異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

354話 人心地つく場所 -1-

公開日時: 2022年4月29日(金) 20:01
文字数:3,828

 レジーナが、マグダやロレッタと一緒に風呂に入っている。

 

「はぁ~……大きいお風呂っていうんも、気持ちえぇもんやなぁ~」

「はぅっ!? レジーナさん、もう浸かってるですか!? ちゃんと体洗ったですか?」

「洗ぅたで~、お尻以外」

「そこ、最も重点的に洗ってほしいところですよ!?」

「……レジーナ。これを貸してあげる」

「ん? なんなん、この人形」

「あっ、それはマグダっちょの大切なお風呂人形じゃないですか!? あたしでもなかなか貸してもらえないですのに!」

「……無事に帰ってきたお礼」

「なんや、特別なもんなんやな? ほなら、ありがたく使わせてもらおかな」

「……母親になったつもりで、お風呂に入れてあげると楽しい」

「はぁはぁ、ほな、お洋服脱ぎ脱ぎしよなぁ~はぁはぁ!」

「……没収」

「物の二秒で没収されたですね、レジーナさん!?」

「も~、これからがえぇとこやのに」

「……そーゆーのはロレッタでやって」

「なんであたしを売るですか、マグダっちょ!?」

「はぁはぁ、お嬢ちゃん、はぁはぁ、あぁっ、はぁはぁ!」

「誰か自警団呼んできてですー!」

 

 

 ――と、きっとこんなことが繰り広げられていることだろう。

 見てないから分かんないけど。

 見てないから!

 

「いや、見よう!」

「ヤシロ。そこを動いたら『デリアDEゴン』ね」

 

 ウチの領主がえげつない刑罰を生み出した件について……

 

 レジーナのおかえりパーティーは盛大に盛り上がり、閉店時間を過ぎても賑やかな声は途絶えなかった。

 レジーナが陽だまり亭に泊まると知ったパウラたちが――

 

「大変! 父ちゃんに言ってこなきゃ!」

「私も。お父さんとお母さんに明日の卵採りお願いしてくるね!」

「あたいも泊まろ~っと。カンパニュラ、一緒に寝るか?」

「はい。是非お願いします」

「そんじゃ、もう少しくらい飲んだって構わないさねぇ~」

「私も飲むぞ。ギルベルタ、パウるりゅ~んについて行ってお酒を買ってくるのだ」

「えっ、待ってルシアさん! その呼び方、あたし絶対イヤ!」

「つーか、ルシア。陽だまり亭に泊まる気かよ。エステラんとこかイメルダんとこ行けよ」

「それは無理だよヤシロ」

「そうですわね」

「ボクも泊まるから」

「ワタクシの宿泊は決定事項ですわ」

「……雑魚寝になるぞ。いいのか、貴族のお嬢様方?」

 

 という感じで、なんかもういろんなヤツが泊まっていくことになった。

 慌ただしく出ていった連中も全員帰ってきて、例によって二階は女子連中に占領され、俺とウーマロとベッコはフロアで寝ることに……

 

「って、なんでウーマロまで泊まる気なんだよ」

「マグダたんが尊過ぎて、100メートル以上離れたくないんッス!」

「しょうがない。もっと接近しよう。大丈夫だ、俺も付き合ってやる!」

「って、ヤシロさんお風呂覗く気満々じゃないッスか!? ダメッスよ!」

「ヤシロ氏! 拙者もお泊まりさせていただく気満々でござるよ!」

「へー」

「もっと興味を持ってほしいでござる! もっとイヤそうな顔をするとか、ちょっと強めに弄るとかでも構わんでござるからぁ!」

「男同士でイチャつくな、カタクチイワシ。見苦しいぞ」

 

 だったら女子とイチャつかせろよ!

 いつだって待ってるんだからね!

 

「っていうかさぁ、ロレッタだけズルくねぇか? あたいもレジーナと風呂入りたかったぞ」

「そうさねぇ。長旅で疲れたレジーナをゆっくりさせてやりたいってのは分かるんさよ。で、マグダがあぁなったから一人では寂しがるっていうのも、まぁ分かるさね。……けど、ロレッタはなんでかぃね?」

「しれ~っと入っていったよね、ロレッタ。あたしがカンタルチカから戻ったら、もう入ってたし」

「私の方が家遠いのに、パウラと戻ってくるのほとんど一緒だったもんね」

「父ちゃんがうるさくてさぁ。ネフェリーんとこはいいよねぇ、両親の物分かりがよくて」

「きっと、ぱうらさんのお父さん、寂しいんじゃない、かな? 親一人娘一人だし」

「う……まぁ、じゃあ、明日は精一杯父ちゃんに親孝行してあげようかな」

「ふふ、ぱうらさん、やさしい」

「話が逸れましたけれども、ワタクシ、レジーナさんとお風呂に入りたいですわ!」

「いい話に流されないのが君だよね、イメルダ」

「――と、余裕ぶっているエステラ様も、レジーナさんのフルヌードが見たくてうずうずしていらっしゃるご様子ですか?」

「フルヌードが見たいんじゃないよ!? 一緒にお風呂に入りたいの! 変な言い方しないでよ、ナタリア!」

「もし、それと同じセリフをヤシロ様が言ったとしたら?」

 

 

『俺はレジーナのフルヌードが見たいんじゃない! 一緒に風呂に入りたいだけなんだ!』

 

 

「……うわぁ」

「ヤシロ……」

「君という男は……」

「欲望垂れ流しですわね」

「土に還れ、カタクチイワシ」

「ホント、懲りないさねぇ」

「言いたい放題だな、お前ら」

 

 俺、なんも言ってなくね!?

 

「じゃあもう、エステラと俺のエロスは同じジャンルということでいいな」

「「「異議なし!」」」

「異議あるよ! 同じにしないで!」

「では、エステラ様のエロスは人類のカテゴリーから外れた特殊なものだということでよろしいですね?」

「よろしくないことを承知の上で嬉しそうに言ってこないでくれるかい、ナタリア!?」

「よし、準備が出来た。浴場に突入するぞギルベルタ」

「追従する、今回ばかりは、ルシア様に、私は。楽しみ、実は、レジーナ・エングリンドとの入浴が」

「あっ、ズルいぞお前ら! あたいも行く!」

「そんじゃ、アタシがついてってやるさね」

「ワタクシが一番乗りですわ!」

「行こう、ネフェリー!」

「うん! ミリィも行っちゃおう」

「ぇ……でも、ぃのかな?」

「大丈夫ですよ、ミリィ姉様。レジーナ先生はお優しい方ですから、お友達を邪険にされることなどありませんよ、きっと」

「おふろ、あーしも、はいぅー!」

「マーシャはどうする?」

「うん、私はパス☆」

「はは、君はそうだろうね、マーシャ……って、あれ? ナタリアは?」

「もうお風呂に行っちゃったよ☆」

「どーして君はそう、自分ばっかりいいとこ取りをしようと……もう! 追うよ、みんな!」

「「「おぉー!」」」

 

 バタバタバタと、女子たちが厨房へと突入していく。

 ……さすがにその人数は無理がないか?

 芋を洗うような状態になるぞ。

 

 ……で、マーシャは本当にマイペースだな。

 というか、我が身が一番かわいいタイプか。

 マーシャとの入浴も激レアだから、レジーナと一緒にイジられる可能性が高いもんな。

 

「じゃあ、マーシャはあとで俺と入ろうな☆」

「残念だね☆ 私はあとで店長さんと入るから☆」

「そっか、三人で仲良く入るのは大歓迎だぜ☆」

「懺悔すればいいと思うよ★」

「もう、懺悔してください、ヤシロさん」

 

 どうやら俺は、一人寂しく風呂に入ることになるようだ。

 ん?

 ウーマロやベッコと?

 あっはっはっ、ナイスジョーク。

 

 大勢の女子がいなくなり、ガランとしたフロアを、ジネットが忙しなく動き回っている。

 

「ジネット、店の掃除は俺がやっとくから、二階の方を頼む」

「ありがとうございます。では、お願いしてもよろしいですか?」

「あぁ。先にお子様コーナーを整えてやらないと、テレサあたりが真っ先に寝ちまう」

「ふふ、そうですね。では、大急ぎで整えてきます」

「私もお手伝いする~☆」

 

 いや、お前に何が出来るんだよ、マーシャ?

 水拭きが出来るって? 空拭きが大変だっつーの。

 

「ウーマロ、店内の掃除を手伝ってくれ」

「はいッス」

「ベッコは、二階に行って俺らの布団持ってこい。祖父さんの部屋に客用の布団を大量に買い込んでたから、ジネットが」

「うふふ。いつでもお泊まりに来ていただきたいと思いまして」

 

 過去、豪雪期の時に教会やイメルダのとこに布団を借りに行った経験から、ジネットがそんな備えをし始めているのだ。

『断る』というスキルを身に付ければ事足りる案件だと思うんだがなぁ。

 

「任されたでござる! 三人分でござるな?」

「四人分だよ」

 

 これだけ賑やかになって、テレサ一人だけ「じゃ、帰れ」とは言い難く、テレサも一緒に泊めることにした。

 外泊癖を付けるのはよくないんだろうが……陽だまり亭に集まる連中は何かと泊まりたがるからなぁ……教育上よくない環境だよ、ここは。

 で、無断外泊などさせられないので遣いを頼んだ。

 

 ……俺が留守にすると、戻ってきた時に領民総出で泊まることになりかねないんでな。

 

 で、ヤップロックの家へ伝言を頼んだのが――

 

「役目を終えての、御帰宅やー!」

「お前の家じゃねぇよ、ハム摩呂」

「はむまろ?」

 

 ハム摩呂なので、まぁ、当然のようにこいつも泊まっていくだろう、ってな。

 

「「「およばれにきたー!」」」

 

 ……なんか、弟が三人ほど増えてる。

 

「おにーちゃんが」

「一人は危ないからって」

「おにーちゃんが」

「一緒に行動しろって」

「おにーちゃんが」

「「「言ってたー!」」」

「いちいち『おにーちゃんが』を強調するな」

 

 まるで俺が心配性みたいに。

 

「というわけで四人分の布団だ」

「え、いや、プラス3で七人分ではござらぬか?」

 

 あほ。

 さすがにそこまで客用の布団なんぞ置いておけるか。

 

「こいつらは一つの布団で積み重なって寝るから大丈夫だ」

「「「「うんー! おにーちゃんの布団でー!」」」」

「テメェらの布団で寝ろよ!? 入ってくんなよ、マジで!」

「「「「入るなよ、絶対入るなよ、のヤツやー!」」」」

「そのヤツじゃねぇよ!」

 

 まったく理解していないハムっ子を一人一人アイアンクローして、全員でフロアと厨房の掃除をした。

 まったく……

 今夜は大変なことになりそうだ。

 

 

 

 

 

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