異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

239話 三大ギルド長集結 -2-

公開日時: 2021年3月25日(木) 20:01
文字数:3,312

「みなさん。ドーナツはいかがですか?」

 

 ジネットがデカいトレイに山盛りのドーナツを持ってくる。

 後ろに、きらきら輝く瞳のデリアを引き連れて。

 

「うむ、一息入れるか。ジネぷーも一緒に食べぬか?」

「わたしは、まだ少し仕込みがありますので」

「あとで俺が手伝ってやるから、お前も食ってけよ」

「ヤシロさんが手伝ってくださるんですか? では、安心ですね」

 

 なんだろう。盛り付けをちょこっと手伝う程度のつもりだったのに、物凄い期待を背負わされた気がする。

 

「お隣、失礼しますね」

「あ、おぅ」

 

 トレイをデリアに渡し、俺の隣へ椅子を持ってくる。

 ウーマロがいるんで、エステラやルシア、デリアもマーシャもテーブルを挟んだ向こうにいたのだが、ジネットは自然と俺たちの方へと入ってきた。

 まぁ、人口密度を考えれば妥当か。とか、思っていると。

 

「あの、ヤシロさん」

 

 ジネットが体を俺の方へと向け、両手ともに拳を作って力強く訴えかけてくる。

 

「ヤシロさんには、一番の自信作を食べていただきたいんです」

 

 そう言って差し出されたのは……

 

「……肉まん?」

「はい! 今までで一番、生地がむっちりふわふわなんです!」

 

 ……ドーナツは?

 いや、いいんだけど。

 つか、厨房に引き返そうとしていたジネットを俺が呼び止めたんだよな?

 なのにドーナツの中に肉まんを忍ばせていたって……え? 呼び止められるの前提だった?

 いや、いいんだけどさ、別に。

 

 っていうか、なんとなくそんな気配は感じていたし……

 

 昨日の夜。

 エステラや四十二区の面々が帰った後、寝ようかなぁ~と思ったところをジネットに呼び止められ……いや、正確には「あ……っ」って小さな囁きを漏らして「……しゅん」とした顔をしただけで呼び止められてはいないのだが、呼び止められたようなもんだろう、あれは……で、仕方なく肉まんとリンゴ飴の作り方を教えてやったのだ。

 そしたらもう、朝からずっと作りまくりだ。

 リンゴ飴は早々にマスターし、肉まんは現在、ジネット流の試行錯誤段階に来ている。

 ……俺、今日これで何個目だろうな、肉まん食うの。

 

 朝は揚げたこ焼きとか作って大人しそうに見えたろ?

 あれな、生地を寝かせていたから作りたくても作れなかっただけなんだ。

 あと、揚げたこ焼きも覚えたてで作りたかったみたいだし。

 

 今回覚えた新メニューの中でもやっぱり、肉まんへの思い入れは強いようで、物凄い力の入れようだ。

 それはつまり、サプライズを喜んでくれたってことなのだろう。……お預けを食らった反動かもしれないが…………

 

 まずいな、ジネットが最近中華にはまっている。

 このままでは、中華飯店陽だまり亭になってしまう。

 今度はカツ丼とかを教えよう、そうしよう。

 

「うん。美味い」

「……きゅっ」

 

 なんか変なところに刺さったのか、ジネットが嬉しそうに身悶え小さくガッツポーズを作る。

 しかし、「きゅっ」はないだろう。「よしっ」とか、「やった」とかでいいんじゃねぇか、そこは。

 いやまぁ、ジネットは「よっしゃ、きたぁ!」とか言わないだろうけどさ。

 

「これで、工事中のみなさんへのお夕飯は大丈夫ですね」

「肉まんなのか?」

「はい。あと、麻婆豆腐も持っていくつもりです」

 

 中華だ!?

 移動中華飯店だ!?

 

 ならせめて、チャイナドレスでも作っておけばよかった…………ぱっつんぱっつんの胸元と、えぐいくらいに切れ込みの入ったスリットから覗く白い太ももが眩しい究極のチャイナドレスを……くぅ、悔やまれるっ。

 

「なぁ、ジネット。せめて髪型だけでもお団子にしてみないか?」

「お団子……丸く三つにまとめて串で刺すんですか?」

「そっち想像しちゃった!?」

 

 まさか、お団子頭で串団子を想像するとは……後頭部に串団子……それはそれで面白いけども。普通の、頭の上に二つ丸いのを乗っけたお団子頭の方が可愛いだろう。

 ジネットのお団子頭を想像してみる………………なかなかいいんじゃないだろうか。

 ジネットはあまり髪をアップにまとめないが、浴衣の時に見せたうなじは一級品だったし、お団子頭も有りだろう。

 

 普段と違う髪型って、なんか心をくすぐられるんだよなぁ。

 

「ダーリン! アタシを必要としてくれてるんだって!?」

 

 ドバダーン!

 と、荒々しい音を立ててドアが開かれる。メドラ襲来である。……ドア、粉砕してないだろうな?

 

「ダーリンの力になるために、駆けつけてきたよっ!」

 

 久しぶりに近くで見るメドラは、なんというか、目がしぱしぱするな。

 毎秒視力が悪くなっていく気がする。

 っつうか、なんだその頭は?

 いつもは真っ白な長髪を肩口で二つに結び、真っ赤な可愛らしいリボンを結んでいるメドラだが、今日は何を血迷ったのか結び目をかなり上に上げている。

 いわゆるツインテールと呼ばれる髪型だ。

 

「その髪型はなんの冗談だ、メドラ?」

「おぉ、さすがダーリンだね! 女の髪型が変わったら真っ先に気付いて褒めてくれるなんて、紳士の鑑だね」

「いや、褒めてねぇから」

「口で言わなくても、顔にちゃ~んと書いてあるよ」

「なんて? 『冷やし中華始めました』って?」

「『今日のメドラは可愛いなぁ、お嫁さんにしたいなぁ』ってね!」

「それ、お前の視力がおかしくなったか、『強制翻訳魔法』のエラーだから」

 

 誰が嫁にしたいなどと思うか。

 

「可愛いだろ?」

「髪型はな」

 

 だからこそ、その下にある逞し過ぎる面構えが違和感だらけなんだっつの。

 質の悪いコラ画像みたいだぞ。世紀末覇者に魔法少女の髪型乗っけたみたいな顔しやがって。

 

「あぁ……ダーリンに可愛いって言われた……アタシも、三十五区から四十二区までパレードするかもしれないねぇ」

「メドラ、それ営業妨害だから」

 

 折角ウェンディたちを使って「結婚式って素敵!」みたいなイメージ植えつけたのに、お前がパレードしたら百鬼夜行みたいになっちまうだろうが。どうせ狩猟ギルドの連中引き連れてくるのも目に見えてるし。……つか、俺をそんな魔の行進に巻き込むな。

 

「カタクチイワシ、貴様はなんでもありか?」

「もっとフラットな視線で見ろよ、物事を。そうしたら見えてくる真実に気が付くはずだから」

 

 なんでどいつもこいつも、俺が満更でもない的な受け止め方をするのか……

 

「やっほ~☆ お元気そうだねぇ、メドラママ☆」

「ん? ……なんだい、あんたもいたのかい、海漁の」

「うんうん☆ いたんだよ~☆」

「相変わらず破廉恥な格好だねぇ。女が腹を冷やすんじゃないよ」

 

 なんとなく、仲が悪そうだ。

 大手ギルドのギルド長同士、馴れ合う関係ではないのかもしれない。

 

「でもこれ、ヤシロ君のお気に入りの格好なんだよ~☆」

「アタシにも特大のホタテをおくれ!」

「おいメドラ、それはテロだぞ!?」

「ん~……今あるのはシジミくらいかなぁ☆」

「シジミ…………ん~……」

「悩むな、メドラ!」

「…………有り、だね」

「無しだよ!」

 

 メドラをからかって、ケラケラと笑うマーシャ。

 なんだよ、仲いいんじゃねぇか。

 シジミは力ずくでも妨害するけどな。

 

 と、その時。

 陽だまり亭のドアがゆ~っくりと開く。

 

「……はぁ……はぁ…………い、今、戻った……」

 

 メドラから遅れること数分。

 マグダが汗だくになって陽だまり亭へと戻ってきた。ふらふらだ。

 

「……メドラママ……速い」

 

 あのマグダがここまで疲弊するなんて……メドラ、どんな速度で走ってきたんだよ? バケモノか…………あ、バケモノか。

 

「……ヤシロ…………抱っこ」

 

 両腕を広げ、マグダがふらつく足取りで俺のもとへとゆっくり向かってくる。

 立ち上がり、迎えに行って抱き上げてやる。

 よく頑張ったな……お前一人に魔神を押しつけて悪かったよ。

 まさか、馬車を使わず馬車以上の速度でやって来るとは思わなかったんだ。

 

「ダーリン、アタシも抱っこだよ!」

「ごめん。俺、軽自動車より重い物とか絶対持てないから」

 

 抱っこできるサイズじゃねぇだろうが、お前は。

 

「獣っ娘独り占めか、カタクチイワシ!?」

「そっちの大きいのでよかったら連れて帰っていいぞ」

 

 ウチでは手に余るんでな。

 

「んもぅ! ダーリンの照・れ・屋・さん☆」

 

 あーはいはい。それでいいから、大人しくしててくれ。

 ……ったく、同じ「☆」でも、発する人間が違うだけでこうも変わるもんかねぇ。

 回復魔法と即死魔法くらい違うじゃねぇか。

 

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