「あぁー! マグダお姉ちゃんだー!」
「お姉ちゃーん!」
教会に着くと、ガキどもが一斉にマグダに群がった。
この数日で、マグダはすっかりガキどもの人気者になっていた。
「またアレやってー!」
「……了解」
マグダは手近にいたガキんちょを掴むとぽーんと空へ放り上げた。
そして、そばにいるガキどもを次々に高く放り投げていく。
円を描くようにして放り投げては落下してきたガキをキャッチ、そしてまたポーンと放り投げる……という、お手玉のようなことをし始める。
見ているこっちは冷や冷やものなのだが、これがなんとガキどもに大人気なのだ。
マグダはマグダで、この程度の芸当は文字通り朝飯前らしく、また「お姉ちゃん」と呼ばれることがまんざらでもない様子で、ガキどもと率先して遊んでやっている。
俺が相手せずに済んでホッとしたぜ。……毎朝、飯の前にガキどもの相手するのはマジで苦行以外の何ものでもないからな。
「やれやれ。すっかり子供たちを取られてしまったな」
肩をすくめながら、エステラが俺の隣へやって来る。
毎朝、こいつとはここで合流するのだ。
「少し前までは『エステラお姉ちゃん、エステラお姉ちゃん』と大人気だったんだけどね」
「あのぐらいのガキどもはパワフルな遊びが好きだからな。マグダのパワーには誰も敵わねぇよ」
「確かにね。それで、何か進展はあったのかい?」
「卵か?」
「そう。ジネットちゃんが嬉しそうにしていたからさ」
「お前の判断基準はいつもジネットだな」
「当然だろ。ボクはジネットちゃんの親友であり、ファンなんだから」
「なら、俺がジネットグッズでも作るから、お前買ってくれ」
「本人の許可がない非公式グッズはお断りだよ」
「スケスケのパンツでもか?」
「……それで喜ぶのは君だけだよ」
朝から思いっきり渋い顔をされてしまった。
「ヤシロさん、エステラさん。おはようございます」
教会のシスター、超絶美形のエルフ、ベルティーナだ。
今日も神々しいぐらいに美しい。……ただし、怒らせると超怖い。
「ヤシロさん。今朝、何かあったのですか?」
「と、言いますと?」
「いえ……ジネットが……」
ベルティーナは眉根を寄せ、不安そうな表情で息を漏らす。
「さっき厨房で『コケコケ』言いながら不思議な踊りを踊っていましたもので……」
「……あいつは何をやっているんだ?」
「それを、伺いたかったのですが……心当たりがないようですね」
「いや、心当たりはあるんですが……」
おそらく、ネフェリー両親のニワトリ踊りだろう。
あいつ何やってんだ? そんなに感銘を受けていたのか?
「なんでも、ヤシロさんは、ああいうのがお好きだとか……?」
「酷い誤解です、いや最早侮辱です。名誉棄損で訴えたい気分ですね」
なんなのだろうか、ジネットによる俺へのこの鳥好きキャラの押しつけは。
「たぶん、さっき見たニワトリにでも影響されたんでしょう」
あの儀式に魅入られて、何かよくないものが感染したとかじゃないことを切に願う。
そして、ジネットお手製の朝食を教会の談話室で食う。
食いながら、今朝養鶏場であったことをかいつまんでエステラに話してやった。
「しかし、うまくやったもんだね。卵の販売額は、きっと行商ギルドよりも安くしてくれるだろうね」
「はっはっはっ! 受けた恩は盛大に返すがいい」
「しかも、行商ギルドに卸す卵の量が減らないとなれば、行商ギルドも強くは言ってこられない。相手をねじ伏せるような発想ばかりよく考えつくよね、まったく」
「『人を笑顔にする妙案』と言ってくれ」
「物は言いようだね」
憎まれ口を叩きながらも、エステラは少し嬉しそうだった。
「なんにせよ、よかったじゃないか。君もたまには善行を積むんだってことが分かって、ボクは嬉しいよ」
お前は俺の担任か何かか?
「先生、お前のこと信じてたぞ」って結果が出てからしか言わない、信用ならない教師みたいな発言をしやがる。
俺の隣で爽やかに笑うな。対比で、まるで俺が爽やかじゃないように見えるだろうが。
よし決めた。今日は意味もなく、必要以上に髪の毛を掻き上げ、存分に爽やかさをアピールしまくることにしよう。
「ヤシロさん。お食事中に髪の毛をいじっちゃ……ダ・メ・で・す・よ?」
「……はい。すみません」
シスターベルティーナが笑顔で俺を窘める。
……凍りつくような冷たい笑顔で。
この人、躾に関してはマジうるさいんだよな……
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