異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加58話 疾駆、激突、大混戦 -5-

公開日時: 2021年4月2日(金) 20:01
文字数:2,069

 これで、残すはデリア一人!

 

「よぉし! 我が永遠のライバルマグダの助太刀に向かうのじゃ!」

「あ~、それ、無理っぽいよ~☆」

 

 マーシャが指差した先では、夕闇の中でもハッキリと分かるような激戦が繰り広げられていた。

 

「だりゃりゃりゃりゃりゃ!」

「……動きが単調。それではマグダを攻略することは出来ない。……攻撃とはこうするものっ」

「甘ぇ! こっちだって、お前の手筋は見えてんだぜ!」

 

 顔と顔がくっつけられそうなくらいの超至近距離で向かい合い、絶え間なく攻防を続けるマグダとデリア。

 上半身を左右前後に動かして相手の攻撃をかわし、カウンターを叩き込み合っている。

 その尋常ならざる動きの振動と反動はすべてそれを支える騎馬に伝わり、激しい攻防を繰り広げる上の二人よりも騎馬たちの方が疲労困憊している。

 

「お、親方……もうちょっとソフトに……」

「しゃべりかけんな! あとフラつくな、狙いが逸れる!」

「「「……(し、死ぬかもしれない)」」」

 

 なぜだろう。

 オメロたち川漁ギルド騎馬の心の声がハッキリと聞こえた気がした。

 

「ははは! 面白いなぁ、マグダ! いつまでも戦っていたいくらいだ! お前もそうだろう!?」

「……確かに。けれど」

 

 デリア渾身の突きを、上体を逸らしてかわしたマグダ。

 すぐに起き上がって反撃かと思われたが――

 

「……これは、チーム戦」

 

 マグダはデリアの目の前で思いっきり柏手を打ち鳴らした。

 ネコだましだ!

 

「うわっ、なんだよ!?」

「……ウーマロ」

「合点ッス!」

 

 一瞬、デリアが身を引いた隙に、マグダではなくウーマロが行動を起こす。

 

「家でも倉でも、土台っていうのは最も重要な役割を果たしているんッス。それは騎馬も同じッス!」

 

 ウーマロを先頭とした騎馬が、大きく一歩踏み出す。

 

「こういう三点で支える構造の時は、ここを崩してやれば――」

 

 そう言って、オメロの脇腹に体を寄せてオメロの足を払う。

 重心が乗っていない方の足を、重心が移動したほんの一瞬の内に「スパーン!」と軽やかに蹴り飛ばす。

 

「ぇ……っ!?」

 

 激しい当たりならオメロも腹を据えて踏ん張れただろう。

 けれど、今のはきっとオメロ自身触れられたことすら分からなかったんじゃないだろうか。そんなさりげなくも的確な一撃だった。

 ジェンガとかやらせたらきっと驚異的にうまいんだろうな、ウーマロのヤツ。「えっ、そんなとこ取れんの!?」みたいなヤツを難なく引き抜いてしまうに違いない。

 

 ウーマロの目に掛かれば、その『建造物』のどこにどれだけの力が掛かっているのか、どこに遊びがあるのかが一目瞭然なのだ。

 

 まるで微風が吹き抜けていくようにオメロの足は払われて、支えを失ったオメロが横倒しになる。

 三点で支えていた騎馬の一点が崩れ、なし崩し的に騎馬が崩壊する。

 後ろに重心をずらしていたデリアが、前側へ傾いた騎馬の上から転がり落ちていく。

 

「……え?」

 

 デリアが漏らしたのはそんな一音だけで、音もなく静かに勝負は付いた。

 

 ずでーん。

「いってぇ! コケた! アデデダダダ! 親方、顔! 顔踏んでます! オレの顔!」

 なんてデリアの足下で騒がしくするオメロを除けば、とても静かな幕切れだった。

 

「あれ……? あたい、負けたのか?」

 

 状況が飲み込めないデリア。

 しかし、デリアはしっかりと両の足を地面についている。まぁ、片方の足はオメロの顔を踏んでいるわけだけれども。

 

「……デリアが負けたのではない。マグダたちのチームが勝利しただけ」

「チーム……あっ! テメェ、オメロ!」

「いやいやいや! 待って待って待って! 違うんですよ、親方! オレにも何が起こったのかさっぱりで!?」

「ん~……ったく」

 

 ちらりとウーマロを見て、デリアが髪を掻き毟る。

 

「ウーマロが相手じゃ、しょうがねぇか」

 

 言って、オメロの腕を掴んで助け起こしてやった。

 肩に付いた土埃を払ってやり、そして頬に付いた靴の跡に目を留める。

 

「オメロ、なんか顔に靴の跡付いてるぞ?」

「ですからそれは……いえ、なんでもないです」

「ん?」

 

 きょとんとした顔をしているデリア。まるで自覚がないようだ。

 

「しょうがねぇな、お前は。いつまでも子供みたいなんだからよぉ」

 

 とか言いながら、拳の甲でオメロの頬に付いた靴の跡をごしごし拭ってやる。

 なんだかんだと面倒見のいい姉御肌である。

 まぁ、オメロの方は拳が顔に近付いてきて『寿命が三年縮む!?』みたいな顔してたけども。

 

「あっ、んじゃあ騎馬戦は――」

 

 デリアが気付いて振り向いた時、給仕が腕を上げて終了を宣言した。

 

「騎馬戦、そこまでです! 勝者は、白組!」

 

 

 わぁっと、白組応援席が盛り上がる。他のチームを差し置いて。

 棒引きの時とは真逆の光景だ。

 

 

「……なるほどね。これがヤシロの狙いだったのか」

 

 

 そんなエステラの呟きが聞こえた。

 俺と同じく、エステラの声を耳にした者たちが、エステラの見つめる先――得点ボードへと視線を向けて息を飲む。

 

 騎馬戦の得点が加算された合計得点がそこには表示されていて……

 

 

 

 青組:3680ポイント

 黄組:3680ポイント

 白組:3680ポイント

 赤組:3680ポイント

 

 

 

 全チームがまったくの同点で、最終競技を迎えることとなった。

 

 

 

 

 

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