「美容関連の店をいくつか作って、それを大々的に売り込むんだ。そしてその周りには、女子受けしそうなスイーツのお店や、これまた女子が食いつきそうな可愛い雑貨屋なんかを配置しておく」
タイやベトナムといったアジア諸国は女性旅行者に人気が高い。
お手ごろ価格で一流のエステを受けられ、おまけにお洒落なアジアンテイストの雑貨を見て回れて、さらに美味しい料理が食べられるからな。
綺麗な海や、価値ある遺跡を見るよりも、美を追求したいという女子の方が多い――というのは、一面の事実だろう。遺跡の雑誌より、ファッション誌の方が売れてるしな。
「美容関連の店を作るのに、近くに甘いものを食べるお店を作るのかい?」
ダイエット関連でのトラブルがあった直後だけに、体重増加を懸念しているのだろうが……
「エステラ。お前はダイエットとスイーツの食べ歩き、どっちが好きだ?」
「…………食べ歩き」
「まぁ、そういうことだ」
ダイエットは頑張るものだ。
頑張った後にはご褒美がなくてはいけない。
自分へのご褒美、大好きだろ?
「女性のための街づくり、店作りを謳うが、あくまでこれは商売だ。きちんと商売が成り立たなければ意味がない。雇用を増やすためにはな」
「お客様のために」ばかりを考えて倒産したのでは意味がない。
第一に利益を確保し、その副産物として客の満足度が高い、それくらいが長く続けるにはちょうどいい。
「それに、ご褒美でちょっと太ったら、また『綺麗になりたい』って思うだろ? ……これで顧客を失うことはなくなる」
「く、黒い……けど、悔しいかな、反論の余地がない」
実際のところ、男はネイルなんてもんをあまり見ない。肌の綺麗さに重きを置いて彼女を探す男も、数えるほどもいないだろう。
要するに、自己満足なのだ。女性の美の追求は。
そして、美味しいものを食べるというのも自己を満足させたいという欲求だ。
「どちらも自己満足なんだから、どっちに転んでも顧客は満足してくれる。そうすれば、『あそこに行くといつも楽しい!』という感情が芽生え、そんな顧客が増えれば――」
「その輪がどんどん広がっていくというわけだね」
そのとおりだ。口コミがどれほどの効果を発揮するか、それは今さら語るまでもないだろう。
さらに、自己満足というものは長時間持続しない。なぜならそれが自己完結してしまう満足であるからだ。
その欲求に終わりは来ない。だからこそそのコンテンツは永久に客を呼び寄せ続けてくれるのだ。
「大通りから一本入った路地にあるってのも、オシャレポイントだ」
オシャレ女子は、チェーン店やどこにでもあるような物を忌避する傾向にある。
バブルの時はブランド志向が強く、有名な物に人が群がったらしいが、あそこまで極端な現象はなかなか起こらないだろう。
フラットな目で見て、人間とは、特にオシャレ思考の強いイマドキ女子は、『ありきたりは論外だが情報通ならみんなが知っている』――そんな情報が大好きなのだ。
オシャレな情報を知っている自分を、オシャレであると認識していい気分になれたりするものだからな。
この街の女子たちのそういう傾向は、俺も折に触れて目撃している。
ドーナツの登場から広がり方、また、それに乗り遅れたネフェリーの悔しがり方なんかを見てきたからな。
あれが、誰も知らないようなマイナーな店が始めた見たこともないような料理だったならば、あそこまで急激な広がりは見せなかっただろう。
あれは、これまで幾度となく新しくて美味しくて、そしてオシャレな料理を真っ先に紹介してきた『陽だまり亭の新メニュー』だからこそ起こった現象だ。
オシャレ女子なら当然知っている。そんなある種の共通認識が共感を呼び、その中でまだ誰も知らないことを自分だけが知っている――そんな状態を好む女子。それこそが、俺が思うオシャレ女子の姿なのだ。
「改革すれば、近隣の区からオシャレ女子が集まってくるようになるぞ」
「そんなにうまくいくのかよ?」
「バカだなぁ、リカルドは。本当にバカだなぁ。バーカ」
「言い過ぎだろう!?」
うまくいくかだと?
まったく、こいつは……
「『うまくやる』んだよ」
ことを起こす準備が整ったならば、あとは成功を見据えて行動あるのみだ。
俺は無駄骨が嫌いなんでな。やるからには必ず成功させる。
「だがなぁ……」
それでもまだ、リカルドは難色を示す。
「女を集めるために『一本目』をそーゆー店で埋め尽くすってのはなぁ……さすがにあちこちから文句が出ちまうぜ」
「こらこら、リカルド。誰が『一本目』を埋め尽くすなんて言ったよ」
勝手にレイアウトを決めるんじゃねぇよ。
お前なんか、どーせ生け花でもやらせりゃ味も素っ気もセンスもなくある物を順番に挿しちまう程度の美的センスしか持ち合わせていないんだからよ。
「大通りのちょうど真ん中あたり――あの巨大キノコ(精霊神)のモニュメントがある付近から『一本目』に入れる道があるだろう?」
「あぁ。中央広場のところだな」
「そこから右側を女性向けの店を固めるエリアとする。そのエリアは、『一本目』から『五本目』まで、すべての路地に作るんだ」
「待て待て、オオバ! お前は何も分かってねぇな。女向けの店なんか『五本目』に作っても客が来るわけねぇだろうが。治安もそこまでよくねぇし、目立たないしよぉ」
はぁ……これだから筋肉しか褒めるところのないアホ領主は……
「何も分かってねぇのはお前だ、ムキルド」
「リカルドだ!」
細かいことを気にするな!
どっちでも似たようなもんだ。『やまてせん』と『やまのてせん』くらいの差しかねぇわ!
「目立つ場所にしかいい店を置かないから、いつまで経っても『五本目』とかいう名称がついて回って価値が上がらんのだ! おまけに治安がよくないとか……そんなもんはお前がさっさと改善すべき点だろうが! サボるなよ、街の活性化を!」
「う…………こ、こっちも、いろいろやることがあるんだよ……」
イノポークを狩りに行って大はしゃぎしてたくせに、どの口が忙しさをアピールしやがるのか。
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