異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

239話 三大ギルド長集結 -3-

公開日時: 2021年3月25日(木) 20:01
文字数:2,375

「それでダーリン。頼みってのは、流通に関することかい?」

 

 昼のうちに、メドラ宛てに書いた手紙をマグダに届けてもらったのだ。

 なので、おおよそのところは理解してくれているのだろう。

『BU』のアキレス腱となるのは『流通』だ。

 そいつを引っかき回して交渉の材料にする。

 

 ……ん? あぁ、交渉だぜ?

 少々一方的な、な。

 

「だがそれとは別に、一つ頼みたいことがあるんだ」

「……毎朝、ダーリンのリブロースを焼けばいいのかい? ……ぽっ」

「朝からそんな重いもん食えるか」

 

 しかも、たぶんだけど、「毎朝、あなたのお味噌汁を~」みたいなつもりで言ったんだろうが、物がリブロースだけに、俺の肉が焼かれんじゃないかと一瞬チビりそうになったっつの。

 ねぇよ、俺の体にリブロースなんて部位は。

 

「ヤシロ! あたいが毎朝鮭を焼いてやろうか!?」

「いや、もうそれいいから」

「私が貴様を、毎朝口汚く罵ってやろう」

「え、なに、ルシア。それが朝食代わりなのか?」

「……マグダは毎朝、美味しいご飯が食べたい」

「ただの希望だな!? 俺もそうだよ!」

 

 まったく、メドラが面白そうなことを言うから乗っかるヤツ続出だ。

 そんなもんにいちいち構ってやってる暇はねぇんだよ。しょーもない。

 

「じゃ~あ、私は毎朝ホタテを焼いてあげようかなぁ~☆」

「どこのホタテをっ!?」

「食いつき過ぎだよ、ヤシロ」

「……あの中身はホタテではない」

「あんま面白いもんじゃねぇぞ?」

 

 何を言う、デリア! めっちゃ興味深いわ!

 

「ふん! 相変わらず身持ちの緩い女だね、海漁の! アタシのダーリンをかどわかすんじゃないよ!」

「んふふ~☆ メドラママのダ~リンだったら、考えるけどねぇ~☆」

 

 オールブルームの根幹を支える巨大ギルドのトップ二人がにらみ合う。

 が、そんなことよりもホタテの中身が気になって仕方ない。

 

「ウーマロ。俺、貝柱って好きなんだよな」

「その話、オイラを巻き込まないでほしいッス!」

 

 火花を散らす二大ギルド長を眺めつつ、ウーマロをいじっていると、すっと目の前に肉まんが差し出されてきた。

 

「ヤシロさん。どうぞ」

 

 ジネットが静かに言う。

 さっき食ったばかりだというのに、また食えというのか?

 と、肉まんを見ると、生地に『懺悔してください』という文字が書かれていた。……ん?

 

「熱した鉄串で文字を書いてみたんです」

「なぜ?」

「実は、シスターが、教会っぽい食べ物があれば素敵ですね、とおっしゃっていたので、何か教会っぽいことが出来ないかと試行錯誤してみたんですが……いかがですか?」

 

 ん、とね……ジネット。

 

「なんか食いにくい」

「……ですよね。わたしも、そんな気がしていたんです」

 

 つか、完全に懺悔を求めるつもりで差し出してきたよな。

 メールの絵文字みたいな使い方すんじゃねぇよ。

 

「それで、ヤシロ。話を戻してもいいかい?」

 

 エステラの声で、にわかに緩み始めていた空気がピンと張りつめる。

 そうだ。遊んでいる暇はないんだ。

 今は真面目に……

 

「ホタテの貝柱についての考察を……」

「刺すよ?」

「メドラに頼みたいことがあるんだ」

 

 エステラの目がマジなので、真面目な話をちゃんとする。

 俺だって、やろうと思えば真面目にだって出来るのだ。

 

「四十二区に港を作りたいんだが、その工事の間、何人か護衛を出してくれないか?」

「森の中で作業をする連中を魔獣から守ってくれってわけだね」

「あぁ、そうだ」

 

 理解が早くて助かる。

 港を作るのは、街門を作るのと同等か、それ以上に大掛かりなプロジェクトになる。

 当然、工期も相応に長くなる。

 しかも、作業現場は魔獣が徘徊する森の中だ。

 厳重な警備が必要とされる。

 

「工事が終わった後はどうするんだい? 港の警備ったって、森の中に作るんだろ?」

「その点でしたら心配ご無用ですわ!」

 

 待ってましたとばかりに、陽だまり亭のドアを開け放って入ってきたのはイメルダだった。

 後ろからは、熊のような巨体を揺らしてハビエルが姿を現す。

 

「なんだい、スチュワートも呼ばれたのかい? 暇なんだねぇ、木こりは」

「なに、こっちは仕事だ。メドラは相変わらず、ヤシロに入れ込んで仕事そっちのけっぽいがな」

 

 同年代のムキムキ男女が憎まれ口を叩き合う。

 こいつらが揃うと陽だまり亭が立ち飲み屋みたいな狭さに感じるな。

 スペース取り過ぎなんだよ。

 

「メドラギルド長。いえ、ミズ・メドラとお呼びいたしましょうか?」

「呼び方なんてなんだって構わないよ、スチュワートの娘。イメルダとか言ったかい?」

「では、ミズ(?)・メドラ」

「疑問形にするとは、いい度胸だね小娘」

 

 メドラがイメルダの頭を掴み、もぎ取るかのごとく撫で回す。

 イメルダの首がぐぃんぐぃん揺さぶられる。

 

「おいメドラ。ウチの可愛いイメルダをいじめるんじゃねぇよ」

「いじめとはなんだい。可愛がってやっているんじゃないか。昔のアタシにそっくりなこの娘をね」

「メドラ、それはさすがに酷いぞ!」

「陰湿ないじめッス……」

「お父様……ワタクシ、生きる希望を見失いましたわ……」

「がっはっは! 冗談が好きだねぇ、若い連中は!」

 

 なぜそれを冗談だと思えるのか。

 メドラの若い頃に似てるって……将来を見失うには十分過ぎる案件じゃねぇか。

 

「で、木こりが来たってことは、森を開拓するのかい?」

「あぁ、一部だけだがな」

「森がなければ魔獣は寄ってこない……なんて甘いもんじゃないが、確かに森の中よりかは安全になるかもしれないね」

「あと、魔獣除けの石もいくつか購入する予定です。ルシアさんの伝手で」

「三十五区の港の建設に携わった石工を紹介してやることにしたのだ」

「あのね☆ 海の深さと地形を考えると、結構街門のそばまで船で来られそうなんだよね☆」

「ですので、なるべく外壁に近い場所に港を作ってしまって、外壁の魔獣除けの効果を流用しようかと考えているんです」

 

 と、今エステラがまとめた内容が、マーシャが来てから話し合われた結果だ。

 

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