魚を確保したら、次は肉だ。
そんなわけで、川漁ギルドに出向いた日の翌日、今度は狩猟ギルドに来てみたのだが……
「お前らか、ギルド間の軋轢を生んで商売を滅茶苦茶にしてるってヤツらは!?」
狩猟ギルドの詰所である建物内の応接室とは名ばかりの狭い部屋の中で、狩猟ギルドの代表者と名乗る男が姿を見せるなり物凄い剣幕で怒鳴ってきた。
これ、子供なら泣くし、お年寄りならポックリ逝っちゃうかもしれんぞ……
ジネットなんか、怖がってしまってぷるぷる震えている。可愛いもんだな。
「なんとか言えよ、コラ!?」
「……もう少し落ち着いて話さないか?」
ちょ~~~~~怖ぇぇぇぇぇええ!
なんだよ、こいつら、めっちゃ怖いじゃん!?
ガタイはいいし、顔は怖いし、声は低いし、これ見よがしに顔に傷とかあるしさ!?
筋肉なんかムキムキを通り越してカッチカチじゃん!
川漁ギルドのデリアが可愛く見えるくらいだよ。
さすが、外壁の外まで行って獣を狩ってくる強者ども。迫力が桁違いだ。
こんなのに凄まれたらビビって当然。
もっとも、俺くらいのレベルになるとそんな弱い心のうちはおくびにも出さずに対応できるんだけどな。
「……ヤシロ? なんか震えてない」
「気にするな。いま急に冷え性になっただけだ」
「それはそれで物凄く気になる案件なんだけど……?」
さりげなく、エステラが俺の背中をさすってくれる。
お、なんだ?
いつになく優しいじゃないか。
やっぱアレか?
俺も、ぷるぷる震えてると可愛く見えるのか?
「へっ! なんだよ、ビビってんのか? 根性無しが、大きな組織に盾突くとどういう目に遭うか、よく勉強しとくんだな!」
根性無し……だと?
「おい、……今なんつった?」
「あん? やるってのか、兄ちゃん?」
「上等じゃねぇか…………表へ出やがれっ!」
俺が応接室の机を殴ると鈍い音がして、同時に狩猟ギルドの代表者が立ち上がった。
「……来な」
短く言って、狩猟ギルドの代表者は外へと出て行く。
それに付き従うように、応接室にいた複数のギルド構成員が部屋を出て行った。
部屋に残されたのは、俺とエステラ。そして不安そうな顔で俺を見つめるジネットだけだ。
とりあえず、出されたお茶を啜る。
ズズゥ……………………あぁ~、お茶が美味い。
「「「いや、出てこいよ!?」」」
狩猟ギルドの代表者と構成員が一斉に応接室へ戻ってきて、一斉にツッコミを入れた。
誰が出て行くなんて言ったよ?
『表へ出ろ』って言っただけじゃねぇか。
「お前、ナメてんのか、こら!?」
完全に輩である。
この手のタイプは謎の『俺理論』を振りかざすから交渉がしにくい。
苦手なタイプの一つだ。
「そんなことよりも、聞きたいことがあるんだが」
「んだよ!?」
物凄く怖い顔で睨んでくる狩猟ギルドの代表者に向かって、俺は右腕を差し出す。
先ほど、テーブルを叩いた手が、割と洒落にならないくらいに腫れている。
「…………痛いんですけど、救急箱ないっすかね?」
「……お、おぅ…………おい。持ってきてやれ」
こういうタイプは、困っている相手を目の当たりにすると意外な優しさを見せたりする。
義理人情に厚いところがあるのだろう。
持ってきてもらった救急箱を借り、ジネットが俺の手当てをしてくれた。
あぁ、包帯の巻き方が優しい。……この包帯、返さなくてもいいよな? よし、また洗って使おう。
それはさておき、相手の気勢を削いでやったまではいいが、この先どうやって交渉を進めたものかなぁ。
なんてことを考えていたら――
『テメェ! また獲物を持って帰ってこなかったのかっ!?』
応接室の外から物凄い怒号が聞こえ、その直後、聞く者に痛みを連想させるような打撃音が響いてきた。
そして、何かが倒れる音と、複数の男たちがぼやきながら遠ざかっていく音が続く。
「ヤ、ヤシロさん……一体、何があったんでしょうか?」
「俺に聞くなよ……想像したくもない」
ここの連中はやたらと「コラ!」とか「おう!?」とか言いたがる。
血気盛んと言えば聞こえはいいが……少々乱暴で粗野だ。
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