異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加30話 チーム戦の駆け引き -3-

公開日時: 2021年3月30日(火) 20:01
文字数:2,604

 入場門に整列した自軍選手に向かい、俺は拳を握りしめて声を張り上げる。

 

「さぁ、選ばれし二十五名の『台風の目ンバー』たちよ! 勝利をもぎ取りに行くぞ!」

「その前に、その名称が嫌デスネ!」

「そうダゼ! どうせなら『台風の目メンバー』ダゼ!」

「いや、それは言いにくいからイマイチじゃねぇかですよ」

「うふふ~☆ な~んでもいいじゃない☆ レースを楽しもうよ~☆」

 

 選手待機列に整列するメンバーに檄を飛ばすも、どうにも士気が上がらない。

 やっぱ寄せ集めの連中じゃまとまらないよなぁ。

 

「ヤシロさ~ん。並び順はこれでいいんッスか?」

 

 来た順番という適当な並び順に、ウーマロが不安そうな顔をする。

 エントリーシートを見ていないあいつには分からないことだろうが……

『台風の目』のエントリーシートには、出場選手二十五人分の名前を書く欄しかなかったのだ。つまり、誰が何番目に走るかはあとでいくらでも変更できる余白があるのだ。

 他のチームがそこに気付いているのかは分からんが、気が付いていれば状況によって出場順や並び方を順次変更でき、自軍に有利な采配が出来る仕様なのだ。

 

 と、そこへそーゆーことに目聡く勘付きそうな筆頭、エステラがやって来た。

 悠然と、一位の余裕を身に纏って。

 

「ヤシロ。今度も青組が勝ってリードを広げさせてもらうよ」

 

 こいつはいちいち突っかかってくるな。

 純粋に勝負事が好きなのだろう。開催直前まではあちらこちらへの配慮だとか根回しでひぃひぃ言っていたってのに、当日になったら誰よりも楽しそうにしている。

 

 まぁ、それだけ日頃から年齢に見合わない重圧を背負い込んでいるってことなのだろう。

 こうやって運動会なんかを楽しそうにやっている姿は年相応に見える。

 ホント、最近は同時進行で大型プロジェクトがいくつも動いているから相当きついのだろう。……こいつは泣き言をなかなか口にしないからな。

 こういうイベントが息抜きになるならそれが一番だ。

 

 

 だが、手加減をしてやるつもりはない。

 

 

「大敗して吠え面かくなよ?」

「ふふん。徒競走ダントツの最下位を喫した君がそれを言うのかい?」

「ダントツはジネットだろう。俺より遅かった」

「取り組む姿勢や、スポーツに対する意欲の話をしているんだよ、ボクは」

「胸に熱く滾る情熱なら誰にも負けないぜ!」

「胸『で』熱く滾ってるんだろう、君の情熱は!?」

 

 荒ぶるおっぱいを見れば心も荒ぶる。

 当然のことじゃないか。

 

「しかし、迂闊だったね」

 

 エステラがしたり顔で言う。

 

「君にしては、随分と声が大きかったよね」

「そうそう。あたしもちゃ~んと聞いちゃった」

「ヤシロ。ヒントをありがとな!」

 

 ひょっこり、ひょこっりと、黄組のパウラと赤組のデリアが顔を見せる。

 

「デモンストレーションにいなかったメンバーへの説明に熱が入ってしまったんだろうけれど……君らしくもないミスだったね」

「けど、言われてみるとその通りよね。中心がしっかりしなきゃいけないって」

「ヤシロに言われて、あたいたち、編成を変えたんだ。さらに強くなったぞ! 覚悟しとけよ、ヤシロ!」

 

 と、俺の話を聞いて必勝法――だとこいつらが思い込んでいる『基本戦略』を参考にチームを再編したらしい。

 

「ふん、それくらいはハンデだ」

 

 ……と、しかめっ面を見せてやると、連中は嬉しそうに「にしし」と笑っていた。……ふっ、ちょろいな、お前らは。

 

 しくじった……と見せかけて、それを補うかの如くこちらからも一つ要求を出しておく。

 

「ところで、見ての通り今回マーシャを参加させてやりたいんだが……」

 

 俺たちのチームにはマーシャがいる。

 水槽にも入らず、現在はギルドの一員であるニッカに抱っこされている。

 ブルマはさすがに無理だったのだが、上には体操着を着ている。

 

 ……露出減ってんじゃねぇか!?

 

 いやいや、しかしながら、コスプレ的な意味合いで言えばなかなかにグッジョブだ、うん!

 

 でだ。

 そんな人魚なマーシャは、当然ながら走ったり跳んだりは出来ない。

 

「マーシャは他の競技に出るのが難しいからよ、なんとかこいつに参加させてやりたいんだ」

 

 交流もあり、また、現在絶賛進行中の港の新設に深く関わるマーシャだ。出来ることなら参加させてやりたい――と、連中も思っていることだろう。

 エステラやデリアなら、なおさらな。

 

「『台風の目』は、竹に掴まってさえいれば走らなくてもOKってことにしてくれねぇか?」

 

『台風の目』のルールには、「五人全員が竹をしっかり掴んでいること」というものがある。よって、足の速い一人が竹を持って独走したとしても、それはルール違反となる。

 五人全員が竹を持った状態でスタート地点に戻らなければそのチームは失格となるのだ。

 

 だが、『全員が地面に足をついていなければいけない』というルールはない。

 

「マーシャの参加を認めてやってくれないか?」

「お願ぁ~い☆」

 

 ニッカに抱っこされて、マーシャが猫なで声で甘えた仕草を見せる。

 エステラは肩をすくめ、デリアは頬を搔き、ノーマやパウラは特に不快感も見せないいつも通りの表情をしている。

 要するに、「この人魚、ホンット陸のイベント好きだなぁ」みたいな顔だ。

 

 みんながマーシャの性格を知っているからこそ「まぁ、別にいいんじゃないの?」的な空気が広がっていく。

 マーシャは特に誰かに嫌われることもなく、むしろ好感を持たれているし、邪険にするヤツはいないだろう。

 

「ボクは構わないよ。青組のチームリーダーとしても、大会委員長としてもね」

「あたいもいいぞ。っていうか、マーシャ。あんまヤシロに迷惑かけんなよな?」

「かけてないも~ん。ねぇ~、ヤシロ君☆」

「あたしたちも別にいいよ。ねぇ、ノーマ?」

「特にこっちが不利になるような申し出でもないしねぇ。いいんじゃないのかい。マーシャには、いろいろと世話にもなってっしねぇ」

「わはぁ~☆ パウラもノーマもありがと~☆ みんな、だ~い好き☆」

「ふんっ! あまったるい声を出すんじゃないよ、海漁の! そんな見え透いたぶりっこで、ウチのダーリンを籠絡しようたって、そうはいかないからね! ね、ダーリンにゃん★」

「ごふっ! ……見え透いたぶりっこがここまで下手な人、初めて見たッス……近くにいたせいで、オイラ流れ弾にヤラれたッス……」

 

 ――と、ウーマロが血を吐いたりもしたが、割と穏やかな雰囲気でマーシャの参加が許可された。

 ……というか、『俺の要望が』受け入れられた。

 

 よぉし、思惑通りだ。……これで、勝てるっ。

 

 

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