誕生日を祝わなくなったのは、いつからだっただろうか――
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早朝の陽だまり亭に、次々に人が集まってきた。
「ヤシロ! 今日が誕生日なんだって!? どうして早く教えておいてくれないのさ!? 明日のプレゼントは用意したのに、今日は何もないよ!?」
エステラがナイフを片手に俺に詰め寄ってくる。
「言い忘れたのは謝るから、こんなことで刺そうとしてんじゃねぇよ!」
「え? やだなぁ。何も用意できなかったから、ボクのコレクションからお気に入りランキング第八位のナイフを進呈しようとしたまでだよ」
「一位から七位まではどうしても手放したくない逸品なんだな」
「……ま、まぁ……でも、どうしてもというのなら……」
「八位のもいらん。ちゃんと大切に飾っておけよ」
「いいよいいよ。しょっちゅう見に来るし、ヤシロの部屋なら家主がいなくても勝手に入れるしね」
「入んじゃねぇよ!」
「ヤシロ様。私はマイフェイバリットナイフを……」
「お前もナイフか、ナタリア!?」
「そして私は、ヤシロ様が在室の時を狙い撃ちで不法侵入を……」
「怖ぇよ!」
本当に、四十二区は大丈夫なのだろうか、こんな領主とそのお付きに任せておいて……
それからも見知った顔が次々にやって来ては、俺に微妙なプレゼントを押しつけようとしてくる。
「ヤシロ! 急だったから朝一で鮭一年分くらい捕まえてきたぞ!」
「デリア、気持ちは嬉しいが生ものはやめてくれ。そんなに食えん」
「はいヤシロ! 昨日生まれたばかりのぴよ子(オス)だよ!」
「生き物はもっとダメだよ!」
「ほなら、ホコリちゃんの弟のダスト君を、進呈したるわ」
「生ものでも生き物でもないけど、それは心底いらねぇ!」
「ぁのてんとうむしさん……みりぃね、森のお花で押し花作ったの……もらって?」
「あぁ、ミリィ! 可愛いなミリィは! 四十二区にミリィがいてくれて本当によかったよ!」
「むっ!? ヤシロ、あたいも可愛いぞ!」
「私も可愛いもん! 見て、今日のトサカ、いつもよりちょっとピンクなんだよ?」
「ウチ……こう見えて…………脱いだら、可愛いんやで?」
あぁもう、キャラが濃い濃い……
「ヤシロ。チョイと見とくれよ。昨日、物凄いネジが出来たんさよ。これをあげようじゃないかい」
「ちょっと、ノーマ……そんなものもらってもヤシロは喜ばないと思うよ。私のぴよ子(オス)でも喜ばなかったんだし……」
「おぉっ!? すげぇ! ネジ山のピッチがバッチリじゃねぇか!? こっちの世界でここまで精巧なネジが見られるなんて驚きだぜっ!」
「なんだかすごくテンション上がってない!? ねぇ、ヤシロ! なんで!? 私のトサカ、もう一回よく見て? 可愛くない?」
ネフェリーには分からないだろうな、このネジの精密さが……あぁ、父さんの影響でこういうのめっちゃ好きなんだよなぁ、俺。
「あんちゃん! 聞いたぜ! 今日誕生日なんだってな!? もっと早く言えし、マジで~!」
「おいマグダ!? お前どこまで行ってきたんだよ!?」
「……四十一区と四十区も網羅した」
「頑張り過ぎだろ……」
今日はメイクのノリがいまいちなパーシーがにこにこ顔で俺にすり寄ってくる。なんでこんなに懐かれてるんだろうな、俺……
「HEY! てんとうむしさん!」
「ハッピー! お誕生日、DA・ZE☆!」
「おぉ、お前らも来てくれたのか……えっと……チックとビーだっけ?」
「「HAHAHA! 誰がニップルだってんだ! 冗談キツイぜ~ぃ!」」
アリクイ兄弟ネックとチックが大量の砂糖を持ってやって来てくれた。
「おぉ、これだけ砂糖があると、もうしばらくは必要ないかもな。で、パーシーは何くれるって?」
「おぉう!? この順番なんか酷くね!? 作為的なもの感じんだけど、オレ!?」
まぁ、お前は例によって砂糖なんだろう。
ウチの砂糖の在庫、物凄いことになってるからな? 闇市に流すぞコノヤロウ。
「ヤシロ~! カンタルチカと檸檬から、ケーキの差し入れだよ~!」
「おう! サンキュウ!」
「もう! 急に誕生日になるのやめてよね!」
「別に今日突然誕生日になったわけじゃねぇよ……」
パウラが、いたずらっ子のような笑みを浮かべて俺のみぞおちをグリグリしてくる。
くっそ、尻尾をパタパタしやがって、可愛いじゃねぇか。
「おーっす! ヤシロ! 野菜をたっぷり持ってきたぞぉ!」
「あ、モーマット。その辺置いといて。あっ、ベルティーナ!」
「おい、酷くねぇかヤシロ!?」
冗談だよ。うっせぇな。ちゃんと構ってやるから待ってろよ。
「ヤシロさん、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうな」
「……よいお顔に、なられましたね」
そんなことを言われたので……変顔をしてみた。
「ぷぴぃっ!?」
「シ、シスター!? おい、ヤシロ!? お前、シスターになんてことを!? だ、大丈夫ですか!?」
どうも、ベルティーナは俺の変顔がツボなようだ。
しばらくは笑っているだろうからモーマットに任せておこう。
「ヤシロさん! オイラも来たッスよ!」
「ウーマロ。プレゼントで二階のリフォーム頼む。部屋広くして増やしといて」
「サラッと無茶ぶりきたッス!?」
三階建てとかでもいいよ。
いや、ほら、俺もいろいろ作るからさ、工房的なものとかな?
「ヤシロ氏~! 拙者、イメルダ氏の石像を彫って以降さらに腕を上げたでござる! 見てくだされ、懐かしの英雄像シリーズ! 『英雄のセクシービーム』でござる!」
「オーイ誰か、その忌まわしい像と製作者をどっかに埋めてきてくれ!」
「待ってほしいでござる! この像は夜になるととんでもない仕掛けが……っ!」
「勝手に俺の乳首をいじくってんじゃねぇよ!」
という俺の発言を聞いて、レジーナが何かを物凄い速度でメモに取っていたので、これ以上の発言はやめておく。
とにかく、ベッコは退場だ!
「ヤシロさん! 祝いに来てあげましたわ!」
「お、噂をすれば、セクシービーム!」
「誰がセクシービームですの!? まぁ、セクシーではありますけども!」
そこは認めるんだ。
「それでヤシロさん、プレゼントですけど……『イメルダ邸宿泊券(十枚綴り)』と、『イメルダ様とのデート券(十五枚綴り)』のどちらがよろしくて?」
「え、それって転売可能?」
ならデートの方をもらって木こりに売りつけるけど。
「英雄様!」
「おめでとうございます!」
「セロンとウェンディ。今日一日イチャつくの禁止な」
「「えっ!?」」
「誕生日くらい、俺に闇のオーラを吐き出させるな……」
「ヤシロ様! 私も、家族一同でお邪魔しにまいりました!」
「おにいちゃん!」
「おめっとー!」
「おめでとうございます」
「おぉ! ヤップロック一家! なんだか大きくなった気がするな。いくつになった?」
「私……お恥ずかしながら、今年で三十八に……」
「お前じゃねぇよ、ヤップロック! トットとシェリルに聞いたの!」
なんでオッサンの年齢を聞かなきゃいけねぇんだよ! どうせならウエラーの胸のサイズでも聞くわ! どっちかって言えばだけどね!
「ヤシロさん! お誕生日に打ってつけの商品をお持ちしましたよ! あ、もちろん売りつけたりしませんので、ご安心を。んふふ」
「おう! 一応来てやったぜ! 見ろ、俺が! この俺が捕まえたボナコンだ! マグダだけじゃないんだぜ、ボナコンを仕留められるのはよ! はっはっはー! まぁ遠慮せず食えよ! な!?」
「ヤシロちゃん! 今日のパーティーで、この服を着てみませんか? 自信作なんですよ!」
「おにーちゃんー!」
「おめでー!」
「おでとー!」
「めでたさの、大売出しやー!」
アッスントやウッセやウクリネス、それからハムっ子たちの群れに、飲食関連の店長店員がわんさかと、陽だまり亭に収まりきらないほどの人々がお祝いを言いに来てくれた。
そして、それだけ多くの人間が…………ヤツを目撃することになったのだ……
「だぁーーーーりぃーーーーーん!」
「全員、あの魔獣を店内に入れるなぁ! 行けぇ!」
が、当然誰もメドラには向かっていかず、俺はあえなく捕縛されてしまった。
「見ておくれよ、ダーリン! このリボン!」
「あぁ……なんだ、おめかしして来たのか?」
「ん~ん! そうじゃなくてぇ~…………プレゼントはア・タ・シ☆」
「ごめん、クーリングオフって可能?」
俺の部屋狭いし、置くとこないわー、マジ残念だわー。
「ヤシロくぅ~ん☆ 私も来たよぉ~」
「お、マーシャか」
「ふん! 人魚風情がアタシのダーリンになんの用だい!?」
「ヤシロ君にぃ~、お誕生日プレゼント~☆ はぁ~い、『使用済み』のホタテ貝~☆」
「欲しいっ! メッチャ欲しい! むしろ、お前の貝柱を俺に見せろぉぉ!!」
「ダーリン! 暴れたって無駄だよ、アタシの目が黒いうちは、こんな誰彼構わず媚びを売るような軽薄な女には近付かせないからねっ!」
くっそ! メドラの力が無駄に強い!
俺筋トレする! 超筋トレする! 今日決めた! 今決めた!
「お~、いっぱい来たですねぇ!」
「……マグダの人望によるもの」
え、そこって、俺の人望じゃないの?
「お兄ちゃん、あたしとマグダっちょ、そして店長さんからプレゼントがあるです!」
「え?」
「店長さん!」
「……持ってきて」
「はぁ~い!」
メドラが空気を読んで俺を降ろしてくれる。うん、ありがとう。出来たらもう二度と捕縛しないでくれると嬉しいよ。
と、ジネットが厨房から後ろ手に何かを隠しつつ現れる。
「あぁ、なるほど。隠しつつやって来て、段差で転んで手渡す前にプレゼントがバレちゃうヤツかぁ」
「そ、そんなドジはしませんよ!?」
「あ、ジネット、そこ段差あるから。転ぶなよ? 絶対転ぶなよ?」
「や、やめてください! 本当に転びそうじゃないですか!?」
物凄く慎重に、ジネットがカウンターを越えて、俺の前にやって来る。
「……はぁ…………怖かったです」
そして、ぴんと背筋を伸ばして胸を張る。
ぷるぅ~ん。
「みんな、いいおっぱいをありがとう! 最高のプレゼントだ!」
「違いますよ!? プレゼントはこっちですっ!」
胸を隠しつつ、ジネットが俺に差し出してきたのは――
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