そして、さらに先へ進むと……
「ふっふっふっ! よくぞここまでたどり着いたです!」
「……待っていたぞ、店長よ」
出店の奥にロレッタとマグダが揃っているちょっと豪勢な屋台があった。
なんだろう。やっぱり陽だまり亭の従業員が店の中にいると、ちょっと豪華に見えるな。
安心感とかも込みで。
「あの……ここは、一体何を売っているんでしょうか?」
ここまで、屋台の設備を見るだけで何を作っているのか、すぐに理解していたジネットだが、この店だけは勝手が違うらしい。
それはそうだろう。
「……この店では店長が知らない料理を売っている」
「えっ!?」
「本邦初公開です!」
コレの準備が大変でなぁ……特に、ロレッタがちょいちょい情報漏洩しやがったせいで。
「ロレッタが情報漏洩しやがったせいで……しまくりやがったせいで」
「わ、わざとじゃないですよ!?」
「わたし……全然気付きませんでした」
「……店長なら、そうだと思う」
マグダ。さらっと酷いな。
まぁ、ジネットだから気付かれなかったんだろう。エステラだったらバレてたろうな。
「あ、新しい料理……き、気になりますっ! 見たいです! 食べてみたいです!」
ジネットがそわそわし始める。
実は、この店だけはジネットが食べるまで販売を控えていた。
ジネットがお客第一号なのだ。
ジネットが食べたら解禁となる。
「あ、ついに謎の新商品が解禁になるんだね」
「オイラも興味津々ッス!」
新商品を作るという情報だけを耳にしていたエステラとウーマロ。
エステラは今回のサプライズの共犯者だし、ウーマロにはこれ用の屋台を作ってもらわなければいけなかったからな。
「あっ! 蒸籠です!」
ジネットが蒸籠に気付く。そう。蒸籠だ。
この屋台には大きな蒸籠が設置されている。
その中に入っているのは――
「「おーぷ~ん」です!」
蒸籠の蓋が開き、もわっと白い湯気が立ち上る。
その中には、白くてまるっこくてふっくらした物が入っていた。
その名も、肉まんだ!
豚肉とタケノコをふんだんに使った、ジューシー肉まんなのだ!
「さぁ、召し上がれです!」
「……熱いから、割ってから食べるといい」
「あ、あつっ、熱っ!」
手に取った肉まんを数回手の上でバウンドさせ、ジネットが肉まんを半分から割る。
中から、金色に輝く肉汁を滴らせた豚肉が姿を現す。
「お、美味しそうですぅ……」
そして、我慢できずに、ジネットが肉まんにかぶりつく。
「はふっ、はふっ…………ん~~~~~~~っ!」
肉を噛みしめ、肉汁を堪能し、タケノコの歯応えにときめく。
そしてジネットは、いつものあのセリフを口にする。
「ジューシーな豚肉と、しゃきしゃきしたタケノコと、もちもちの生地が、お口の中でわっしょいわっしょいしていますっ!」
「「「やったぁー!」」」
俺とマグダとロレッタが揃ってバンザイする。
「わっしょいわっしょい」いただきましたー!
「ん~~! ズルいです! マグダさんとロレッタさんだけ! わたしも! わたしも、このお料理作りたいです! 覚えたいですぅ!」
「やっぱり言ったです!」
「……予想通り」
「ヤシロさんっ!」
「はいはい。明日にでも教えてやるから、とりあえず、今日はお客さん、な?」
「ん~~~~~っ! 今日覚えたいですぅ~!」
こんなに駄々をこねるジネットは初めてかもしれない。
本当に羨ましいのだろう。
「ジネット。もう一個あるんだ、新メニュー」
「ぇえ!?」
俺の指さす方へ視線を向けるジネット。
そこには。
「ぁ……ぃ、いらっしゃい、ませ~」
「ミリィさん。一体何を売って…………わぁっ!」
ジネットの顔がきらっきらに輝き出す。
「か、可愛いですっ!」
「これね、リンゴ飴っていうんだょ。てんとうむしさんに作り方教えてもらったの」
「~~~~っ、ヤシロさんっ」
「はいはい。これも教えてやるから」
「ズルいですぅ~!」と、全身で抗議してくるジネット。
サプライズに対する感想は驚き4に喜び4、羨ましさ2、といったところだろうか。
「あまぁ~いですぅ……そして、リンゴの酸味がさっぱりしていて……これ、定食に付けたいです」
「いや、定食には向かないと思うぞ!?」
焼き鮭食いながらリンゴ飴はないだろう。
精々、ポップコーンの横で一緒に売るくらいだろうな。
「嬉しいです、楽しいです。……でも、やっぱり羨ましいです!」
未知の料理を両手に持って身悶えているジネット。
屋台の向こうで、マグダとロレッタがハイタッチをしている。
ミリィが「ごめんね?」と、秘密にしていたことを謝っている。が、そうさせたのは俺だ。ミリィが謝ることじゃない。
「これは、成功でいいのかな?」
滅多に見られないジネットの反応に、エステラが判断に困っている。
つか、お前。笑ってんじゃねぇか。
「『可愛いなぁ~』とか思ってるだろ?」
「そりゃあもう! 連れて帰りたいくらいだよ」
エステラも、なんだかんだジネット好き過ぎだしな。
「なら、大成功だろ。見てみろよ、周りの連中を」
「え?」
くるりと辺りを見渡すと、誰も彼もが満面の笑みを浮かべていた。
隣の者と笑い合ったり、ジネットを見て微笑んでいたり、美味しそうな料理に興味を引かれたり。様々な笑顔がそこにあって、そのどれもが今という時間を楽しんでいた。
「こういう未来を、作るんだろ、領主様?」
「ヤシロに言われると脅迫に聞こえるなぁ……でも、うん」
笑う面々を見つめ、エステラは決意を新たに言う。
「ボクは、この笑顔を守る。もう二度と、未来を見失うことはないし、そんな街にはしない」
「その決意。ワシも便乗させてもらおう」
ドニスがエステラの隣に並び立ち、大きな口を開けて笑う自区の住人たちを見つめる。
「そして……いつか、あの人と…………」
その呟きは、まぁ……聞かなかったことにしといてやろう。
そんな賑やかな感じで、『宴』は幕を下ろした。
準備に走り回ったわけだが……結果は上々。
成果は、ドニスの信頼を得て、協力を取り付けた。
十分と言えるだろう。
この調子で『BU』の突き崩しに邁進してやる。
その時俺は、そんなことを思っていたのだった――
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