほっと息を漏らす。

 自分の飾りつけた花がどう見られるか、気になって見に来たのだ。

 

「お手柄だったな、ミリィ。おかげで第一印象は最高だ」

「ぇへへ……ぅれしい、な」

 

 くすぐったそうに笑うミリィの頭の上で、大きなテントウムシが揺れる。

 

「では、改めてご案内します。ミスター・ドナーティ」

 

 ジネットたちが脇へとよけ、エステラが先頭に立ってドニスとフィルマンを案内する。殿にはナタリア。

 ジネットたちはその場で見送る、プラス、ドアを閉める係だ。

 

「じゃ、俺たちも戻るか」

「ぅん。次の準備、だね」

 

 ドニスたちが林へ入る前に、ミリィと二人でその場を離れる。

 

 庭へと戻ると、ベルティーナを中心として、ガキどもがずらりと勢揃いしていた。

 長い紙を、並んだガキどもが協力して持ち、広げている。

 その紙には『ようこそ! 領主様。お会いできて光栄です』と書かれていた。いつの間にあんなもんを作ったんだ?

 

「うふふ。子供たちが、何かお役に立ちたいと言っておりましたので」

 

 それで、ベルティーナがこんな提案をして、ガキどもが協力して作った、というわけらしい。

 ナイスな思いつきだ。

 ガキどもにウェルカムされるのは嬉しいだろう、領主ともなればなおのことだ。

 

「おぉ、これは」

 

 林を抜けてきたドニスが、ガキどもの歓迎を受けて相好を崩す。

 ガキ嫌いではないようだ。むしろ、少し好きなのかもしれない。そんな感じの喜びが顔に表れている。

 ……まさか、この中の九歳女児辺りにときめいている、なんてことはないと信じたい。

 …………ないよな?

 

「こんな温かい歓迎を受けたのは実に久しぶりだ。感謝する」

 

 ドニスの言葉に、ガキどもが顔を見合わせてわっと声を上げる。

 喜ぶガキどもを見て大いに頷くドニスだが、ほんの一瞬だけ、眉根を寄せた。

 おそらく、怪我をした獣人族のガキどもについて、何か思うところがあったのだろう。

 この教会がそういう連中を保護、扶養しているということは知っていたのだろうが、実際会うことはそうそうない。

 バーバラに確認したところ、ドニスがこの教会を訪れるのは初めてなのだそうだ。

 何かある際は、バーバラが領主の館へと呼び出されているのだとか。

 

 毎朝教会に飯をたかりに来るどこぞの領主とは対照的だな。

 まぁ、この教会の意義を考えれば、みだりに部外者を入れられないってのは分かるのだが。

 

「元気のいい、子供たちだな」

「はい。元気は、この子たちの特技ですから」

 

 ベルティーナがそんなことを言う。

 ドニスは少し驚いたような表情を見せたが、微笑むベルティーナを見て「そうか」と呟いた。

 

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