「で……結局、正解はなんなんだい?」
少々焦れたようにエステラが問いかけてくる。
もう夜だしな。あまりダラダラ話を長引かせるのもよくないか。頼みたいこともあるし。
そんなわけで、俺は胸を張り、再度一同の顔を見渡す。
「陽だまり亭で、お子様ランチを作るぞ」
そう!
ガキ用の飯と言えば、何はなくともお子様ランチだろう!
美味しいものが全部食べられる夢の食べ物だ。
もっとも、こっちの世界でオモチャまではつけられないだろうが……オモチャはゆくゆくだな。
けれど、それの他に、ガキどもが食いつきそうな『求心力』は考えてある。
だが、その前に、内容の説明だ。
「ピラフ、ハンバーグ、パスタ、エビフライにオレンジジュース。この辺りのものを一つのプレートに盛りつけて提供するんだ」
「へぇ、そりゃあ美味そうだな!」
デリアがぺろりと唇を舐める。
その様子を間近で目撃したグーズーヤが「はぅっ!? セクシー過ぎるっ!」と、胸を押さえて悶絶死した。……あ、生きてるっぽいな。床に倒れてピクピク痙攣してる。生きてるならよし! 無視しよう。
「残念ながら、経費の関係でお子様ランチはガキ限定だ」
「なんでだよ!?」
「だから、経費の関係だ!」
ガキが好きそうなものを全部載せるのだ。こんなもん、大人にまで提供してたら他のものが売れなくなる。お子様ランチはあくまで客引きなのだ。利益がそうそう大きくない。
ガキが食べたいとねだれば、親はしょうがないなと店にやって来る。ガキをダシにその両親から利益を得ようというわけだ。
「なぁ、子供って、いくつまで子供だ? 二十代はどうだ?」
「アウトに決まってんだろ! 成人してるとアウトだよ!」
「……ふふふ……マグダはまだ未成年」
「あ、十二歳以上もアウトな」
「……未成年なのにっ!?」
マグダをOKにすると赤字になりそうでな。マグダ未満で線引きさせてもらう。
「十歳を越えれば、大人と同じ料理でも食えるだろう。お子様ランチは十歳までとする」
「なたりあ、じゅっちゃいです!」
「おい、そこの黒いメイドを摘まみ出してくれ!」
ナタリアを呼んだのは間違いだったかもしれん……話が逸れる。
「それでだな、お前たちに……『大のなかよし』であるお前たちに頼みたいことがあるんだが……」
「きたッス……グーズーヤ、目を合わせないようにするッス」
「……ウス」
「ナタリア、ボクたちも」
「かしこまりました」
「デリアちゃん、どうするぅ?」
「あたいはヤシロの味方だぞ」
「きゃ~! 乙女ちゃんなんだからぁ~!」
「なっ!? バッ、バカッ! そんなんじゃねぇよ! へ、変なこと言うと、アバラを粉々にしちまうぞ、このやろぉ~!」
いや、怖ぇよ、デリア……きゃっきゃうふふみたいな雰囲気醸し出してっけどさ……
で、ウーマロとグーズーヤはあとでお仕置き、エステラとナタリアは拒否権剥奪の刑だ。
「とりあえず試作品を作ってみるからちょっと待っててくれるか?」
「あの、ヤシロさん。お手伝いは?」
ジネットが椅子から腰を浮かすが、それを手で制止する。
「大丈夫だ。夕方のうちに下ごしらえはしてある。あとはほとんど温めるだけだから」
「あぁ、夕方されていた作業は、このためだったんですね。では、お待ちしています」
「その間に、新味のポップコーンでも試食しておいてくれ」
「やったぁ!」
「……では、今喜んだデリア。手伝って」
「えぇ!? あたい、食べる係がいい!」
「……お手伝いしてくれた娘には、ちょっと多めになるサービス有り」
「やる! あたいが手伝ってやる!」
砂糖が手に入ったことで、キャラメルポップコーンが作れるようになったのだが、これがなかなか味が安定しない。混ぜる段階でキャラメルのかかる量にムラが出来てしまうのだ。その練習もかねて、全員に試食してもらい、今後の広報活動に大いに役立ってもらうことにした。
まぁ、あっちこっちで「美味かった!」と言いふらしてくれればそれでいい。こういうのはあちらこちらで複数回耳にすることが重要だからな。
情報は一度耳にしただけではさほど記憶には残らない。しかし、一度聞いたことを別の場所でもう一度耳にすると、「あれ、これって前に聞いたことあるな……え、重要なことなの?」と脳が勝手に勘違いしてくれるのだ。
重要度の上がった情報は脳に蓄積され、脳に蓄積されたもの……所謂「知っているもの」に対して人は、親近感にも似た感情を抱く。
ま、ステマだ、ステマ。
そんなわけで、盛大に試食し、盛大に言いふらすのだ。
ちなみに、今回ベルティーナを除外したのは……あいつは食うばかりで広報しないからだ。ほとんど教会から出ないしな。
あと……試食で大赤字を出すつもりはない。
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