「はぁ~い、ヤシロちゃ~ん! おげんこ~?」
「たった今、すこぶる具合が悪くなったところだ」
噂をすれば、ではないが…………いいタイミングで出てくるんじゃねぇよ、金物ギルドのムキムキ軍団。心臓に悪いだろうが。
タイミングを外して出てきたらぶっ飛ばすけれど。
「注文されてた物、一応形にはなったわよ~」
「ちゃんと出来てるか確認してほしくて持ってきたわよ~」
「そ・れ・か・ら。ノーマちゃんとの仲が進展したか聞きに来たわよ~」
「「「わよ~」」」
「うるさいさね! おかしな顔でおかしなこと言ってんじゃないさね!」
店の前に群がるムキムキどもを、ノーマが懐から出した煙管でぴしぴし叩いている。
おいおい、ノーマ。……火を入れればもっと攻撃力上がるだろ? 熱しろよ、もっと。
「で、何を持ってきたんさね?」
「まずはねぇ、コ・レ」
と、オッサン――たしか、ゴンスケだっけ?――が取り出したのは、円柱の鉄だった。
長さ10センチで直径が4センチ程度だ。
「『ころ』か?」
「そうそう♪ ベアリングの中に入れたのと同じ『ころ』よ~。精一杯均等にしたつもりだけど、どうかしら?」
渡された『ころ』をテーブルに置いて、指で押して転がす。
厳密に言えば、いろいろ問題点はあるが……
「まぁいいだろう。そこまでの精度は求めてねぇし」
「よかったぁ~! ホント、難しいのねぇ、円を作るって」
この円柱の『ころ』を大小二つの筒の間に入れて、回転を助けるベアリングとする。
作る物は遊具だから、自然とベアリングのサイズもデカくなり、比例して『ころ』も大きくなる。
ガタガタ音がするかもしれないが、どうせガキどもが乗って大はしゃぎする物だ。気にするほどのこともないだろう。
「ふ~ん……」
と、蚊帳の外に置かれたノーマが剣呑な目で『ころ』を見つめて、指でそれを転がす。
「ちょっと歪なんじゃないんかぃねぇ……まっすぐ転がらないさね」
「も~ぅ、ノーマちゃん。小姑みたいよぉ~」
「そんなことないさね。アタシはただ、金物ギルドの一員として、中途半端な仕事を同僚にやられると迷惑だから……あ、ここに小さい傷が付いてるさね。どういう風に扱ってるのか、聞いてみたいもんさねぇ~」
小姑だ。
小姑がいる。
そうか。ノーマを蚊帳の外に置くと、こんな風に拗ねられるのか。
今後の参考にさせてもらおう。ノーマには適度な仕事を。それを忘れないようにしよう。
「ベアリングの動作確認はあとでさせてもらうよ」
「それじゃ~、次のやつね。こっちはすっごい自信あるのよ~」
濃~い髭にびっしりと埋め尽くされた口周りを緩めて、ゴンスケは他のムキムキにアイコンタクトを送る。
……ウィンクとかやめろ。ここは飲食店だぞ? オッサンのウィンクとか、不衛生だろうが。
「じゃじゃ~ん☆」
と、ムキムキが機械を持ち込んでくる。
それより、なんでかな。
「じゃじゃーん」って、さっきマグダが言った時は可愛かったのに、オッサンが言うと殺意が湧くのは。
「ヤシロ。あれはなんなんだい?」
「あぁ、あれか? 心が乙女のムキムキオッサンだ」
「それじゃないよ!? そっちは知ってるから!」
質問に答えてやったのに怒り出すエステラ。
じゃあ何が聞きたいんだよ?
「あの機械は何をするものなのかって聞いているんだよ」
「あれはな、ザラメを入れることで……ネフェリーが『えっ、お砂糖ってこんなことも出来るの? すご~い!』って感激しまくる機械だ」
「あんちゃん、ちょっと待っててくれ! すぐにザラメを持って戻ってくる! 三十分、いや、十二分で戻っから!」
言うが早いか、パーシーは物凄い速度で店を飛び出していった。
十二分ってことは……あいつ、四十二区内に砂糖置き場を確保してやがるな。いつか移住してくる気なんだろうな、きっと。
「ねぇ。今、パーシーの声がしなかった?」
厨房から顔を出したネフェリー。
手にはしっかりとたい焼きが握られている。
「あっ! あれがたい焼きかい!? ボクも食べたい!」
「「「「「アタシたちも~!」」」」」
「あんたらは少し遠慮するさね!」
あっという間にたい焼きに群がる乙女(?)たち。
いいのかエステラ。お前、なんかそのカテゴリーに含まれてるぞ、今。
きゃあきゃあと姦しく、「可愛い~!」だの「甘~い」だの「幸せ~」だのと騒ぐ乙女(?)たち。
エステラも満足そうにたい焼きを頬張っている。
だがな……断言してやる。
お前たちはこの後、今以上の感動を味わうことになる。
俺が発注した二つの物が揃った時にな。
まず、一つ目は俺が発注したこの機械。
高さが120センチ程度の大きな長方形の箱で、中心部には大きな桶が取り付けられている。その桶の中央には『熱伝導率が高くて高温に耐えられる金属を筒状に加工した物』がセットされている。
外枠には大きめのハンドルなんかがついていて、こいつを回すと、桶の中央にある『熱伝導率が高くて高温に耐えられる金属を筒状に加工した物』が回転する仕組みになっている。
その『熱伝導率が高くて高温に耐えられる金属を筒状に加工した物』の下には、強力な炎を維持できる櫓を置き、下から高温で熱せるようにしてある。
こいつに俺が発注した二つ目の材料『ザラメ』を入れれば出来上がるってわけさ。
そう――
綿菓子がな!
「……ヤシロが笑っている」
「この顔は、『うっしゃっしゃ! また一儲けさせてもらいまっせー』って時の顔です!」
「この機械が、何かすごい物を生み出すんさね!?」
「それは楽しみだね。ね、ジネットちゃん」
「はい。そうですね。……うふふ。楽しそうですね、ヤシロさん」
そして、ネフェリーに褒めてほしい一心で四十二区を爆走していたパーシーは、本当に十二分ほどで戻ってきた。気持ち早いくらいだ。
それじゃ、作りますかね……ふわふわの、夢のようなお菓子をな!
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