「……ウェンディ」
花園に、ウェンディとセロンが立っている。
二人で並んで。
オシャレな正装に身を包んで。
「な、なんだい……、あんたにお母さんと言われる筋合いは……」
「お母さん」
「だから……っ!」
「お義母さん!」
「――っ!? あんたに言われる筋合いはもっとないねっ!」
ウェンディよりも前に、セロンが歩み出る。
牙を剥くバレリアに怯むことなく、堂々と胸を張り、一歩一歩、しっかりとした足取りで近付いていく。
そして、バレリアとチボーの前に立つと、二人それぞれに頭を下げた。
「ご挨拶が遅れて、申し訳ありません」
「ベ、別に、あんたに挨拶をしてもらういわれはないよ」
そっぽを向くバレリア。
しかし、セロンは怯まない。
まっすぐとウェンディの両親を見つめ、淀みのない声で言う。
「今回、英雄様をはじめ、本当の多くの方が行動を起こしてくださいました。すべてが僕たちのためだなんて思っていません。ですが、きっかけは、間違いなく僕たちの結婚話でした」
「…………」
バレリアは何も言わない。
ただ、チボーが黙って肩に置いた手に、バレリアも無言で自分の手を重ねた。
「それなのに、僕には、この恩に報いる術がありません。でも……いえ、だからこそ」
セロンが拳を握る。
決意のこもった力強い目で、口調で、はっきりと宣言する。
「僕は、僕の残りの人生のすべてをかけて、ウェンディを幸せにすると誓います! 今、この場にいるすべての人に!」
誓いを破れば、カエル――
それだけの決意を、セロンは示してみせた。
「絶対に幸せにしてみせます! いえ、二人で幸せになってみせます!」
そっと、ウェンディがセロンの隣に並び立つ。
手を取り合い、身を寄せて、真剣な眼差しを両親へと向ける。
「僕たちの結婚を、認めてくださいっ!」
「お父さん。お母さん。お願いします!」
セロンに続いてウェンディも頭を下げる。
腰が直角に曲がる、深い深いお辞儀だ。
それを受け、バレリアは……鼻を鳴らした。
鼻をすするように、少々乱暴に息を吸い…………厳めしい顔のまま、せめてもの抵抗に視線を逸らして――
「勝手にしなっ!」
――そう言った。
「ただしっ!」
そして、そこから先は、両目を真っ赤に染めて泣きそうな顔で――
「ウチの可愛い娘を泣かしたら、四十二区だろうが地の果てだろうが、どこだってすっ飛んでいって、あんたを張っ倒してやるからねっ! 覚悟しなっ!」
「はいっ!」
セロンの、キレのいい返事が青空へ響き渡る。
わっと拍手が湧き起こったのは、その直後だった。
「……お…………母さんっ!」
ウェンディが駆け出し、バレリアの胸へ飛び込む。
人目も憚らず、声を上げて泣くウェンディ。何度も腕の位置を変え、最もぴったりとくっつける態勢を探すように、母親にその身を寄せる。
「バ、バカだねぇ……な、泣くやつがあるかい……っ!」
「ごめん…………ごめんね…………私、ずっとお母さんのこと…………」
「いいんだよ。バカだね。何年あんたの母親やってると思ってんだい…………何も言わなくたって、あんたのことくらい、分かってんだよ」
これでようやく、意地っ張りな親子が和解できたわけだ。
凄まじい勢いで鱗粉飛びまくってるけど…………まぁ、大目に見ようかな。
とりあえず、たこ焼き屋はちょっと避難しようか?
「ウェンディ……」
「お父…………さん」
母に抱きつくウェンディの頭を撫でるチボー。
こいつも、二人の結婚を認めたようだ。
穏やかな表情をしている。一端に、父親に見えるじゃねぇか。
「お前の、好きなように生きなさい」
「お…………父……さ…………」
ウェンディの肩が小刻みに震える。
そして……
「ぷふぅーっ!!」
盛大に吹き出した。
「やっ……もう! お父さ……っ! ふ、服着て…………ふふふふふ、おと、お父さんが服を…………くすくすくすっ! も~ぅ! 服とか着て真面目な顔しないで、お父さん…………あ~、お腹痛い…………っ!」
めっちゃ爆笑してる!?
「え? え? に、似合わないか? 似合っているだろう?」
「うふふ……お、お父さんには……半裸しか、似合わないよぉ」
そんな父親、嫌過ぎるな。
「そんなことないだろう!? よく見なさい! な、なぁ? カーちゃんもそう思うだろう?」
「似合わないね」
「カーちゃん!?」
「うふふっ……くすくすくすっ!」
「あはははっ!」
「ちょっ!? 二人とも!? 酷くない!? それ、ちょー酷くない!?」
多少変態的ではあるが、傍目から見れば仲の良さそうな一家に見える……かもしれない。
うん、見える……見える、よな? うんうん。
「英雄様っ!」
花園を、イケメンが手を振りながら爽やかに駆けてくる。
あぁ、しまった。
落とし穴を掘り忘れた。
「英雄様のおかげですっ!」
「チボーが服を着たのがか? それならウクリネスに……」
「そうではなくて、僕たち…………ちゃんと結婚できそうです!」
あぁ、そう。
そっちね。
うんうん。
いいんじゃない?
俺らも、そのために必死に走り回ってたんだし。
周りでは、この一連を見て女子たちがウルウルしてるし。
なんでかウッセも空を見上げたまま固まってるし……泣いてんのかよ、オッサン。
いいことなんじゃない。
みんなハッピー。
さぁ、これで心置きなく結婚式が開けるぞ。
めでたしめでたしだ。
ただな、セロン。
「爆ぜろ」
「なぜですかっ!?」
なぜとな!?
リア充が爆ぜるのに理由が必要かね!?
ジジババのイチャラブばっかだったから、フレッシュな感じでお前らのイチャラブを見たいとか言ったけどさ、見たら見たで「イラァッ!」ってするんだよね!
「爆ぜろ」
「二回目っ!?」
「お前だけ爆ぜろ!」
「ご指名っ!?」
あぁ、俺……結婚式とかちゃんと最後まで見られるかなぁ……
ともあれ。
そんな感じで、その日の花園はいつも以上に騒がしい場所になったのだった。
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