異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

400話 エピローグ、そしていつもの・・・ -3-

公開日時: 2022年11月3日(木) 20:01
文字数:4,449

 待ち合わせのカフェへ行くと、レジーナが溶けていた。

 

「めっちゃ気持ちかったわぁ~……他人に揉みしだかれるんが、こんなに気持ちぃやなんて、知らんかったわぁ~」

「どれどれ?」

「肩ですよ、揉まれてきたのは! お兄ちゃんが狙ってるところへは、指一本触れさせてないです!」

 

 レジーナと同じマッサージをしてきたというロレッタとマグダ。

 大人女子になるマッサージだったか?

 ま、予想通りというか、全然変化はないな。

 

「……ふぅ、けだるいわ」

「マグダの大人女子のイメージ、なんか方向性間違ってないか?」

 

 けだるげ女子は確かに色っぽいが、マグダの半眼無表情な棒読みとの相性は悪い。

 

「こっちも終わったわ」

 

 俺たちからやや遅れて、ルピナスが店へとやって来る。

 心なしか、肌のつやが増している。

 

「おぉ、ちょっと若く見えるな」

「母様、とても綺麗です」

「お肌が光を反射していますね」

「うふっ、ありがと」

 

 ジネットが許可を得てルピナスの肌に触れ、「ぷるぷるです」っと感激している。

 なかなか効果の高いマッサージらしい。マッサージというか、エステか。

 

「やぁ、お待たせ」

 

 さらに遅れてエステラ御一行がやって来る。

 エステラにルシア……

 

「どんまい」

「何がさ!? これでも少しは効果があったんだよ!」

「どこにだよ」

「気持ちにさ!」

 

 思い込みじゃねぇか。

 バストアップマッサージの効果は、一日で確認できるほどではないようだ。

 そりゃそうだ。

 

「そういや、レジーナは放逐したんだな」

「うん。……マッサージ師のお姉さんに『ほな触りっ子やね』とか言うからさ」

 

 それで、マグダたちの方へ押し付けたらしい。

 レジーナ……お前というヤツは……

 

「そういう時は誘えよ!」

「ヤシロさん」

 

 ジネットがそっと俺のほっぺを押してルピナスの方へと向ける。

 わぁ、鬼のようなスマイルがこっち見てる。

 カンパニュラの教育によくないって? 大丈夫だよ。カンパニュラはもうすでにスルースキルを会得してるから。

 ……ちっ、分かったよ。

 

「けど、案外楽になったさよ。ねぇ?」

「そうですね。鎖骨付近の突っ張り感と、首の付け根のダルさが解消されました」

「なるほど。乳のある人には効果のあるマッサージなんだな」

「やかましいぞ、カタクチイワシ」

「あ、効果を実感できなかったルシアだ」

「実感したわ! ……なんとなく」

 

 強がるなよ。

 

「気持ちよかった、とても、私も」

 

 ギルベルタがほけーっとした顔をさらしている。

 給仕長ってのは緊張の連続で肩が凝るだろう。たまには、こうして息抜きをすればいい。

 

「特にギルベルタは苦労が多いだろうからな」

「ふん! 私がギルベルタに苦労などかけるものか」

「こうしょっちゅう四十二区に連れてこられてりゃ、疲れも溜まるっつーの」

「平気、私は。嬉しい、それに、四十二区へ来るのは。会えるから、友達のヤシロやみんなに」

「ギルベっちゃん、かわヨです!」

「……また、共に『可愛い』を磨き合おう」

「うむ。望むところ、永遠のライバルマグダ」

 

 まぁ、ギルベルタもなんだかんだ楽しそうだからいいか。

 

「パウラたちは遅いな」

「先にちらっと服屋さんでも覗いてるんじゃないのかい?」

「あぁ、あり得るです。パウラさん、そーゆーこすいところあるですから」

 

 なんてことを話していると、デリアとミリィが変質者を連れてやって来た。

 

「ミリィ、逃げろ! 変なムキムキにつけられてるぞ!」

「俺は待ち合わせ場所に来ただけだろうが!」

「えっと、ヤシロ。君の知り合いかい?」

「テメェの幼馴染だよ!」

 

 カフェで大声を出すなよ、リカルド。

 ったく、公衆道徳ってもんを知らんのか。

 

「どうだった、デリア?」

「すっごく気持ちよかったぞ。な、ミリィ?」

「ぅん。強さを選べたから、一番やさしぃのでお願いしちゃった」

 

 デリアたちは筋肉の疲れをほぐすマッサージに行っていた。

 ミリィには少し強かったのかもしれない。……まぁ、メドラがいる区の筋肉マッサージだからな。

 常人には強過ぎても当然だと言えるだろう。

 

 リカルドも同じところに行ってたらしいな。

 ん、感想?

 いらね。

 

「お待たせ~!」

「ごめんねぇ、遅くなっちゃった」

「見てくださいまし、この髪留めを!」

 

 最後にやって来たパウラたちは、やっぱり雑貨屋なんかを覗いていたらしい。

 リンパマッサージに行ってたイメルダもちゃっかり合流してる。

 買い物好きだよな、この三人。

 

「あのねあのね、すっごく可愛い寝間着を売ってるお店があったの!」

 

 パウラの尻尾がわっさわっさ揺れている。

 

「みんなで見に行こうよ。お揃いのパジャマとか、素敵じゃない?」

「それを着てお泊まり会などを催すのもよろしいですわね」

 

 みんなで選びたくて、寝間着屋を早々に出てきたらしい。

 

「お泊まり用のパジャマですか! いいですね、一緒に買うです!」

「……ロレッタとパウラは同じ色を選ぶ」

「あぁ、二人とも好きな色とか似てるもんねぇ」

「そんなことないって、ネフェリー! ロレッタがあたしのマネしてるだけ」

「マネじゃないですよ!? パウラさんがあたしにちょっと憧れてるだけです」

「誰が憧れるか、あんたなんかに!」

 

 やっぱ、パウラとロレッタは似ているらしい。

 ほんと、姉妹みたいだな。

 

「みんなお揃いのパジャマで、ぉ泊まり……みりぃ、それやってみたい、な」

「んじゃあさ、今晩あたいん家に泊まりに来ないか? なぁ、いいよな、オッカサン?」

「そうねぇ。カンパニュラも、まだ少し寂しいみたいだし」

「……すみません」

 

 ルピナスに視線を向けられ、カンパニュラが俯いて頬を染める。

 昨夜、寂しさから何かやらかしたらしい。

 

「いいわ。みんなで泊まりにいらっしゃい」

「お前が家主みたいだな、ルピナス」

「その方が、デリアも甘えやすいでしょ」

 

 当然、権利のすべてはデリアにあると言いながらも、ルピナスは進んでデリアの『母親代わり』を務めるつもりのようだ。

 甘やかして、時には厳しく叱って、存分に親子の思い出を作ってやればいい。

 

「けど、あんまりたくさんは無理よ。ベッドが足りないわ」

「はい! あたし行きたいです! お姫様ベッドで寝てみたいです!」

「え、ちょっと待って! なに、お姫様ベッドって!?」

「実は、デリアさんのベッドは――」

 

 ロレッタからの情報に、「えーっ! いいなぁ!」ときゃいきゃいはしゃぐパウラとネフェリー。

 

「マグダさんもお邪魔させていただいてはどうですか? お姫様ベッドに興味があるようでしたし」

「……店長、それはナイショのこと」

「あ、すみません」

 

 ぷくっと頬を膨らませるマグダ。

 別に怒っている様子はない。ジネットもくすくす笑っているし、ナイショとは言われていなかったのだろう。ただ、「気を遣ってよ、もぅ~」みたいな感じだろう。

 みんなに知られるのが恥ずかしかったってところか。

 

「マグダのベッドも改造してやろうか?」

「……と、ヤシロはすぐこういうことを言うのでナイショにしておきたかった。……お姫様はたまにでいい」

 

 可愛いけれど、自分の部屋に置くには可愛過ぎるというところか。

 じゃあ、今日体験させてもらってくればいい。

 

 ま、正直、一回で飽きるだろうしな、あーゆーやつは。

 出先で一回試すくらいがちょうどいいんだろう。

 温泉が好きでも、家にわざわざ作るほどではない、みたいな?

 

「じゃあ、俺が留守番してるから、ジネットも行ってくるか? お姫様体験」

「とても興味はありますが、わたしは陽だまり亭に戻ります。明日の準備もありますし」

 

 明日から通常営業だし、教会への寄付も当然ある。

 泊まりに行っても、日の出前に戻ってこなければいけないとなると、少々忙しないか。

 俺が準備しておくと言っても、ジネットは戻ってきてしまうだろうし。

 

「じゃ、マグダを頼むな、カンパニュラ」

「はい。では、一日ぶりに一緒に寝ましょうね、マグダ姉様」

「……うむ。また楽しい昔話を聞かせてあげる」

 

 へぇ、マグダのヤツ、カンパニュラに昔話なんか聞かせてやってたのか。

 

「どんな昔話なんだ?」

「……フィルマンとリベカの、ドタバタ初恋物語」

「割と最近だな、おい!?」

 

 昔話ってより、恋バナじゃねぇか。

 カンパニュラも、そーゆー話が好きなのかねぇ。

 

「ウーマロも泊めてもらうか?」

「い、いや、無理ッスよ!? こんな女性だらけのところなんて!」

 

 分かりきった回答を聞き、ネフェリーたちが笑い出す。

 

「ボクもお邪魔したいところだけれど、さすがに今日は館へ戻らないとね」

「では、私は参加の方向で――」

「君も帰ってくるようにね、ナタリア!」

「はぁ~い」

 

 ぷくっと頬っぺたを膨らませて、ナタリアが拗ねてみせる。

 こいつも十分に休暇を楽しんだようだ。

 明日から通常営業に戻るのだろう。

 

 ……まぁ、通常営業でもあんま変わんないけどな、こいつは。

 ホント、出会ったころとは別人だ。

 

「ノーマさんとルシアさんはどうなさいますの?」

「アタシは、折角だからお邪魔しようかぃねぇ」

「ギルベルタよ、明日の予定はどうなっている?」

「面会予定、明日は、三十四区のダック・ボック様と」

「よし、大した予定はないな。では、お邪魔しよう」

 

 こら、そこの放蕩領主。

 ダック・ボックがちょっと哀れになってきたよ。

 幼馴染って、こんなに蔑ろにされるもんなのか?

 ネックとチックは心底感謝しなければいけないだろう、心優しい幼馴染を持てたことに。

 

「ノーマさんもルシアさんも宿泊されるのですわね? では、ワタクシはご遠慮いたしますわ!」

「そう冷たいこと言うんじゃないさね、イメルダ」

「うむ、今夜も楽しく飲み明かそうではないか、イメルダ先生!」

「私も一度ゆっくりお話ししてみたかったのよ、木こりギルドのミズ・ハビエル」

「お離しなさいまし! このメンツ、面倒くさい未来しか見えませんわ!」

 

 面倒くさい二人にルピナスが加わって……イメルダの限界が試される!

 この三人を裁ききれるのであれば、もはやイメルダに敵はないと言えよう。

 

 頑張れ、イメルダ。

 絶対協力はしないけれど!

 

「それじゃ、みんなで可愛いパジャマを見に行くよ!」

「おぉーです!」

 

 パウラとロレッタが先導し、店を出た。

 パジャマ屋には可愛らしいパジャマが多く、全員であれがいいこれがいいと散々物色した。

 その後、服屋へ向かい、コスメを見て、お試しメイクアップを体験している時にイメルダとルピナスが店員にダメ出ししまくって半泣きにさせ、空が真っ赤に染まるまで思う存分素敵やんアベニューを歩き尽くした。

 

 ……俺とウーマロは女子たちの後ろをついて回り、たまに「これはどうですか?」と聞かれる服やら装飾品を見て「いいね、似合う似合う」と返事をする係となっていた。

 どんな接待だよ、これ。

 

 ちなみに、オシャレ下着のお店に入る際には、外で待たされた。

 この店こそ「似合う」とか言って一緒に選びたかったのに……

 

 

 そうやって歩きながら、ウーマロと二人で素敵やんアベニューの改善点を三十個ほど見つけて、途中で飽きてさっさと帰りやがったリカルドへの意見書にしたためた。

 働け、ダメ領主。

 この街はまだまだ進化できる。

 ラーメンばっかりに時間割いてんじゃねぇーよ。

 

 

 散々遊んで、四十二区へ帰った頃には、空はすっかり暗くなっていた。

 

 

 

 

 

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