異世界詐欺師のなんちゃって経営術

分割版π(パイ)
宮地拓海
宮地拓海

20話 新装開店 -1-

公開日時: 2020年10月19日(月) 20:01
文字数:1,759

 ――異世界の巨大都市・オールブルーム。

 ――その都市の一角に、ある問題を抱えた一軒の食堂がありました。

 

 ――陽だまり亭。

 

 ――この食堂が抱える問題。それは…………

 

 

『安心して食事が出来ない食堂』

 

 

 ――床は軋み、椅子はガタガタ。日中も陽の光は入らず真っ暗。

 ――この店の店主はこう語る。

 

「そうですね。もう随分古くなってきていましたし……お客さんにとって居心地のいい空間になれば嬉しいですね」

 

 ――そんな店主の切なる願いを受け、一人の男が立ち上がりました。

 ――リフォームの匠・ウーマロ。

 

「どうしたんッスか、ヤシロさん? さっきから一人で何言ってるんッスか?」

「俺のいた国で『リフォームと言えばコレ』みたいなヤツだよ」

「よく分かんないッスけど……」

 

 大工のウーマロが困惑の表情を浮かべる。

 まぁ、分かんないよな。この世界にはテレビすらないんだからよ。

 

 と、まぁそんなわけで、ついに陽だまり亭のリフォームが完成した!

 その全貌をとくとご覧いただこうではないか!

 

 まずは外観がガラリと変わった。

 一階の店舗部分には大きな窓を設け、外から店内がよく見えるようにしてもらった。これで陽の光も入り店内も格段に明るくなる。そして何より、開放感が生まれた。

 店内が外から見えるというのは、飲食店においてはプラスになることが多い。

 思い浮かべてみてほしい。街に溢れる飲食店を。だいたい大きな窓から店内が見えるはずだ。

 逆に、昔ながらの純喫茶とか、店内が見えない店には入りにくかったりしないだろうか? まぁ、あえてそうやってハードルを上げて、店の雰囲気を大切にしているところもあるのだが。これは店によりどちらを取るか選べばいいところだ。

 

「こんなに開放感があるお店は、そうそうないですよね」

 

 ジネットは大きな窓が大層気に入ったようだ。

 なにせガラスは高いからな。俺たちの自室にもついていない高級品だ。

 大通りに店を構える酒場でも、ここまで開放的な店はないだろう。

 

 しかし、この店の開放感は、さらにもう一段階アップするのだ!

 

「ウーマロ!」

「はいッス! さぁ、みなさん、刮目するッス!」

 

 俺の合図に、ウーマロは意気揚々と壁を『収納』し始めた。

 

「え、えぇっ!?」

 

 ジネットが驚愕の声を上げる。

 

 日本ではお馴染みだが、異世界では珍しい――もしかしたら陽だまり亭が初かもしれない――戸袋を作ったのだ。

 窓の隣についている、雨戸をしまっておくアレだ。

 ただし、陽だまり亭の戸袋は『壁』を丸ごと収納できる。

 

 壁と言っても、上半分はガラスで下半分が木で出来た『窓』というべき代物なのだが。

 一軒家の縁側が全面窓、のような構造だ。

 ちなみに、戸袋には雨戸も収納されており、店を閉めた後はそちらを使う。異世界でガラスは貴重品だ。割られでもしたら堪ったもんじゃない。雨戸を閉めておけば、防犯面も申し分ないだろう。

 そして、この窓を全開放しておけば、そこはオープンテラスにもなる。

 

「お店が広くなったみたいです」

 

 開放感のおかげで視覚的にそう見えるのだろう。

 ジネットは店内を歩き回り、綺麗に並べられたテーブルを一つずつタッチして回っている。

 満員になった店内で料理を運ぶイメージでもしているのだろうか。

 足取りが軽やかで、なんだか踊っているように見える。

 

 片や、マグダはというと……

 

「……三秒で到達可能」

 

 カウンターから一番遠い席までダッシュしてそんなことを呟いている。

 ……頑張る方向、間違っているぞ。

 

「カウンターも使いやすくなりました」

 

 以前のカウンターは、ジネットには少々高くて使いにくそうだった。

 そこで、カウンターの中の床を5センチ上げたのだ。これで、客側からの高さは変わらず、ジネットは使いやすくなるというわけだ。

 

「厨房も綺麗ですね」

 

 ジネットが一番喜んだのが厨房だった。

 これまでは壁に沿って流しやコンロが配置されていたのだが、今回のリフォームでアイランド型のキッチンに変更した。これで、作業スペースが格段に広くなり、二人以上での作業が可能になった。

 俺も料理くらいは出来るが、以前の厨房では手伝いが出来なかった。作業スペースの狭さもさることながら、横一列に並んでいると、移動の際どうしても相手の後ろを通らなければならず、非常に邪魔だったのだ。

 今後、店が繁盛してくれば人員を増やすこともあるだろう。そういうのも見越してアイランド型にしたのだ。

 

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