異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加52話 ジネット、走る! -3-

公開日時: 2021年4月2日(金) 20:01
文字数:2,280

「でりあさん、みりぃ、もう少し速く走れそう」

「そっか! じゃあ、ちょっとだけ飛ばすぞ!」

「ぅん!」

 

 赤組が速度を上げた。

 でこぼこコンビの息がぴたりと合っている。

 平均台を共に乗り切ったことで絆が強くなったようだ。

 

 前を行くネフェリーとトレーシーを猛追する。

 

「追いつかれそうです、ネフェリーさん!」

「こっちもペースを上げましょう、トレーシーさん!」

 

 木製のボールを運び終えたネフェリーとトレーシーが長い足を目一杯に広げて走り出す。

 しかし足が長いな、あの二人は。

 ルシアやエステラもそうなんだが、領主ってのは手足が長いよな。血統か、いい物を食って育ってきた影響か。

 で、そんな領主に遜色ないネフェリーの脚線美。

 ……ホント、なんで顔がニワトリなんだろうなぁ。

 

「ネフェリーさん、楽しそうな顔してんなぁ! かはぁ! マブい!」

 

 え、なにパーシー?

 どこが楽しそうだって? クチバシの端でも緩んでるってか?

 

 そうこうしているうちに、ネフェリーたちが白組に追いついてきた。

 ジネットの息が上がっている。スタミナが切れかけてるのか……

 

「ロレッタ! ジネットはバウンドのエネルギーが他の誰よりも大きいから消耗が激しいんだ! しっかりと押さえててやれ!」

「お兄ちゃん、うるさいですよ!?」

「なんなら、俺が押さえるの手伝おうか!?」

「うるさいって言ってるですよ!?」

 

 あそこの運動量が他の連中とかけ離れてるからスタミナが切れるんだと教えてやってるのに。

 まったく、なぜおっぱいを掴まないのか……

 

「ロレッタのヤツ、なぜジネットのおっぱいを掴まないんだ……?」

「……それに、説明が必要?」

 

 マグダは答える気がないようなので、俺も気にしないようにする。

 俺だったら絶対押さえるのを手伝ってやるのになぁ。

 

「……店長たちが暗黒迷宮へ入る」

 

 なんとか追いつかれずに暗黒迷宮に突入したジネットたち。

 しかし、二番手三番手との差はほぼないに等しい。

 迷路で迷えばあっという間に逆転されてしまうだろう。

 

「ウェンディさん、頑張って! ほら、立って!」

「す、すみません、なんだか走りにくくて……うきゃあ!?」

 

 パウラとウェンディは致命的に歩幅が合っていない。

 遅れから焦りがにじみ出しているパウラは、少しでも早く進もうとしてしまい、それが却ってウェンディの転倒を誘発させている。

 

「ウェンディさん、今回ジネットより酷いよ!?」

「それはあんまりです、パウラさん!?」

 

 うん。

 お前ら、悪気がなかったとしても酷ぇぞ。

 素でジネットを出来ない娘扱いじゃねぇか。

 いやまぁ、事実なんだけども。

 

「けれど、店長さん。今回は全然転びませんね」

「そうなのよね。ロレッタとペアだからスタート地点から一歩も動けないんじゃないかと思ってたのに」

 

 パウラはロレッタを過小評価している。

 あいつはやればそこそこ普通に出来るのだ。飛び抜けて素晴らしい成績は残せないけれども。普通にすごいのだ。普通に。

 

 ウェンディは、ジネットよりかは運動が出来ると思っていただろうし、パウラにしてもロレッタよりも自分の方が上だと思っていたに違いない。

 だが、実際一緒に走ってみたら思いも寄らない展開になってしまっている。

 焦ってるんだろうな、結構。

 

 この差が、俺がロレッタに教えた「足を外に出すように走れ」というアドバイスの結果だ。

 運動が出来ないヤツをどれだけサポートしてやれるか。その差が如実に表れているのだ。

 

 パウラの方が脚力が強いから、ウェンディは足を持っていかれてまっすぐに走れず、ただでさえ運動が苦手なのにおかしな方向に力をかけられて転倒してしまうのだ。

 相性が悪かったな、このペアは。

 

 さて、そんなパウラとウェンディのペアが悪戦苦闘している間、他のチームの選手はというと。

 

「で、でりあさん、どっち行くの!? そっち、壁だょ!?」

「トレーシーさん、急に止まらないで――きゃあ!?」

「おい、ミリィ! ここになんかいるぞ! なんか捕まえた!」

「ぃたたたた! デリアさん、それあたしです! あたしの頭です!」

「ネフェリーさん! なんだかこの壁、物凄くほゎんほゎんです!?」

「ト、トレーシーさんっ、そ、それは壁ではなく、わたしの、あの……と、とにかくあまり突っつかないでくださいっ!」

 

 暗闇の中で盛大に迷っているらしい。

 というか、トレーシーが突っついてたのって――

 

「絶対おっぱいだ!」

「……口に出さずにはいられなかった模様。ヤシロだから、仕方ないけれど」

 

 暗闇の中で迷走する他のチームから遅れること数十秒。ようやくパウラとウェンディが暗黒迷宮へと突入する。

 それまでの間、どのチームも迷宮からは出てこなかった。

 

 だがっ!

 

「「「「眩しっ!?」」」」

「あ、これで道が分かりますね、ロレッタさん」

「わぁ、これなら、怖くない、ね、でりあさん」

「ウェンディさん……敵に塩送ってどうするのよ……」

「え? あの…………す、すみません」

 

 中でウェンディが発光したらしく、全チームが揃って暗黒迷宮から出てきた。

 

「「「ウェンディ(さん)、ありがとう」」ございます」

「いえ、あの……やめてください」

 

 俯いて走り出すウェンディ。

 しかしパウラが続けずに盛大に転倒していた。

 

 

 そうして、横一列で再開された二人三脚障害物レース後半戦。

 キャタピラでのカーブは身長差がある赤組が有利となり、ネフェリーとトレーシーのコンビも危なげなく二人三脚に適応し、ロレッタが飴探しで『どうやったらそこまで白くなるの!?』というくらい顔を真っ白にして頑張ったのだが、結局は赤組が一着となり、白組は三着でのゴールだった。

 

 ……まぁ、普通な結果だな。

 さすがロレッタ。ジネットと一緒でもブレない普通さ加減だったよ。

 

 

 

 

 

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