異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

85話 引きの力 -2-

公開日時: 2020年12月21日(月) 20:01
文字数:1,881

「で……結局、正解はなんなんだい?」

 

 少々焦れたようにエステラが問いかけてくる。

 もう夜だしな。あまりダラダラ話を長引かせるのもよくないか。頼みたいこともあるし。

 

 そんなわけで、俺は胸を張り、再度一同の顔を見渡す。

 

「陽だまり亭で、お子様ランチを作るぞ」

 

 そう!

 ガキ用の飯と言えば、何はなくともお子様ランチだろう!

 美味しいものが全部食べられる夢の食べ物だ。

 もっとも、こっちの世界でオモチャまではつけられないだろうが……オモチャはゆくゆくだな。

 けれど、それの他に、ガキどもが食いつきそうな『求心力』は考えてある。

 

 だが、その前に、内容の説明だ。

 

「ピラフ、ハンバーグ、パスタ、エビフライにオレンジジュース。この辺りのものを一つのプレートに盛りつけて提供するんだ」

「へぇ、そりゃあ美味そうだな!」

 

 デリアがぺろりと唇を舐める。

 その様子を間近で目撃したグーズーヤが「はぅっ!? セクシー過ぎるっ!」と、胸を押さえて悶絶死した。……あ、生きてるっぽいな。床に倒れてピクピク痙攣してる。生きてるならよし! 無視しよう。

 

「残念ながら、経費の関係でお子様ランチはガキ限定だ」

「なんでだよ!?」

「だから、経費の関係だ!」

 

 ガキが好きそうなものを全部載せるのだ。こんなもん、大人にまで提供してたら他のものが売れなくなる。お子様ランチはあくまで客引きなのだ。利益がそうそう大きくない。

 ガキが食べたいとねだれば、親はしょうがないなと店にやって来る。ガキをダシにその両親から利益を得ようというわけだ。

 

「なぁ、子供って、いくつまで子供だ? 二十代はどうだ?」

「アウトに決まってんだろ! 成人してるとアウトだよ!」

「……ふふふ……マグダはまだ未成年」

「あ、十二歳以上もアウトな」

「……未成年なのにっ!?」

 

 マグダをOKにすると赤字になりそうでな。マグダ未満で線引きさせてもらう。

 

「十歳を越えれば、大人と同じ料理でも食えるだろう。お子様ランチは十歳までとする」

「なたりあ、じゅっちゃいです!」

「おい、そこの黒いメイドを摘まみ出してくれ!」

 

 ナタリアを呼んだのは間違いだったかもしれん……話が逸れる。

 

「それでだな、お前たちに……『大のなかよし』であるお前たちに頼みたいことがあるんだが……」

「きたッス……グーズーヤ、目を合わせないようにするッス」

「……ウス」

「ナタリア、ボクたちも」

「かしこまりました」

「デリアちゃん、どうするぅ?」

「あたいはヤシロの味方だぞ」

「きゃ~! 乙女ちゃんなんだからぁ~!」

「なっ!? バッ、バカッ! そんなんじゃねぇよ! へ、変なこと言うと、アバラを粉々にしちまうぞ、このやろぉ~!」

 

 いや、怖ぇよ、デリア……きゃっきゃうふふみたいな雰囲気醸し出してっけどさ……

 で、ウーマロとグーズーヤはあとでお仕置き、エステラとナタリアは拒否権剥奪の刑だ。

 

「とりあえず試作品を作ってみるからちょっと待っててくれるか?」

「あの、ヤシロさん。お手伝いは?」

 

 ジネットが椅子から腰を浮かすが、それを手で制止する。

 

「大丈夫だ。夕方のうちに下ごしらえはしてある。あとはほとんど温めるだけだから」

「あぁ、夕方されていた作業は、このためだったんですね。では、お待ちしています」

「その間に、新味のポップコーンでも試食しておいてくれ」

「やったぁ!」

「……では、今喜んだデリア。手伝って」

「えぇ!? あたい、食べる係がいい!」

「……お手伝いしてくれた娘には、ちょっと多めになるサービス有り」

「やる! あたいが手伝ってやる!」

 

 砂糖が手に入ったことで、キャラメルポップコーンが作れるようになったのだが、これがなかなか味が安定しない。混ぜる段階でキャラメルのかかる量にムラが出来てしまうのだ。その練習もかねて、全員に試食してもらい、今後の広報活動に大いに役立ってもらうことにした。

 まぁ、あっちこっちで「美味かった!」と言いふらしてくれればそれでいい。こういうのはあちらこちらで複数回耳にすることが重要だからな。

 情報は一度耳にしただけではさほど記憶には残らない。しかし、一度聞いたことを別の場所でもう一度耳にすると、「あれ、これって前に聞いたことあるな……え、重要なことなの?」と脳が勝手に勘違いしてくれるのだ。

 重要度の上がった情報は脳に蓄積され、脳に蓄積されたもの……所謂「知っているもの」に対して人は、親近感にも似た感情を抱く。

 

 ま、ステマだ、ステマ。

 

 そんなわけで、盛大に試食し、盛大に言いふらすのだ。

 ちなみに、今回ベルティーナを除外したのは……あいつは食うばかりで広報しないからだ。ほとんど教会から出ないしな。

 あと……試食で大赤字を出すつもりはない。

 

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