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「モミの木が欲しいんだ」
「もにのみ?」
朝、ヤシロと店長が厨房で何やら話し合っていた。
「……おはよ」
「おぅ、マグダおはよう」
「マグダさん、おはようございます」
まだ頭がボーっとして、はっきりしない。
マグダは、厨房を素通りし食堂へと向かう。
食堂のテーブルに突っ伏してまぶたを閉じる。部屋に帰ると確実に寝てしまうから、これでささやかながらも眠気を誤魔化すのだ。
決して眠るわけではない、少しまぶたを閉じる……だ……け………………くかー。
「おはよう、マグダ。眠そうだね」
そんな声に顔を上げると、食堂の入り口にエステラが立っていた。
珍しい。いつもは教会で落ち合うのに。
「……さては、偽物……?」
「どうした? 寝ぼけているのかい?」
一瞬顔を引き攣らせて、エステラがこちらに近付いてくる。
「今日は早く目が覚めたから、たまには手伝おうかと思ってね」
静かに近付いてきたエステラは、さり気なくマグダの頭を撫でる。耳に指が触れ、軽く揉み揉みされる…………むっ。
「……エッチ」
「いやっ! そ、そういうつもりはないんだけどっ!? ほら、ヤシロがいつもやってるから……」
ヤシロは特別。
他の人間には気安く触れさせない。
「……ナタリアにさせている着替えの手伝いをヤシロにさせるようなもの」
「あ……ぅ、いや、ごめん」
「……分かればいい」
触れられた耳をピッピッと振る。
また後でヤシロにもふってもらわなければ……
「それで、そのヤシロは? 厨房かな?」
ヤシロ……
ヤシロなら……えっと……
「……ヤシロは…………厨房で…………」
「眠いのかい?」
「……平気。ただ、眠いだけ……」
「……眠いんだね。それも、かなり……」
またエステラの顔が引き攣る。
そんな、困った娘を見るような目で見ないでもらいたい。マグダはほんのちょっと眠たいだけなのだから。
「……ヤシロは……厨房で…………店長と…………」
えっと……なんだっけ…………あ、そうそう。
「……『揉み揉みしたい』って……」
「ちょっと厨房行ってくる!」
足音を荒らげ、エステラが厨房へと向かう。まったく、朝から騒がしい……
レディたるもの、朝は優雅にまどろんでいるくらいお淑やかにいたいものだ。
なので、マグダは少し寝る…………くかー。
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