その後、2チームに分かれてどちらが先にくす玉を割れるかを競ったり、当たり外れの入り交じった複数のくす玉を設置してみたりと、いろいろなバリエーションで試してみた。
チーム対抗が反応よかったかな。
小さいガキには普通に割らせてやって、それなりの年齢になったらチーム対抗で競わせるのがいいだろう。
で、大人の部だ。
「よし、ロレッタとベッコとマーゥルで競走しよう」
「ちょっと待って、ヤシロ!」
参加したげだったマーゥルを指名したら、エステラから待ったがかかった。
なんだよ、折角いいテンポ出来てたのに。
「……メンバーを見て、言い知れない不安が湧き上がってきているんだけれど?」
「気のせいじゃないか?」
「そんなわけないだろう! マーゥルさん以外『何かあっても大丈夫』な人選じゃないか!」
「ちょっ!? その認識は酷いですよ、エステラさん!?」
「拙者、ここ最近は四十二区で重宝される人材になれたと自負しているでござるぞ!」
ははは、ベッコ~。
自負するのは勝手だけど、周りがそれを認めるかは別問題だぞ~?
「とりあえず一回様子を見させてもらうよ。ウーマロ、変わってくれるかい?」
「オイラをこのメンバーに入れないでほしいッス!?」
「待ってです、ウーマロさん! この並びなら、あたしこそがそのセリフ言いたいですよ!?」
「いやいや、拙者、実は四十二区で人気急上昇中だという『風』を感じているでござる故、願い下げるのは拙者ではないかと思うでござるよ」
何を感じてるのか知らねぇけど、吹いてねぇよそんな『風』。
「まぁいいや。じゃあ、よごれ~ずの三人でやるか」
「「「よごれ~ずって!?」」」
「いやでも、待ってです! 『汚れず』だと解釈すれば……」
「なるほど、さすがはロレッタ氏! そういう解釈も出来るでござるな」
「だとしたら、汚れ仕事はオイラたちには回ってこないってことッスね!」
思うのは自由だよ。
思うのはな。
「じゃあ、あたしがバシーッと決めてみせるです!」
「拙者の腕前、とくとご覧に入れるでござる」
「オイラ、こういうの割と得意なんッスよね」
やったこともないのに自信満々な三人。
さすがだなぁ。ちゃんと『フリ』をしておくと、あとで笑いに繋がるって分かってんだろうなぁ、本能で。
「じゃあ、三人とも目隠ししろ」
「はいです!」
「心得たでござる」
「これでいいッスか?」
で、武器を持たせるわけだが、今あるのはジネットの作った『聖剣・わるいこ退治棒』と、予備の装飾無しの棒だけだ。
一本足りない。
……と、エステラを見ると、面白がるようなあくどい顔でこくりと一度首肯し、俺のセクシーカリバーを返却してくれた。
当然、セクシーカリバーはウーマロに渡しておく。
くす玉は全部で六個ぶら下がっている。
誰がどれを狙うか、それは応援する者にかかっている。
適当に応援したい人に指示を出すように言ってある。
「それじゃ、開始!」
手を叩いて開始の合図を送ると、一斉に声が飛ぶ。
「ロレッタ、ベッコは右だ!」
「お兄ちゃん、標的が違うですよ!?」
「ヤシロ氏、視界がふさがれて本気で怖い故、笑えない冗談はやめてくだされ!」
「……ロレッタ。ベッコが逃げた。追って」
「マグダっちょ、話聞いてたです!? 狙いが違うですよ! ベッコさん叩いても景品出ないですから!」
「景品云々の前に、拙者を叩くのはやめてほしいでござるよ!?」
ベッコがわるいこ退治棒を構えて防御に徹する。
まったく、ノリの悪い……
「……ウーマロ、上に四歩」
「人智を超えた要求してくるマグダたんも憎めないッス~!」
向こうは楽しそうだなぁ。
「お兄ちゃん、あたしにもヒントちょうだいです!」
「ロレッタ、普通に前進! そして普通にチョイ右だ!」
「『普通』必要ないですよね!? むしろ『普通にチョイ右』が難しく感じるですよ!」
とかなんとか、ただの悪ふざけのように見えて、実はちょこちょこと参加者三人の動きを操って、三人同時に『俺の狙い通りのくす玉』の前へと誘導していく。
六つぶら下がっているくす玉の中の、罠のところに、うまい具合に。
そして、三人がほぼ同時に、狙い通りのポジションにつく。
「ロレッタさん、目の前です!」
「……ウーマロ、攻撃するなら、今っ」
「ベッコさん、一度で決めてみせなさいまし!」
各々に声援が飛んで、目隠しした三人がそれぞれの武器を振り上げる。
そして、一斉に、一気に、振り下ろす。
「「「手応えありです!」ッス!」でござる!」
それぞれの武器がそれぞれのくす玉を破壊する。
と、同時にくす玉の中から罠が降り注ぐ。
「ぶはっ!? なんですかこれ!? 何が起こったです!?」
「けふっけふっ! なんッスか、一体!?」
「臭っ!? なんか臭いでござるよ!? おまけにねばねばするでござる!?」
おのれの身に降りかかった事態を把握しようと、一斉に目隠しを取る三人。
「ほにゃー!? なんですか、これは!?」
ロレッタは、頭から藻を滴らせている。
これは、海藻を採取する際に大量に取れる食べられない海藻だ。
どうにかすれば食えるのかもしれんが、ゴミが付着していることも多く、日本では見たことがない海藻なので手が出せないでいる。手間とコストを考えて捨てているヤツなので、罠に使っても問題ない。食べてもたぶん大丈夫だ。美味しくはないけど。
「これ、ウチにい~っぱいあるヤツじゃないですか!?」
海藻採取は今でもハムっ子の内職だからな。
ロレッタには馴染みがある感触とにおいだろう。
「ヤシロさん……これ、小麦粉ッスか?」
真っ白に染まったウーマロが粉で咽せながら聞いてくる。
惜しい。
「それはトウモロシ粉だ」
「トルティーヤの原料ッスね。……そんな物をこんなことに使っていいんッスか?」
ちらりと、ジネットの方へと視線を向けるウーマロ。
もちろん、食べ物を無駄にするようなことはしてはいけない。
けどな、食べられなくなった物なら有効活用してもいいと思うんだ、俺。
「これは、とある悲しい事故によって廃棄処分になる予定だった粉なんだ」
「まさか……っ、か、カビが生えたんッスか!? ぺっ! ぺっ! 口に入っちゃったッスよ!」
「大丈夫だ。基本的に口に入っても問題ない物しか罠には選んでない」
「そうなんッスか……よかったッス」
「こいつはな、バルバラが袋の口を閉じずに外に放置したせいで鳥の糞が三つほど入っちまったヤツなんだ」
「べぶぅっふ! ぺっ! ぺっ! ぺっ! く、口に入ったら問題あるじゃないッスか!?」
「腹を壊したりはしねぇよ。ばっちぃだけで」
「そのばっちぃのが致命的なんッスよ!」
そうなんだよなぁ。
レジーナに調べてもらったら、その糞の中には食中毒を引き起こすような菌はいなかったようで安全なんだそうだが……やっぱ気分的にはノーサンキューだよなぁ。
で、粉って微妙なもんで、どこまで廃棄すれば安心なのかが分からないんだよなぁ。
触れてなければOKって言いたいところだが……粉だけにさらさら落ちていくし、本当に触れてないのかって疑い始めると止まらなくなって……っていうか、触れてなくてもなんとなくイヤだろ?
ってことで、一袋全廃棄になってしまった粉なのだ。
「それで、ヤシロ氏……拙者にかかっている、このねばねばした臭い物はなんでござるか?」
「レジーナのところにあった臭くてねばねばした液体だ」
「正体が一切見えないでござる!?」
俺も知らん。
レジーナに「なんか顔にかかるとイヤ~な気持ちになるやつない?」って聞いたら真っ先に出てきたのがこれだ。
レジーナのやることなんで、たぶん精神的にダメージが大きくても肉体に悪影響はない。……はず!
「ベッコ、体に異変とか、ない?」
「今調べてるでござるか!? 事前に確認とかなかったでござるか!?」
「何かあったら、レジーナを恨めな」
「何もないって確証が欲しいでござるー!」
さすがレジーナが用意しただけあって、クサネバ液はなかなか顔から取れなかった。
えげつない物体を生み出したもんだ、あの薬剤師。……あいつ、なにやってんだろうな、普段。何を思ってこんななんの役にも立たない物を…………考えるだけ無駄なので考えないけれど。
「む~……お兄ちゃん。中身がみんな酷いとか、さすがに酷いです」
「言いがかりだぞ、ロレッタ」
顔のねばねばと格闘するベッコが放り出した『聖剣・わるいこ退治棒』を拾い上げ、コウモリのような形をしたくす玉を叩き割る。
すると中から色とりどりの包装紙に包まれたお菓子が降り注ぐ。
「お前らが『たまたま』ハズレを引いただけだ」
「絶対たまたまじゃないです! お兄ちゃんに誘導されたです!」
「どっ、どどど、どこに、そそ、そんな、しょしょしょ、証拠があるんだよよう!?」
「そのわざとらしい慌てっぷりは自白したと同じですよ!」
バレたか。ふふん。
「じゃあ、武器を回収するぞ。ロレッタ、その普通の棒を返してくれ」
「むわぁ!? よく見たらあたしのだけ普通の棒です!? なんの変哲もない、どっからどう見ても、紛れもない普通の棒です!?」
「……ロレッタに一番似合うチョイス」
「そんなことないですよ!? あたしも可愛い聖剣が持ちたかったです! 本番ではもっと可愛いのを持つです!」
ロレッタはハロウィン当日にもピニャータをやるつもりなのか。
よく懲りないな、こんな目に遭わされて。
「で、ウーマロ。セクシーカリバー返して」
「ぬはぁあ!? オイラ、こんな武器持たされてたッスか!?」
人の力作を放り投げるウーマロ。
物を大切にしろよ、物を! セクシーな付喪神になって化けて出られるぞ。
…………え、ウェルカムなんだけど? どうやったら化けて出てくれるのかな? ……う~む。
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