異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

112話 苦手意識からくるイヤイヤ病 -1-

公開日時: 2021年1月18日(月) 20:01
文字数:1,669

「む~~~~~~~~~あぁぁぁああああああああ…………っ!」

 

 陽だまり亭に、アザラシがいる。いや、エステラなんだが。

 テーブルに突っ伏して、たまにゴロゴロ体を揺すって、「むああ」っと鳴く。

 邪魔くさい生き物と化している。

 

「返事が来ない~!」

 

 俺たちは、狩猟ギルドのギルド長にアポを取るべく、狩猟ギルドの本部が置かれている四十一区の領主に話をつけようとしていた。

 その話をするために四十一区の領主に手紙を送ったのだが……その返事が来ないのだ。

 

「三通だよ、三通! 三通も送って一通も返してこないだなんて、外交的無礼にも程があるよ! だからモテないんだよ、あの男は!」

 

 エステラが激しく憤っている。

 岸辺で威嚇行動を行うアザラシのようだ。

 

「まぁ、落ち着けよゴマちゃん」

「誰がゴマちゃんだよ!?」

 

 どーどーと、落ち着かせるように頭をぽんぽんと叩く。

 不満顔ではあるが、エステラは少し気持ちを落ち着けたようだ。

 

「……ヤシロ」

「ん? どうしたマグダ?」

 

 陽だまり亭の隅っこの席でうだうだ言うエステラを慰めていると、マグダがフルーツタルトを持って俺たちのもとへとやって来た。

 

「……店長が、持っていけって。……ゴマちゃんに」

「ゴマちゃんじゃない!」

 

 ガバッと起き上がったエステラだったが、マグダの持つフルーツタルトを見ると、途端に頬を緩ませる。

 安いなぁ、お前の機嫌……

 

 現在はランチタイムを少し過ぎたくらいの時間で、店内には数組の客がいる。

 よって、ジネットたちは接客に忙しくエステラの相手はしていられないのだ。

 

 まぁ、その方が話がしやすいってのはあるけどな。

 

「あ。そうだ、マグダ。」

「……なに?」

「お前、狩猟ギルドのギルド長って見たことあるか?」

「……否定。狩猟ギルドは大きな組織で、強烈な縦社会。直属の上司より上の人間に面会できる機会はそうそうない」

 

 縦社会……っぽいなぁ、うん。

 

「……ただ、噂くらいは耳にしている」

「どんなヤツなんだ?」

「……山道でクマと出会うと…………クマが死んだフリをする」

「クマがっ!?」

 

 野生の動物が本能で恐怖するようなヤツなのか?

 

「……通称、『轟雷のメドラ』」

 

 轟雷とは……また物騒な二つ名だな。

 

「――とかいう物騒な噂があるのに、実は超プリティな美少女だったりは?」

「……しない。『アレはバケモノ』というのが実際本人を見た者の総評。直視して視力が落ちた者もいる」

「どんなバケモンだよ、そりゃ……」

 

 まぁ、どうせ筋肉ムキムキのオッサンなんだろうな……一切の期待を持たないようにしよう。

 

「……腕がマグダの腰くらいある」

 

 …………デカ過ぎない? え、人?

 

「ゴリラ人族か?」

「……確か…………フェレット人族」

 

 違う。

 俺の知ってるフェレットはそんなガチムチな生き物じゃない。

 きっと何かの間違いだ。

 

「……気に入らない者には容赦ない、恐ろしい人物だと聞いている」

 

 脳内では、どこかの組の親分が、言うことを聞かない店に嫌がらせをするよう部下に指示している姿が容易に想像できてしまう。

 強烈な縦社会……なるほどね。

 

「ありがとう。仕事に戻っていいぞ」

「…………じぃ」

「…………はいはい。おいで」

 

 手招きすると、マグダは俺の腰にしがみつく。

 耳をもふもふしてやるといつものように「むふー!」と息を漏らした。

 最近、妙に甘え癖がついてる気がする。

 

「……たぶん」

「ん?」

「……ギルド長に同じことをすると…………消される」

「……しねぇよ…………」

 

 誰がガチムチの耳なんぞをもふるか。

 

 マグダが接客に戻ると同時に、ナタリアが陽だまり亭へとやって来た。

 入店するや、即エステラを見つけ、こちらに向かってまっすぐ歩いてくる。

 

「やはりこちらでしたか、ゴマちゃん」

「その情報どこで得たの!? あり得ないよね!?」

 

 激しく抗議するエステラなのだが……ナタリアに常識なんか通用するかよ。エステラのことで知らないことなんて何もなさそうだしな。

 

「先ほど入店した際、マグダさんとアイコンタクトで情報交換を……そんなことはどうでもいいのです」

 

 なんか、サラッとすげぇ高度なことをやってのけていたようだが……まぁ、どうでもいいな、そんなことは。

 

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