――異世界の巨大都市・オールブルーム。
――その都市の一角に、ある問題を抱えた一軒の食堂がありました。
――陽だまり亭。
――この食堂が抱える問題。それは…………
『安心して食事が出来ない食堂』
――床は軋み、椅子はガタガタ。日中も陽の光は入らず真っ暗。
――この店の店主はこう語る。
「そうですね。もう随分古くなってきていましたし……お客さんにとって居心地のいい空間になれば嬉しいですね」
――そんな店主の切なる願いを受け、一人の男が立ち上がりました。
――リフォームの匠・ウーマロ。
「どうしたんッスか、ヤシロさん? さっきから一人で何言ってるんッスか?」
「俺のいた国で『リフォームと言えばコレ』みたいなヤツだよ」
「よく分かんないッスけど……」
大工のウーマロが困惑の表情を浮かべる。
まぁ、分かんないよな。この世界にはテレビすらないんだからよ。
と、まぁそんなわけで、ついに陽だまり亭のリフォームが完成した!
その全貌をとくとご覧いただこうではないか!
まずは外観がガラリと変わった。
一階の店舗部分には大きな窓を設け、外から店内がよく見えるようにしてもらった。これで陽の光も入り店内も格段に明るくなる。そして何より、開放感が生まれた。
店内が外から見えるというのは、飲食店においてはプラスになることが多い。
思い浮かべてみてほしい。街に溢れる飲食店を。だいたい大きな窓から店内が見えるはずだ。
逆に、昔ながらの純喫茶とか、店内が見えない店には入りにくかったりしないだろうか? まぁ、あえてそうやってハードルを上げて、店の雰囲気を大切にしているところもあるのだが。これは店によりどちらを取るか選べばいいところだ。
「こんなに開放感があるお店は、そうそうないですよね」
ジネットは大きな窓が大層気に入ったようだ。
なにせガラスは高いからな。俺たちの自室にもついていない高級品だ。
大通りに店を構える酒場でも、ここまで開放的な店はないだろう。
しかし、この店の開放感は、さらにもう一段階アップするのだ!
「ウーマロ!」
「はいッス! さぁ、みなさん、刮目するッス!」
俺の合図に、ウーマロは意気揚々と壁を『収納』し始めた。
「え、えぇっ!?」
ジネットが驚愕の声を上げる。
日本ではお馴染みだが、異世界では珍しい――もしかしたら陽だまり亭が初かもしれない――戸袋を作ったのだ。
窓の隣についている、雨戸をしまっておくアレだ。
ただし、陽だまり亭の戸袋は『壁』を丸ごと収納できる。
壁と言っても、上半分はガラスで下半分が木で出来た『窓』というべき代物なのだが。
一軒家の縁側が全面窓、のような構造だ。
ちなみに、戸袋には雨戸も収納されており、店を閉めた後はそちらを使う。異世界でガラスは貴重品だ。割られでもしたら堪ったもんじゃない。雨戸を閉めておけば、防犯面も申し分ないだろう。
そして、この窓を全開放しておけば、そこはオープンテラスにもなる。
「お店が広くなったみたいです」
開放感のおかげで視覚的にそう見えるのだろう。
ジネットは店内を歩き回り、綺麗に並べられたテーブルを一つずつタッチして回っている。
満員になった店内で料理を運ぶイメージでもしているのだろうか。
足取りが軽やかで、なんだか踊っているように見える。
片や、マグダはというと……
「……三秒で到達可能」
カウンターから一番遠い席までダッシュしてそんなことを呟いている。
……頑張る方向、間違っているぞ。
「カウンターも使いやすくなりました」
以前のカウンターは、ジネットには少々高くて使いにくそうだった。
そこで、カウンターの中の床を5センチ上げたのだ。これで、客側からの高さは変わらず、ジネットは使いやすくなるというわけだ。
「厨房も綺麗ですね」
ジネットが一番喜んだのが厨房だった。
これまでは壁に沿って流しやコンロが配置されていたのだが、今回のリフォームでアイランド型のキッチンに変更した。これで、作業スペースが格段に広くなり、二人以上での作業が可能になった。
俺も料理くらいは出来るが、以前の厨房では手伝いが出来なかった。作業スペースの狭さもさることながら、横一列に並んでいると、移動の際どうしても相手の後ろを通らなければならず、非常に邪魔だったのだ。
今後、店が繁盛してくれば人員を増やすこともあるだろう。そういうのも見越してアイランド型にしたのだ。
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