異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

341話 結論を下す時 -2-

公開日時: 2022年3月9日(水) 20:01
文字数:3,862

「ちなみに、ゴッフレード」

 

 これは知っていようが知らなかろうがどっちでもいいのだが。

 

「Mプラントって知ってるか?」

「テメェっ……どこまで知ってやがるんだ?」

 

 お、知っていたか。

 細菌兵器強奪の時は、目当ての物が種だと知らなかったと言っていたが……あぁ、その後バオクリエアの人間が来て『失敗作だ』とか言ってたんだっけ?

 その辺で情報を得たのかもしれないな。

 

 どこで手に入れたかはどうでもいい。知っているなら都合がいい。

 

「あれは、ウィルスをまき散らす菌と急成長をする花が共生している物――だったよな。その花の方について、何か情報を知らねぇか?」

「あぁ、それなら多少はな」

「知ってるのか」

「おぅ。もともとは除草剤代わりに使われていた花だ」

 

 その花は、周りの養分を強奪し、一瞬で成長して一瞬で枯れる。

 その花の種を撒いて大量の水を与えれば、近くにある雑草から栄養素を奪い取り花を咲かせ、翌日には雑草と一緒に枯れるのだそうだ。

 Mプラントは開花に三日かかると言っていたが、元になった花は一日で咲いて一日で枯れるらしい。品種改良の際に変質したのかもしれないな。……あ、品種改悪か。

 

 花が枯れた後、付近には種が飛び散っているのでしっかりと除去しなければいけないらしい。

 雑草を除去して畑を作り、さぁ野菜を作るぞって時にその花の種が残っていたら、作物の栄養を全部奪い取られるからな。

 

 もともとは、植物を殺す『害草』という認識だったらしい。

 

「有名なのか?」

「俺の故郷じゃあな。性質上、他の国にはそれほど広がってねぇはずだ」

「その花の名前は?」

「……フロッセだ」

「お前の故郷の名前じゃねぇか」

「フロッセによって荒れた土地に人が住んで興した町だからな。その花の名をもらったんだろうぜ。詳しくは知らねぇがな」

 

 なるほど。

 国の名前になるくらいの花なら、知る人ぞ知るくらいの知名度はあるか……

 

「あ、じゃあもしかして、バオクリエアはその花が欲しくて?」

「さぁな。だが、併合された後、バオクリエアの連中はせっせとフロッセの種を集めて持ち帰っていたらしいぜ」

 

 驚異的な成長と、周りの栄養素を根こそぎ奪い取るという習性は……確かに、悪用のしがいがありそうだ。

 ホント、鼻がいいんだな、バオクリエアは。

 

「その種って、どっかで手に入るか?」

「バオクリエアに行けばな」

「そんな時間はねぇよ」

「私、用意できるよ~☆」

 

 俺たちの話にマーシャが割り込んでくる。

 

「持ってるのか?」

「今はないけど、フロッセの研究をしている町なら知ってるよ。魔草の浸食に悩まされている町で、ここから割と近いから、船で行けば明日の夕方には戻ってこられると思う」

 

 それは助かるな。

 

「友好的な連中なのか?」

 

 研究材料を寄越せなんて言って、マーシャに危害が及ぶのは望ましくない。

 

「大丈夫だよ。取引もたまにしているし。彼らは、自分たちの町を守るために研究してるだけだから。どこかの国と違って、海を支配しようなんて野心も持ってないしね」

「けっ!」

 

 マーシャがバオクリエアのことを心底嫌っているのはよく分かった。

 まぁ、友好的な連中なら大丈夫か。

 

「じゃあ、その種をいくつか手に入れてきてくれるか? 小さい布袋一つくらい」

「うん。早い方がいいよね? じゃあ、今から行ってくるね☆」

 

 言って、メドラの腕をぺしぺし叩く。

 

「港までお願いね、メドラママ☆」

「なんでアタシに言うのさ?」

「だって、ハビエルギルド長とランデブーすると、妙な噂が立っちゃうじゃない? エッチらしいし」

「こらこらこらぁ! ありもしないことを口にするんじゃねぇよ、海漁の! お前に邪な感情なんか抱かねぇよ!」

 

 と、人払いの人垣の向こうからこちらをじ~っと観察しているイメルダの方を気にしつつ強く訴えるハビエル。

 

「だよな。お前の守備範囲は十歳未満だもんな」

「はっはっはっ。甘いな、ヤシロ。ミリィたんのおかげで、最近は実年齢なんかあってないようなものだと悟りを開いたんだぜ☆」

「うん☆ やっぱり危険だね、このヒゲのオジ様は☆」

 

 マーシャが両腕で大きく『×』を作る。

 はい、ハビエルアウトー!

 

「モーニングスター、ちゃんと手入れしないと明日には錆びてそうだなぁ」

「何で濡れる前提なんだよ!? 今日か!? イメルダには言うなよ、ヤシロ!?」

 

 え~。どーしよっかなー。

 

「まったく……しょーもないオッサンだねぇ、ハビエル。あんたがそんなんだから、アタシが迷惑を被るんだよ」

「なんか、散々な言われようだな、ワシ……」

「自業自得じゃないかなぁ~☆」

 

 いやいや、マーシャ。

 自業自得にプラスアルファでお前の発言もかなり凶悪だったからな。

 これで被害者がハビエルじゃなければ俺が証言者として庇ってやってるところだ。被害者がハビエルでなければ!

 

「それじゃあ、アタシは少し席を外すけど……ゴッフレード」

 

 メドラがゴッフレードの顔に触れそうな距離でガンを飛ばす。

 

「……ダーリンに何かしたら、分かってるだろうね?」

「へっ。どうだかな」

 

 おぉ、チューするのかと思ったぜ。

 よく逃げなかったなゴッフレード。その胆力だけは凄まじいものだ。

 

「じゃあ、行ってくるね。すぐ戻ってくるから待ってておくれよ、ダーリン」

 

 と、俺に向かって投げキッスを飛ばすメドラ。

 凄まじい剛速球だ!?

 高校球児が軒並み自信をなくすレベルの!

 

 なのですかさずハビエルバリアー!

 

「ぎゃぁあああああ!」

 

 直撃を受けてハビエルが地面へ沈んだ。

 ……なんて威力だ。

 

「……なんか、ワシ……泣きたい」

 

 ハビエルがいてくれて本当によかった。

 安らかに眠れ。

 

「……ちっ。俺が留守にしている間に何があったってんだ」

 

 三大ギルド長と俺のやり取りを見て、ゴッフレードが眉根を寄せる。

 

「三大ギルド長が一同に介してるってだけでもとんでもねぇってのに……テメェは何をやらかしたんだよ、オオバヤシロ」

 

 さてな。

 俺は自分に正直に生きていただけだ。

 こいつらが頻繁に顔を合わせるようになったのは、こいつらの中で何かしらの変化があったからなんじゃねぇのか。

 

「じゃあ、マーシャ。頼む」

「うん。ま~かせて、ねっ☆」

 

 マーシャからウィンクが飛んでくる。

 ふわ~んと風に乗って。

 

「アタシも、任せておくれね☆」

 

 メドラからもウィンクが飛んでくる。

 ドゴゥ! と、空気を切り裂いて。

 

「くそぅ、もったいないけど――ハビエルバリアー!」

「ぎゃぁああああ!」

 

 マーシャのウィンクも受け取れなかった。

 

「メドラのは当然ながら……海漁のウィンクも胃にもたれそうだなぁ、おい」

「ひどぉ~い! ぷんぷん!」

 

 ハビエルがげんなりしている。

 まぁ、ハビエルの癒やしは「ぼんっきゅっぼんっ」じゃなくて「つるーんすとーんぺたーん」だもんな。

 

 マーシャがメドラに連れられて街門を出て行く。

 外の森に出ても、メドラがいれば安心だろう。

 

 あとは……

 

「ゴッフレード。オールブルームに戻ったのはいつだ?」

「二十日ほど前だ」

「目立つことはしたか?」

「ノルベールがいるとしたらウィシャートの周りだろうからな。見つからないように探りを入れていたから、連中には気付かれてねぇはずだ」

 

 うん。俺の質問の意図を把握していたか。

 ウィシャートにゴッフレードの存在が知られていないならそれでいい。

 

「まぁ、ベックマンに再会した後は、テメェの周りを探ってたけどな」

 

「へへっ」っと笑うゴッフレード。

 驚いたかと得意げだ。

 ベックマンに会ってからってことは、そう日数は立ってないと思うが……え、俺の情報ってそんな数日で手に入るようなもんなの?

 エステラとかジネットのことまで結構調べられてたと思ったけど。

 

「街の連中は口を揃えて言ってたぜ。『ヤシロは陽だまり亭の店長と領主様と、どっちとくっつくのかはっきりさせろ』ってな」

「……具体的に誰と誰だ?」

「そいつは言えねぇな。それが証言者の弱みになるなら、俺が美味い汁を吸わせてもらう。『オオバヤシロに告げ口するぞ』ってな」

 

 冗談めかして言うゴッフレード。

 いや、こいつならためらいなく利用するだろうな。

 だが、そんなふざけた証言をしたヤツなどどうなっても知ったこっちゃない。

 少しは痛い目を見るといい。

 

 ……ったく。

 何がはっきりさせろだ。

 

「こ、こほん。まぁ、噂というものは、赤の他人が無責任に面白おかしく揶揄するものだからね」

 

 で、噂の的の一角が、髪の毛と同じくらいに頬を赤く染めて咳払いをしている。

 

 ……まったく。

 どいつもこいつも無責任な噂を好き勝手に広めやがって。

 

「それで、フロッセの種が何かになるのかい?」

「種もだが……一度その花を見てみたい」

 

 Mプラントがフロッセを改良して作られているなら、外見が似ている可能性が高い。

 

「ウィシャートもMプラントのことは知ってるよな?」

「当然だ」

 

 だよな。

 使者を襲わせて種を強奪しようとしてたんだからな。

 

「ゴッフレード、俺が指示するまでどこかに身を隠しておけ。出来れば四十二区の外で。俺との接点を悟られないようにな」

「……それで?」

「準備が出来たら使いをやる。それまで、ベックマンが目立たないようにお目付け役を頼む」

「ちっ! ……一番厄介なことを押しつけやがる」

「まぁ、敗者は勝者の言うことを黙って聞いとけ」

「分かったよ。……ただし」

 

 ゴッフレードの目がギラリと光る。

 その下で口元は弧を描いている。

 実にギラついた笑みが俺の顔を覗き込む。

 

「成果は残せよ?」

 

 協力してやるから結果を残せと。

 あほが、こっちが協力してやってるんだっつの。

 

「お前たちの働き次第だ」

 

 

 ギラつく瞳を睨み返して、話を終わらせる。

 

 

 さて、まだまだ準備に時間がかかりそうだ。

 とりあえずは……60キロの大荷物に話をしに行くかな。

 

 

 

 

 

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