「一つ、お前に問いたい」
「なんなりと!」
真剣な表情を見せるベッコ。
こちらも真剣な顔で問いかける。
「……やっぱ質問二つにしていい?」
「ホント締まらないよねぇ、君は」
うるさいぞ、エステラ。
「質問二つにしていいか」という「一つの質問」をまずしたんじゃねぇか。
……あれ、そしたら結局質問できるのはあと一つか? …………ん?
「いくつでもお尋ねくだされ。拙者、嘘偽りなく、すべて包み隠さずお答えすると誓うでござる」
「じゃあ、巨乳と貧乳どっちが好きだ?」
「なぬっ!? いやぁ~あの~それは~その~拙者はぁ~なんといいましょうか~うう~……」
包み隠してんじゃねぇか。カエルにするぞ。
「えぇい! 拙者も男! 男に二言はないでござる! 実は拙者は、恐ろしいほどにぺったんこな胸が好きでござるっ!」
「やったなエステラ! 需要があったぞ!」
「誰の胸が恐ろしいかっ!?」
素早くナイフを抜き、俺の首筋に宛がうエステラ。……お前、なんかレベル上がってない?
「あ、あの! 拙者はどちらかといえば、おしとやかな女性が好みでござって……」
「残念、エステラ。またしても供給過多だ」
「供給なんかしていないよっ!」
ナイフが首筋の皮膚を圧迫してくる。……これで少しでもスライドさせれば俺の頸動脈はスッパリ切れるだろう。
「あの、エステラさん。ヤシロさんもきっと反省されているでしょうし……その辺で」
「甘いよ、ジネットちゃん。ヤシロがこれまで、反省なんてしたことがあるかい?」
あるわい、失敬な!
……えっと、ほら…………アレだよ、アレ…………その………………
まぁ、パッと思い浮かびはしないけども、反省くらい俺だってするわい。今はちょっと出てこないけどな。
「ちなみに、おしとやかなぽいんぽいんと、ちょっと気の強いスッカスカならどっちだ?」
「むむむむ……拙者、いまだかつてこれほどまでに悩ましい二択に出会ったことはござらぬ………………しかし、どうしても答えを出すとするならば………………いや、しかし……」
「……そろそろ真面目に話してくれないかな、二人とも」
「なんだか、妙に気が合ってるですね、お兄ちゃんとござるさん」
「……同類。同じ匂いがする者同士だから」
おい待てマグダ。誰が同類だ。その意見だけは断固否定させてもらうぞ。
「聞きたかったのはな、お前がどうやって俺の目を掻い潜って広場に蝋像を設置していたのかってことだ」
あれだけ張り込んで尻尾すら掴めなかったのだ。
ただの偶然というわけがない。こいつは、人の気配を察知する能力に長けているのかもしれない。
「……? 拙者は特に何もしてござらんが? 気が向いた時に置きに行っていただけでござる」
偶然だったのっ!?
あんだけ張り込んで、たまたま俺がそこを離れた時に、たまたまこいつがやって来てただけなのか!?
「昨晩など、広場で一体彫り上げたくらいでござる」
昨日頑張って広場まで行っていれば確実に出会えたのかぁ!?
なんて偶然だよ!?
神の悪意すら感じるレベルだ!
「…………ヤシロ。ドンマイ」
「なぁ、マグダ。それは励ましか? それとも小馬鹿にしてるのか?」
なんにせよ、絶妙のタイミング過ぎて心がちょっと抉られたぞ。
「ま、まぁいい。偶然なら仕方ないよな。そういうこともあるさ。別に俺の行動のすべてが無駄だったというわけでもないし…………気にしないことにしよう…………」
「物凄くへこんでるじゃないか……」
だって……こっちはあんなに頑張って張り込みしたのに……「たまたま会わなかっただけ」って…………
「で、でも、ヤシロさんの頑張りは、ここにいるみんなが見ていましたよ」
ジネットが俺を励ましてくれる。
……この娘、いい娘だよなぁ。泣いていいかな?
「お兄ちゃん」
「兄ちゃん」
「にぃに」
妹たちが俺を囲むように集まってくる。
そうかそうか、お前たちも励ましてくれるのか。
やはり、心がピュアだとこういう優しさが自然と身に付くんだろうな。
「全部無駄でも大丈夫ー!」
「みんな見てたから無駄でも平気ー!」
「無駄足乙ー!」
「…………ロレッタ?」
「はゎゎっ! す、すす、すみませんです! あとでちゃんと言い聞かせておくです!」
ピュアな心って、たまに何よりも残酷に心を抉るよね。
「あの、ヤシロさん…………お茶でも、入れましょうか?」
「いや……平気だ」
大丈夫。
俺は詐欺師だ。名探偵や刑事じゃない。
張り込みでミスをしたってなんら問題はない。なぜなら俺は素人だからだ。
素人の読みが外れて、一体誰がそれを責められる?
本業でうまくやればいいんだよ!
読み終わったら、ポイントを付けましょう!