異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

55話 増え続けるアレ -3-

公開日時: 2020年11月23日(月) 20:01
文字数:2,318

「俺は、本気でこの蝋像を彫った彫刻家を捕まえる!」

「今まで本気じゃなかったのかい?」


 エステラが空気を読まないツッコミを入れてくる。

 まぁ、今までもそこそこ本気ではあったが……


「この十日で分かったことが一つある」

「へぇ。聞かせてもらいたいね」

「謎の彫刻家の蝋像が設置された状況を分析して、ヤツの行動パターンを掴んだぜ」

「おぉ! お兄ちゃん、なんか頭いい人みたいです!」

「ヤシロさんは頭がいいんですよ」

「『頭』の前に何をつけるかで卑猥さは変わるけどな」

「「……?」」


 おいレジーナ。ピュアな二人にオッサン以下の下ネタかましてんじゃねぇよ。

 お前は口を閉じるか今すぐ帰るかどっちかにしろ。いや、やっぱ今すぐ帰れ。


「その行動パターンっていうのは?」


 エステラは興味深そうに俺に詰め寄ってくる。

 ふふん、よかろう。

 ならば聞かせてやる。俺の明晰な頭脳が弾き出したターゲットの行動パターンを!


「これまで中央広場に設置された蝋像は全部で二十四体!」

「はい。全部ここに揃っています」

「……ヤシロさんだらけで、オイラ……ちょっと気分悪くなってきたッス」


 食堂にずらりと並ぶ俺の像。

 ……確かに、気持ち悪いよな。どこのホラーハウスだよ。


「このうち、十二体は朝に発見されたものだ」


 一番最初の蝋像こそ設置されてからしばらく放置されていたが、二体目以降はその半分が寄付に行く前の早朝に発見されたものだ。

 それからも分かるように、これら十二体は夜間に設置されていると見て間違いない。


「つまり、このターゲットは、二分の一の確率で夜行性だ!」

「……夜行性じゃなかったら?」

「昼間に活動的な人だ!」

「そりゃみんな、そのどっちかに分類されるだろうさ!」


 エステラが、俺の完璧なプロファイリングにケチをつけてくる。

 考えもしないで批判ばかりする人って、や~ねぇ~。


「しかも、二十四体中十二体って……半分は日中に設置されているんだよね?」

「そうなのだ! だから、この十日間俺は日中に張り込みをしたのだ!」


 四十区に交渉へ赴いた日の午後、中央広場には俺の蝋像が設置されていた。

 それで、日中にも設置される可能性を知った俺は、日中に中央広場で張り込みを行うようになった。

 現行犯逮捕をしてやろうとしたのだ。


 だが、成果は…………


 俺が見ている時にはまったく動きがないにもかかわらず、妹たちに呼ばれたり、腹が減って陽だまり亭に戻ったりした隙を突いて蝋像は中央広場に設置されていた。

 まったく尻尾を捕まえられなかった……むしろ、俺の方が見張られていたんじゃないかと疑いたくなるレベルだ。

 とにかく、昼間の張り込みは敵にはすっかりバレてしまっているというわけだ。


「だから、今度は夜に張り込みを行おうと思う!」

「……なんだか……物凄く基本的な提案だね」


 いちいちうるさいヤツだ。

 折角人がやる気になっているというのに。


「でもヤシロさん……大丈夫なのですか?」

「まぁ、ちょっと昼夜が逆転してしまうかもしれんが……それでも俺は、この彫刻家を捕まえなければいけないのだ…………何があってもなっ!」


 この彫刻家が、陽だまり亭の未来を握っているかもしれないのだから!


「……ヤシロが、燃えている…………なんかキモイから」

「おい、マグダ! それ、俺には使うな!」

「自分で仕掛けたトラップに自分でかかるあたりがヤシロなんだよねぇ……」


 違うぞエステラ。マグダは分かっていてやっているのだ。

 この年中半眼無表情幼女は意外に計算高く強かなのだ。

 そろそろ構ってほしくなってきた頃合いなのだろう。耳をもふもふしてやればすぐにでも大人しくなるさ。


「お兄ちゃん。本当に夜に張り込みするですか?」

「あぁ。このままじゃ埒が明かんからな。……あぁ、お前の弟妹たちは連れて行かないから安心しろ。さすがに、夜中に引っ張り出すのは気が引けるからな」

「でも、それじゃあお兄ちゃん、一人で張り込むですか?」

「まぁ、そうなるだろうな。夜に張り込むなら気配を消せる少数……出来れば単体が好ましい。大勢で行けば気取られる可能性が高いしな」


 何しろ、敵は身を潜めている俺を発見し、避けるように蝋像を設置するような敏感なヤツなのだ。

 細心の注意を払う必要があるだろう。


「あ、あの、ヤシロさん…………」


 ジネットが心配そうな顔で俺を見つめる。今にも泣き出してしまいそうな表情だ。


「大丈夫だ、ジネット。危険なことをするわけじゃない」


 ターゲットがどんなヤツかが分からない以上、危険がないと言い切るのは早計ではあるが……ジネットを安心させるためだ。方便ということにしておこう。


「……はい」


 未だ、不安顔は消えないものの、ジネットは一応納得をしたようで小さく頷いた。


「では、せめて……これを」


 そう言って、一体の蝋像をスススッと俺の前へと押し出す。


「夜は、暗いですので」

「こんなもん使えるか!?」


 ここぞという時にアホの子を遺憾なく発揮するの、やめてくれないかな!?

 こんなもんに煌々と灯りを点けていたのでは張り込みにならない。

 だいたい、俺の体が徐々に溶かされていく様は見たくないっ!


「とにかく、今晩から張り込みを開始する。明日から早朝の寄付には付き合えないかもしれんが」

「それは仕方のないことだと思います。ですが、くれぐれも気を付けてくださいね?」


 俺の前へと押し出した蝋像の頭を撫でながら、ジネットが不安そうに言う。

 …………その言葉は、俺にかけてくれてるんだよな?

 大丈夫か? どっちが本物か分かってるか?


「ジネット…………念のために言っておくが、こっちが本物だからな?」

「え? 分かってますよ。うふふ……間違うわけないじゃないですか。ねぇ?」


 と、頭を撫でている蝋像に向かって笑顔を向けるジネット。

 ……語りかけてんじゃん!


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