異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

222話 『宴』の準備8 -3-

公開日時: 2021年3月22日(月) 20:01
文字数:2,325

「はぁ~い、ヤシロちゃ~ん! おげんこ~?」

「たった今、すこぶる具合が悪くなったところだ」

 

 噂をすれば、ではないが…………いいタイミングで出てくるんじゃねぇよ、金物ギルドのムキムキ軍団。心臓に悪いだろうが。

 タイミングを外して出てきたらぶっ飛ばすけれど。

 

「注文されてた物、一応形にはなったわよ~」

「ちゃんと出来てるか確認してほしくて持ってきたわよ~」

「そ・れ・か・ら。ノーマちゃんとの仲が進展したか聞きに来たわよ~」

「「「わよ~」」」

「うるさいさね! おかしな顔でおかしなこと言ってんじゃないさね!」

 

 店の前に群がるムキムキどもを、ノーマが懐から出した煙管でぴしぴし叩いている。

 おいおい、ノーマ。……火を入れればもっと攻撃力上がるだろ? 熱しろよ、もっと。

 

「で、何を持ってきたんさね?」

「まずはねぇ、コ・レ」

 

 と、オッサン――たしか、ゴンスケだっけ?――が取り出したのは、円柱の鉄だった。

 長さ10センチで直径が4センチ程度だ。

 

「『ころ』か?」

「そうそう♪ ベアリングの中に入れたのと同じ『ころ』よ~。精一杯均等にしたつもりだけど、どうかしら?」

 

 渡された『ころ』をテーブルに置いて、指で押して転がす。

 厳密に言えば、いろいろ問題点はあるが……

 

「まぁいいだろう。そこまでの精度は求めてねぇし」

「よかったぁ~! ホント、難しいのねぇ、円を作るって」

 

 この円柱の『ころ』を大小二つの筒の間に入れて、回転を助けるベアリングとする。

 作る物は遊具だから、自然とベアリングのサイズもデカくなり、比例して『ころ』も大きくなる。

 ガタガタ音がするかもしれないが、どうせガキどもが乗って大はしゃぎする物だ。気にするほどのこともないだろう。

 

「ふ~ん……」

 

 と、蚊帳の外に置かれたノーマが剣呑な目で『ころ』を見つめて、指でそれを転がす。

 

「ちょっと歪なんじゃないんかぃねぇ……まっすぐ転がらないさね」

「も~ぅ、ノーマちゃん。小姑みたいよぉ~」

「そんなことないさね。アタシはただ、金物ギルドの一員として、中途半端な仕事を同僚にやられると迷惑だから……あ、ここに小さい傷が付いてるさね。どういう風に扱ってるのか、聞いてみたいもんさねぇ~」

 

 小姑だ。

 小姑がいる。

 

 そうか。ノーマを蚊帳の外に置くと、こんな風に拗ねられるのか。

 今後の参考にさせてもらおう。ノーマには適度な仕事を。それを忘れないようにしよう。

 

「ベアリングの動作確認はあとでさせてもらうよ」

「それじゃ~、次のやつね。こっちはすっごい自信あるのよ~」

 

 濃~い髭にびっしりと埋め尽くされた口周りを緩めて、ゴンスケは他のムキムキにアイコンタクトを送る。

 ……ウィンクとかやめろ。ここは飲食店だぞ? オッサンのウィンクとか、不衛生だろうが。

 

「じゃじゃ~ん☆」

 

 と、ムキムキが機械を持ち込んでくる。

 それより、なんでかな。

「じゃじゃーん」って、さっきマグダが言った時は可愛かったのに、オッサンが言うと殺意が湧くのは。

 

「ヤシロ。あれはなんなんだい?」

「あぁ、あれか? 心が乙女のムキムキオッサンだ」

「それじゃないよ!? そっちは知ってるから!」

 

 質問に答えてやったのに怒り出すエステラ。

 じゃあ何が聞きたいんだよ?

 

「あの機械は何をするものなのかって聞いているんだよ」

「あれはな、ザラメを入れることで……ネフェリーが『えっ、お砂糖ってこんなことも出来るの? すご~い!』って感激しまくる機械だ」

「あんちゃん、ちょっと待っててくれ! すぐにザラメを持って戻ってくる! 三十分、いや、十二分で戻っから!」

 

 言うが早いか、パーシーは物凄い速度で店を飛び出していった。

 十二分ってことは……あいつ、四十二区内に砂糖置き場を確保してやがるな。いつか移住してくる気なんだろうな、きっと。

 

「ねぇ。今、パーシーの声がしなかった?」

 

 厨房から顔を出したネフェリー。

 手にはしっかりとたい焼きが握られている。

 

「あっ! あれがたい焼きかい!? ボクも食べたい!」

「「「「「アタシたちも~!」」」」」

「あんたらは少し遠慮するさね!」

 

 あっという間にたい焼きに群がる乙女(?)たち。

 いいのかエステラ。お前、なんかそのカテゴリーに含まれてるぞ、今。

 

 きゃあきゃあと姦しく、「可愛い~!」だの「甘~い」だの「幸せ~」だのと騒ぐ乙女(?)たち。

 エステラも満足そうにたい焼きを頬張っている。

 

 だがな……断言してやる。

 お前たちはこの後、今以上の感動を味わうことになる。

 

 俺が発注した二つの物が揃った時にな。

 

 まず、一つ目は俺が発注したこの機械。

 高さが120センチ程度の大きな長方形の箱で、中心部には大きな桶が取り付けられている。その桶の中央には『熱伝導率が高くて高温に耐えられる金属を筒状に加工した物』がセットされている。

 外枠には大きめのハンドルなんかがついていて、こいつを回すと、桶の中央にある『熱伝導率が高くて高温に耐えられる金属を筒状に加工した物』が回転する仕組みになっている。

 その『熱伝導率が高くて高温に耐えられる金属を筒状に加工した物』の下には、強力な炎を維持できる櫓を置き、下から高温で熱せるようにしてある。

 

 こいつに俺が発注した二つ目の材料『ザラメ』を入れれば出来上がるってわけさ。

 そう――

 

 綿菓子がな!

 

「……ヤシロが笑っている」

「この顔は、『うっしゃっしゃ! また一儲けさせてもらいまっせー』って時の顔です!」

「この機械が、何かすごい物を生み出すんさね!?」

「それは楽しみだね。ね、ジネットちゃん」

「はい。そうですね。……うふふ。楽しそうですね、ヤシロさん」

 

 

 そして、ネフェリーに褒めてほしい一心で四十二区を爆走していたパーシーは、本当に十二分ほどで戻ってきた。気持ち早いくらいだ。

 

 それじゃ、作りますかね……ふわふわの、夢のようなお菓子をな!

 

 

 

 

 

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