さて、お次は。
「というわけでウーマロ」
「分かったッス! お金がもらえるならその仕事引き受けるッス! ウィシャート様の仕事は、なんとか誤魔化しつつ、こっち優先で頑張るッス!」
それが出来るなら最初からそうしておけばいいのに。
まぁ、危険な橋を回避するのも、責任者の務めではあるからな。
今回の責任者はエステラだ。ウーマロは気軽にやればいい。
「今回の責任者はヤシロさんッスからね。オイラは気軽にやらせてもらうッス」
……アレ?
俺の思ってたのと、なんか違う。
「まずは、現在ある家の補修をして、それから新しい家を建てるッス。でも、主要メンバーはこっちでろ過装置作りを急ピッチで進めるッス」
「あぁ、それなんだがな、ウーマロ」
「はいッス?」
現状、ウーマロはおいしい思いしかしていない。
当然、おいしい話にはちょっとした痛みが伴うものだ。
「お前、四十二区に支部を作れ」
「支部ッスか!?」
「おう。これから下水工事を始めるわけだからな。数ヶ月の大プロジェクトになる。いちいち往復していては時間がもったいないだろ?」
「けど、そうすると住むところが……」
「だから、お前らがこれから作るんじゃねぇか」
「今から建てる家、オイラたちのだったんッスか!?」
トルベック工務店の支部が出来れば、いろいろと仕事を頼みやすくなる。
輸送費も節約できるし、メリットはたくさんある。
「って、下水の工事もオイラたちがやるッスか?」
「あぁ。俺の技術をすべてお前たちに託す」
ウーマロの首に腕を回し、ひそひそと密談をするように耳元で囁く。
「エステラが各区に交渉をして、下水を求める声が大きくなった時、下水に関する技術を持っているのはお前たちだけだ。当然、依頼はトルベック工務店に集中する」
「そ……それは、魅力的ッスね」
「最終的に、中央区の王族から依頼が入るかもしれないぞ?」
「お、王族からウチにっ!? …………夢のようッス……」
ウーマロがまだ見ぬ明るい未来を思い描いて半笑いを浮かべる。
「ただし、技術提供には一つ条件がある」
「…………報酬カットッスか?」
こいつ、俺が金のことしか考えてないと思ってるな。
……まぁほとんど正解だけど。
「報酬はエステラが出すんだ、俺がケチる必要はない」
「聞こえてるよ、ヤシロ」
背後から声をかけてくるKYな声は無視をする。
そんなことよりも、今は大事な契約をのませなければいけないのだ。
「お前のところで、ロレッタの弟たちを大量に雇い入れてほしい」
「えっ!?」
俺の言葉に真っ先に反応したのは、ロレッタだった。
だが構わず、俺はウーマロとの交渉を続ける。
「今後、四十二区での工事には人手が必要になる。一人前ではなくとも数がいれば役立つこともあるだろう。いや、むしろどんな人材でもいいから人手が欲しいと思うだろう」
「確かに、五棟の集合住宅に街中に張り巡らされた下水……人手はいくらあっても足りないッス」
「さらにな、ロレッタの弟たちはアレでなかなか使い勝手がいいんだ。物覚えはいいし、何よりやる気がある。お前も何人か相手にして、そこんとこはよく知ってるだろう?」
「あぁ、確かに、あいつらはよく働いてくれたッス」
「おまけに、この洞窟を作り上げた採掘能力。これは、下水工事で必ず必要になる」
「……そう、ッスね」
ウーマロは、最初こそスラムに偏見を持っていた。
しかし、実際触れ合い、言葉を交わした相手のことはきちんと『人』として見てくれるようなヤツだ。
こいつのもとでなら、弟たちはまっとうに働くことが出来る。
「分かったッス。やる気のある人材が手に入って、尚且つ他の誰も持っていない技術がいただけるなら、こっちは断る理由がないッス!」
「やったぁー!」
花火のような大音響で、ロレッタが歓喜の声を上げる。
どこに行っても仕事がもらえず、やっとありつけた仕事も長く続かない。
そんな苦労を味わってきたからこそ、弟たちの働き口が見つかったことが嬉しいのだろう。
「不出来な弟たちですが、死ぬ気で働かせますです! ビシビシ鍛えてやってくださいです!」
「あ、あの、は、はい! それはもちちちちちち……っ!」
両手を握られ、至近距離で笑顔を向けられたウーマロは盛大に緊張し、フリーズしている。
さっき平気だったのは洞窟を見たテンションで忘れていただけだったんだな。
「よかった……これで弟さんたちも、街のみなさんもみんな幸せになれますね」
慈しむように、ジネットが微笑を湛える。
そう、みんなで幸せになれるのだ。
災害支援や下水工事で、懸命に働く姿を見れば、街の人間が持つスラムに対する偏見もなくなるかもしれない。
また、信頼あるトルベック工務店の一員ともなれば、見方も変わってくるに違いない。
そうすればこの弟妹たちは受け入れられて……そして…………
ポップコーンの移動販売がまた売り上げを伸ばすだろう。
陽だまり亭の利益がガッポガッポだ、うははははは!
しかも、エステラの金、ウーマロの技術と信頼を使って、俺は身銭を一切切らずに、何もしなくても勝手に売り上げが上がるシステムなのだ!
さぁ、お前たち!
盛大に働くがいい、俺の利益のために!
まぁ、ついでだからな。
この街が少しでも住みやすくなるように、知恵くらいは貸してやっても、いいけどな。
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