「ハビエル、大丈夫だったか? 個人的には頚動脈切断されればいいと思ったけど」
「おぉ、すまんな、ヤシロ。なぁに、イメルダの癇癪はいつものことだから慣れて……お前サラッと酷いこと言うな!?」
「つーか、なんでお前が選手の応援席にいるんだよ。貴賓席へ帰れよ。隣で太陽光反射されて眩しいのは分かるけど」
「聞こえているよ、オオバくーん!」
貴賓席でデミリーが叫ぶ。
……あいつ、こういう時だけ無駄に耳がよくなるよな。
「どうだ、ヤシロ。ワシをチームに入れてみんか? メドラみたいに、ワシも支部の連中をちょっと揉んでやりたくなってなぁ」
「今さら過ぎるだろう? 支部長でよければ、俺が代わりに揉んでおいてやるから我慢しろよ」
「揉ませませんわよっ!?」
「お前よぉ……、父親の前でよくそんなこと言えるよなぁ、それも真面目な顔で」
だって、もしかしたら「じゃあ、頼む!」って言われるかもしれないじゃん!
俺は、そのわずかな可能性を否定したくはないのだ!
「というかだな、ハビエル。さすがにそれは難しいと思うぞ」
「そんなことはないだろう。リカルドだって途中参加したじゃないか」
「お荷物のリカルドと違って、お前の戦力はメドラ級だからな。他チームからのクレームは必至だ」
「そうですよ、ミスター・ハビエル! あなたが白組に入ることは青組チームリーダーとしても、大会委員長としても、さすがに看過できません! お荷物のリカルドならともかく!」
「我ら赤組も、チームリーダー代行のこのルシア・スアレスが反対を表明する! そこのお荷物ならともかく、貴様はダメだ!」
「だったらだったらネ~ェ、黄組も反対するのネェ~。お荷物の領主様はともかくネェ」
「貴様らいい加減にしろよ!? 特にオシナ! 貴様は俺の区の人間だろうが! 敬いの心を忘れんな!」
「アラアラぁ~。エステラちゃんなら、こういうの笑って許してくれるのにネェ」
「仕方ないよ、オシナ。ボクとリカルドじゃ、器の大きさが違うからね」
「テメェ、エステラ! 調子乗ってんじゃねぇぞ!」
「え、なんですか? 四十二区の催し物にどーーーーしても参加したくて、かーなーりー強引に割って入ってきた他所の区の領主様、どうかされましたか?」
「テメェ……オオバに会ってから日に日に性格が捻じ曲がっていってるよな、絶対」
こらこら。俺のせいにするんじゃない。
エステラはもともとひねた性格をしていたんだ。
むしろ、俺と出会って少し素直になったくらいだぞ。リカルドに面と向かって「ウザい」って言えるくらいにはな。ぷぷぷっ。
「まぁ、アタシはどっちでも構いやしないけどね。木こりが一人増えたところで、アタシが軽く捻ってやるさ」
メドラが腕を組んでハビエルの前に立ちはだかる。
……ってことは、それくらいハビエルが無視できない存在だってことだよな。自分が直接出て行かなきゃいけないくらいの。
「ふぅむ……」
メドラの顔を見て、ハビエルは肩をすくめた。
自分のわがままを通していい場面かどうかを悟ったのだろう。
ちょっと残念そうに、それでいてこちらに気を遣わせないように軽い口調で「へいへい、分かったよ」と参加を取りやめた。
「メドラに捻られちゃ、一年は斧が持てなくなるからな」
そんな冗談と共に、にかっと白い歯を見せる。
豪胆な笑みだ。
「まぁ、この次何かやるなら最初から参加させてくれよ。出来ればこの運動会みたいな、わくわくするような催し物によ」
手を振り貴賓席へと戻っていくハビエル。
その背中は少し寂しそうだが……
「もとを正せば、単純にウチのかわいい隊とお近付きになりたいスケベ心からの参加表明なので全然罪悪感が湧いてこない」
「ですわね。むしろ、悪の芽が潰え去ったと安心しましたわ」
バトルアックスを地面に突きたて、イメルダが長い息を漏らす。
……斧がグレードアップしてる……狩りなら森でやってくれ。狩猟ギルドの許可を取ってからな。
「で? お前は応援合戦に出ないのか?」
白組の次は赤組の番だ。
目立ちたがり屋のイメルダが、こんなにも注目される応援合戦に参加しないとは思わなかった。
「コンセプトが合いませんでしたの」
「コンセプト?」
「ワタクシの案では、このグラウンドに深紅のバラを敷き詰めて、その上で華麗に舞うイメルダ様Withそこら辺の人々、という案を出したのですが却下されまして」
「そりゃそうだ」
お前の独壇場じゃねぇか。なんだ『そこら辺の人々』って。雑にもほどがあるわ。
「七時間に及ぶ感動巨編でしたのに!」
「長ぇよ! よくぞ止めてくれたもんだよ、チームリーダー!」
運動ではあまり見せ場を作れないイメルダだ。芸術面で盛大にアピールしようとしていたんだろうな。
基礎体力はあるんだけど、どんくさいというか、どこか抜けているというか、純粋に残念な娘というか……イメルダお前、残念だな。
「採用された演目は、汗臭そうでワタクシ向きではありませんわ」
「汗臭そう?」
「そんなことはないであろう、イメルダよ」
不貞腐れるイメルダの向こうに、ルシアがひょっこり現れる。
「私は楽しみにしているぞ。きっと素晴らしいものになる。なにせ……ミリィたんも出るからな! むはー! わくわくと同時になぜかよだれも止まらん!」
「ギルベルター、連れて帰ってくれー」
「了解した、私は」
ずりずりと引き摺られていくルシア。
そうそう。デリアが着替えのために更衣室に行っていたから、さっきルシアが勝手にチームリーダー代行を名乗っていたのだ。
ベルティーナもいないし、ミリィもいない。
イメルダは、いろいろな雑務に追われるリーダー職には難色を示し、「ワタクシはリーダーというよりエースですわ!」ってタイプだし。
ルシアが代行で文句を言うヤツはいないわけだ。
……なんかアイツが四十二区に侵食してきているみたいですごくヤダ。
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