異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

378話 着ぐるみお披露目会 -1-

公開日時: 2022年8月5日(金) 20:01
文字数:4,042

「「「よこちぃ!」」」

「「「したちぃ!」」」

 

 ガキどもが群がってくる。

 えぇい、わらわらと!

 分かってはいたが、心構えがあろうと煩わしいものは煩わしい!

 

 というわけで、ジネットバリアー!

 

「みなさ~ん。あんまり乱暴にすると、したちぃさんが困ってしまいますよ。優しくしてあげてくださいね」

「「「はーい!」」」

 

 とんでもないスピードで飯を掻き込んで、教会の庭に飛び出してきたガキども。

「遊ぶのは食事の後ですよ」というジネットの言いつけを守った結果なのだが、味わって食えよ、ジネットの飯。もったいねぇ。

 

「したちぃさん」

 

 ゆっくりとした歩調でベルティーナが歩いてくる。

 背後には、項垂れた悪ガキ二人を連れて。

 

「この子たちから、お話があるそうです」

 

 そう言って、ベルティーナに背を押された悪ガキ二人が俺の前へと進み出る。

 

「「お尻、蹴って、ごめんなさい」」

 

 この悪ガキ二人は、案の定俺のケツを蹴ってきやがった。

 なので、「物凄く悲しいわ……え~んえ~ん」と泣く仕草をしてみせたらすっげぇおろおろして、あわあわ言って、最終的に懺悔室へと連れて行かれたのだ。

 

「人が嫌がることをしてはいけません」と、ベルティーナに説教されていた。

「乱暴はいけません」じゃないところがこの街っぽい。

 

 ガキがやってほしがることって、結構乱暴なのが多いからなぁ。ぐるんぐるん振り回したり、マグダが空中に放り投げたり。

 あれらは、本人たちが喜んでいるので、ケガさせさせなければOKらしい。

 日本じゃ、ガキが不注意で怪我をしても遊具のせいにされるのになぁ。随分おおらかな街だ。

 

 なんにせよ、年長のデカいガキが二人、こってり絞られて半泣きで謝罪をする姿は、この街のガキどもに「着ぐるみは蹴っちゃいけない」と分からせるのに効果覿面だっただろう。

 こうして、マスコットキャラクターとの付き合い方を浸透させていけばいい。

 

 マスコットキャラは心も綺麗でなければいけないので、悪ガキであろうと謝ったならば許してやらなければいけない。

 俯く悪ガキ二人の頭をぽんぽんと撫で、にっこりと微笑んでやる。

 

「……あはっ!」

 

 ほっとした顔を見せる悪ガキ二人。

 そんなガキどもに、ジネットが優しく語りかける。

 

「仲直りできたなら、今度はあなたたちがしたちぃさんを守ってあげてくださいね。したちぃさんは、か弱い女の子ですから」

 

 中身は俺だが、したちぃは女の子という設定だ。

 それに、今後着ぐるみの中身は女性限定にする予定だ。

 女性が気兼ねなく抱きつけるようにな。

 

 着ぐるみは結構つらいんだが……この街、俺とは比べ物にならないくらいパワフルな女子が多いからなぁ。まぁ、大丈夫だろう。

 

「こら、叩いちゃダメだぞ!」

「もっと優しくな!」

 

 こうして、一度意識を変えてやれば、張り切っちゃうのがガキという生き物だ。

 実に単純。

 実に扱いやすい。

 

「それにしても、……ふふ。本当に可愛いですね」

 

 ベルティーナがしたちぃを見ながら微笑む。

 お説教時の凛とした表情はもうどこにも見当たらず、いつもの穏やかな微笑が浮かんでいる。

 反省すれば許す。ベルティーナはそういう教育を徹底している。

 

「ぎゅっとしてもらうと、とっても気持ちがいいんですよ」

「えっ、いえ、でも……私は」

 

 ベルティーナは、中身が俺だと知っている。

 なので遠慮したくなる気持ちも分かる。

 だが。

 

「みんな、楽しそうですよ」

 

 と、ジネットが指さす先には、小さいガキんちょが無数しがみつくよこちぃの姿があった。

 体全部にガキが張り付いている。

 トト□か、お前は。あ、一応伏せ字だぞ。よく見てみろ、『四角』だから。

 

「…………!」

「きゃははは!」

「よこちぃ!」

「しゅき~!」

「……っ! ……っ! ……っ!」

 

 無数の女児にしがみつかれて、よこちぃがハッスルしている。

 

「少々はしゃぎ過ぎですわよ……よこちぃさん?」

「……っ!?」

 

 背後に怖ぁ~い顔をしたお目付け役がいること、忘れてたみたいだな、よこちぃ。

 

 ハビエルのヤツ、木こりを辞めて着ぐるみ師になるとか言い出さなきゃいいけどな。

 ……言い出しそうだなぁ。

 

 ちなみに、レジーナはゴムの研究がしたいと帰っていった。

 ノーマとウクリネスは……もう、そっとしておくことにした。

 少しでも睡眠時間が取れるように、朝のうちにさっさと追い返した。日が出ている間に精々研究してくれ。

 

 マグダとロレッタははしゃぐガキどもを落ち着かせ、秩序を守る役割に従事している。

 エステラとナタリア、それからルシアとギルベルタは次の仕事の打ち合わせだ。

 

 ハードスケジュールで講習会場を作らなければいけない大工たち。

 ――の中から、ウーマロと数名の大工を引き抜いてきてもらう。

 ついでだから、アトラクションの見本も作ってしまおうと思って。

 

 下水工事は何度もやってるし、トルベック工務店の連中がいればどうとでもなる。

 それに、ゆくゆく壊す会場なんか、ウーマロ抜きでもなんとかなるだろう。

 よし、ウーマロは手を空けられるな。

 あとは使えそうなのを二~三人見繕って拉致してくればいい。

 

 なんてことを考えていると、ベルティーナがそろ~りと、俺の前へとやって来た。

 やや俯いて、遠慮がちに、したちぃの頭へ手を伸ばす。

 とす……っと、着ぐるみの頭に手を置いて、そっと撫でる。

 

「ふふ……。かわいいです」

 

 満足そうに笑っている顔が、決して満足ではないことを、俺は知っている。

 遠慮してる時の顔だな、これは。

 ちらりとジネットを見やれば、俺の考えが正しいことを証明するようにこくりと頷いた。

 

 両手を広げてみせれば、ベルティーナが「へぅっ!?」っと声を漏らした。

 抱きついていいよの合図なのだが、どうにも照れくさいらしい。

 

 したちぃが両腕を広げれば、ガキどもがキラキラした瞳で飛びついてくる。

 十歳前後の女子でもためらいなく抱きついてくる。

 むしろ逆に十歳以上の男どもが照れて抱きついてこようとしない。照れてんじゃねぇよ、思春期が。

 

 何人かのガキを抱きしめてみせれば、ベルティーナの表情も少しほぐれた。

 だが、やはり恥ずかしさはなくならないようで。

 

「あの……ジネット。出来れば、一緒に……」

 

 一人では恥ずかしいので、娘を巻き込もう大作戦だ。

 母親に甘々なジネットは、当然それを承諾する。

 結果として、ベルティーナとジネットがくっつくようにして立ち、俺が二人まとめて抱きしめる。

 ふわっとした感触になるように、強過ぎず、弱過ぎず。

 

「ふふ……、なんだか、くすぐったいですね」

「でも、とても嬉しそうですよ、シスター」

「はい。とても満たされた気持ちです」

 

 被り物越しではあるが、顔を寄せ合って笑うジネットとベルティーナが目の前に、いや、腕の中にいる。

 ……うむ。

 

 

 俺、仕事辞めて着ぐるみ師になろうかなぁ。

 

 

 とりあえず、バレないように、腕を胸元へ……

 

「刺すよ、したちぃ?」

 

 肩が「びくぅっ!?」っと跳ねた。

 ……だから、揺れる音もさせずに背後に立つな、エステラ。

 着ぐるみのせいで、気配を感じ取りにくくなっているんだから。

 

 ジネットたちを解放して振り返ると、話し合いを終えたエステラが仁王立ちしていた。

 

「したちぃは、そんな下心を持ち合わせてはいない……よね?」

 

 でもさ、女の子同士ならおっぱい揉み放題なんだろ?

 よく見るぞ。アニメの温泉回で。大きくなったとか言って揉み合うのがマナーなんだろ!?

 マナー講師もきっとそう言うに違いない!

 

「やかましい」

 

 何もしゃべってないのに、酷くない?

 え?

 着ぐるみ越しでも顔に書かれてた? 俺の考えてること。

 

 エステラが怖い顔で睨むので、したちぃの投げキッスをお見舞いしておいた。

 

「ぅきゅ!? きゅ、急に、そういうことしないように!」

 

 マスコットキャラクターの可愛らしい仕草だというのに、エステラは顔を真っ赤に染める。

 

「……早く、後任を育てなきゃ。可及的速やかに」

 

 いや、待てエステラ。

 思ったんだが、俺、この仕事が天職かもしれん。

 

「君に任せておくと、いろいろ被害が出そうなんだよ」

 

 そんなことはない。

 たっぷりの愛情を持って接するぞ。

 

「君の愛は、女性の体のとある部分にばかり注がれるから心配なんだよ」

 

 それは仕方ない。

 だって、男の子だもん☆

 

「だから早急に後任を育てると言っているんだよ、ボクは!」

「……エステラが無言のしたちぃと会話している」

「でもなんでですかね……たぶんですけど、会話、噛み合ってる気がするです」

「……エステラは、もう片足をヤシロのエリアに踏み込んでいる」

「あぁ……エステラさん、残念です……」

「勝手に憐れまないように!」

 

 失敬なヤツらだ。

 

「まったくだよ」

「あの、エステラさん。ヤシ……したちぃさんは、今もしゃべっていませんでしたよ?」

 

 ジネットの指摘も、エステラは苦い顔で受け流す。

 残念ながら、エステラはもう俺のエリアに……誰のエリアが残念だ!?

 ……ったく。

 

 

 はてさて。

 

 ガキどもの反応は想像以上で、マスコットキャラクターをしっかりと作れば、テーマパークの成功に大きく寄与することが分かった。

 

 よこちぃとしたちぃの着ぐるみは、このままエステラに渡し、今後四十二区でのイベントの際に出動させる感じになるだろう。

 

 あ~、ようやく脱げる。

 

「あの、したちぃさん……」

 

 ジネットが小声で、俺を呼ぶ。

 

「お疲れだとは思うんですが……カンパニュラさんとテレサさんにも見せてあげられませんか?」

 

 あぁ……そうだったな。

 じゃあまぁ、もう一ヶ所だけ出張するか。

 

「あ、待って! じゃあ、デリアやパウラたちも呼んじゃおう。誘わないとうるさいでしょ?」

 

 と、エステラが提案する。

 確かにな。

 

「そこで、この先の予定を話すよ」

 

 というわけで、昼過ぎにもう一度着ぐるみを着て出動することが決まった。

 昼までは小休憩だな。

 

 陽だまり亭に戻り、着ぐるみを脱ぐ際。

 

「なぁ、ハビエル。もし忙しいなら無理して同行しなくても――」

「一緒に行くぞ! このよこちぃはワシにしか着こなせないからな!」

 

 遠回しに帰れと言ってみたが、やっぱりついてくるらしい。

 相当気に入ったようだな、よこちぃが。……いや、女児に飛びついてもらえる着ぐるみ姿が。

 

 

 捕まればいいのに。

 

 

 

 

 

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