「あ~、落ち着くなぁ、この家」
家に着くなり、居間で大の字に寝転がるヤシロ。
寛いでくれるのは嬉しいんだけどさ…………その発言は、ちょぃと……照れるさね。
「なんなら、お布団でも敷いてやろうかぃ?」
「……エッチ」
「そっ、そういう意味じゃないさねっ!」
まったく! ヤシロは、まったく!
なんでアタシがそんなこと……っ!
気持ち、いつもよりもしっかりと襟を正す。
谷間も隠し気味だよ、今日は。
……いや、ここはむしろ…………
「ヤシロ。ちょぃと待ってておくれなよ」
「おう、気長に待ってるぞ」
一言断わってから、昼飯の用意をはじめ……その間に、アタシは着替えを始める。
「お待たせさね、ヤシロ」
「おぉ、出来たか…………って、何やってんの!?」
料理を持って居間へ行くと、ヤシロが目を見開いた。
ふふふ……さぁ、よく見ておくれ。
「チアガールさね!」
大食い大会の時に着て、評判のよかった服さね。
ヤシロも褒めてくれた自信のコスチュームさね。
ヤシロはアタシにいろんな服をくれた。
きっと、こういうのが好きなんさね。いろんな服を着せたいと思っているんさね。
アタシでよければなんだって着る。
着て、ヤシロに見せてあげるさね。
……だから、アタシの名前を、思い出してほしいさね……っ。
「さぁさ、ヤシロ。たんと食べておくれな。おかわりもたくさんあるからね」
「あぁ……いや、食うけどさ……なぜチアガール?」
「応援するさね!」
みんなで考えた振りつけはいまだこの体に刻み込まれている。
ヤシロが喜んでくれたチアガールの応援……ヤシロのためだけに、今、披露するさね!
「GO! GO! GO☆FIGHT☆WIN!」
腕を回し、足を高く上げ、両足を揃えて高くジャンプ!
……したところで、汁物の椀が倒れた。
「ぉおおい! 飯時に暴れるなよ!?」
「あぁっ! ごめんさね!」
慌てて零れた味噌汁を布巾で拭く。
こんな狭いところでチアガールの本領を発揮するのは難しいさね……なら!
「ちょっと、布巾を洗ってくるさね!」
言って、居間を出る。
チアガールは飯時に向かない。だから今度は……
「セーラー服だ!?」
服を着替え居間に戻ると、ヤシロが漬物を「ぶふっ!」っと飛ばしながら驚いていた。
ふふん。インパクトって意味では成功さね。
「……なんでセーラー服?」
「あんた、これをアタシに着せたかったんだろ?」
「いや、まぁ……」
木こりギルドの支部が完成した時、正装と言ってヤシロがくれた服さね。
本番は違うドレスを着てパーティーに出たから、こっちはちょっとしか見せてないんさね。
プレミアム感も相まって、きっとお得な気分になっているに違いないさね。
「さぁ、ヤシロ。アタシが食べさせてあげるさね」
隣に座って箸を持つ。
煮魚を小さく切って、ヤシロの口元へと近付ける。
「ほら、『あ~ん』さね」
「お、おい……」
「照れんじゃないよ。いいじゃないかさ、たまには。ね?」
体を寄せ、少し甘えてみせる。
こうすれば、ヤシロはきっと甘えさせてくれる。
卑怯な手だとは分かっているさね。
ヤシロの優しさに付け込んで、こっちからの好意を押し売りしている。
『甘えてほしい』ってわがままを言って『甘えさせてもらってる』……
分かってる……分かってるけど…………アタシにはこれくらいのことしか、出来ないから。
「ほら、早く『あ~ん』するさね」
「いや、あの……普通でいいから」
「これがアタシの普通さね」
「……だとしたら、ちょっとヤバい領域に足を踏み込んでるな、お前は」
失敬さね!?
別に、ウェンディたちの結婚式を見たからって、前以上に焦ったりなんかしてないさね!
それとこれとは話が違うさね!
「あっ!」
ほんの少し、……結婚とかいうワードが脳裏をかすめたせいで……動揺しちまって、箸から煮魚が転げ落ちた。
胸元にぽとりと落ちたそれは、白いセーラー服に薄茶色いシミをつけた。
「あぁもう! 早く脱げ。シミになっちまうぞ」
「そ、そうさね!?」
ヤシロにもらった服を汚すなんて……
アタシは慌てて服を脱ぐ……前に止められた。
「ぅおぉいっ! ここで脱ぐなよ!」
「そ、そそそ、そうさねっ!?」
慌てて、ふためいて、転がるようにして居間を出ていく。
あ、危なかったさね……今のは素でやらかしかけたさね……
それにしても、ヤシロ……おっぱい好きのくせに、こういうことはちゃんと指摘してくれるんさねぇ。……やっぱ、他の男とはちょっと違うさね。
よし。もっとインパクトのある格好をして、ヤシロを喜ばせてやるさね!
もう一度コスチュームを変える。……秘蔵の『アレ』に!
これぞ、最強インパクト!
初めて着た時のヤシロの喜びようと言ったら…………くふふっ。
「ヤシロ、どうさね!?」
居間へ入るなり、視線が突き刺さるのを感じる。
そうさろ、そうさろ、見ちゃうんさろ?
ヤシロ、大好きだもんねぇ、水着!
アタシは、川遊びの際にもらったモノキニって水着を着て男がグッとくる悩殺ポーズを決める!
これでヤシロもテンションうなぎ上りで――
「…………どこまで行っちゃうんだ、お前は」
ヤシロの口から、漬け物がぽとりと落ちる。
……あ、あれ?
「ごめん、もう一回言うけど……普通でいいから」
「え、で、でも。好きじゃ、ないかぇ? こういうの」
「いや、好きだけど! 心の中ではメッチャ『わっほ~い!』ってなってるけど!」
くふっ。なってるんかい。そうかいそうかい。
「けど、二人っきりの時にそんな格好されたら…………いろいろ、気まずいだろう。俺も男なんだし……」
「――っ!?」
そ、そりゃ、そう……さね。
ヤシロがもし、その……そんな気を起こしちまったら………………うん、確かに……マズい…………さね。
なんだか、急に恥ずかしくなってきたんさ…………アタシ、自分家の居間で何やってんさろ?
「あぅ……いや、あの…………」
けど、ヤシロには喜んでもらいたい…………
「ひ、膝枕とか、してやろうかぃ?」
「お前は俺の自制心を殺す気か!?」
あぁっ!? よく見たら太ももが剥き出しだったさね!?
なんてはしたない格好さね、よく見たら!?
「ふ、ふふ…………ふ……普段通りさね、これが!」
「だとしたら……お前はとっても残念な私生活を送ってることになるな」
あぁ……どうしてこう、思い通りに行かないさね……
ヤシロみたいに、うまく立ち回れりゃ……ヤシロだってアタシのこと、忘れたりしないだろうに…………
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