異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

追想編6 ネフェリー -3-

公開日時: 2021年3月11日(木) 20:01
文字数:2,152

「悪いな。心配かけちまって」

「そんなことないっ!」

 

 私が大きな声を出したせいで、ニワトリたちが騒ぎ出しちゃった。

 けど、これは言わないと。ちゃんと伝えておかないと。

 

「ヤシロは何も悪くない! 絶対、悪くなんかないから!」

 

 悪いのは、勝手にヤシロの記憶を食べようとしている魔草!

 ヤシロは、被害者なんだから!

 

「優しいな」

「……え」

「ありがとな」

「…………う、うん」

 

 こんな素直なヤシロ、初めて……かも?

 なんだかとちょっと、変な感じ。

 くすぐったい。

 

 …………素直なヤシロ、か。

 私も、ちょっとだけ、素直になってみようかな。勇気を出して……

 

「ね、ねぇ、ヤシロッ。ヤシロってさ……ど、どんな女の子が、好み?」

「G以上かなぁ……」

「なんでなんのためらいもなくおっぱいの話になるのっ!?」

「いやほら、俺って素直だし」

 

 もう!

 素直過ぎるよ!

 Dだって結構大きいんだよ!?

 

 ……やっぱり、ヤシロって…………ジネットのこと…………好き……なのかな?

 胸、大きいもんね……

 

 ……聞いて、みる?

 でも、もしそうだって言われたら…………聞きたくないような、聞きたいような…………

 

「ね、ねぇ……ヤシロってさ……好…………た、大切な人、いる?」

 

 精一杯の勇気を振り絞ってした質問に、ヤシロは、あっさりと答える。

 

「あぁ。いるぞ」

 

 ドキッ……と、心臓が音を鳴らす。

 

「……だ、だれ?」

 

 どきどき……

 

「お前……」

 

 え…………っ。

 

「……ら、かな」

「…………『ら』?」

 

 そして、ヤシロは「どんっ!」と、自分の胸を叩く。

 ……あの、寄生型魔草の種が付いている付近を。

 

「こんなヤツに負けて堪るか……って、思えるくらい大切なヤツが、俺には割といるみたいだ」

「……ヤシロ」

 

 あぁ……私のバカ。

 なんて利己的で自分勝手なことを考えていたんだろう。

 

 自分のことを忘れてほしくない、なんて……

 

「そうだよ。ヤシロには、大切な人がいっぱいいるんだから。根性見せてよね」

「おう!」

 

 私のことはもちろんだけど……ジネットたちを忘れちゃったヤシロなんか、見たくないじゃない。

 そんな当たり前のことを、すっかり失念していたなんて……ダメね、私。

 反省。……おでこ、こつん。

 

「よぉし! ヤシロが頑張れるように、私が美味しい卵料理を作ってあげる!」

「器用な手先でよろしく頼むよ」

「もぅ、またそういう意地悪なことを言う! ダメよ、そんなんじゃ。女の子にモテないよ?」

 

 あんまりモテ過ぎても、困っちゃうけどね。

 

「待っててね。今、一番美味しい卵を選んであげるから!」

「そんなの、分かるのか?」

「私を誰だと思ってるの? 簡単よ。あのね、ここを見て。殻の表面が……」

 

 もう自分勝手に悩むのはやめた。

 私はヤシロを応援する。

 

「うん! コレだ! これが一番美味しい卵! 間違いないよ」

 

 百個近い卵の中から、この日一番の卵を探し当てる。

 色、つや、形、大きさ、それに殻の表面のざらつき。

 断言できる。この卵絶対美味しい。

 

「何で食べるのが一番いいかなぁ? シンプルにゆで卵? でももっと豪勢にオムレツとかもいいよね。う~ん……ヤシロ、何かリクエストない?」

「ふふ……くすくすくす」

「へ? な、なによ? 私、何か変なこと言った?」

「あ、いや。悪い。違うんだよ。プロだなと、思ってな」

「そうよ。プロよ。……もう、何がそんなにおかしいの?」

 

 無邪気な顔をして、ヤシロが私の顔を見る。

 透き通るような、キレイな瞳。そこに、私が映ってる。

 

「やっぱ、この仕事をしてる時が一番輝いてるよな、ネフェリーは」

「――っ!?」

 

 か、輝いている!?

 ウソッ!? ヤシロがそんなこと…………でもでも、確かに言ったよね!?

『やっぱ、この仕事をしてる時が一番輝いてるよな、ネフェリーは』って………………『ネフェリー』っ!?

 

「ネ、ネネネ、ネフェリー…………って?」

「ん? お前の名前だろ? 忘れたのか?」

「そうじゃなくて! 思い、出した……の?」

「ん…………あ、そういえば」

 

 そういえばって…………もう、暢気なんだから、ヤシロはっ!

 こっちがどれだけ心配したか…………けど、思い出してくれてよかった。

 

 よぉし。

 それじゃあ今度は、私は応援する方に回るね。

 きちんと、みんなのことを思い出せるように。

 

 だって、私はヤシロの応援団……チアガールだもん。

 

「フレーフレー、ヤ・シ・ロ!」

「なんだよ、急に」

「どう? 元気出た?」

「もしかして、チアガールか?」

「そう。懐かしいでしょ?」

 

 それも、ヤシロに教えてもらったことだよね。

 こうやって応援すれば、元気が出て頑張れるって。

 

「お前、ホントそういうの好きだよな。お芝居とかも」

 

 確かに。

 ヤシロに誘われて何度かお芝居をしたことはあるけど、そういうの、結構好きかも。

 なんだか楽しいし。

 

「将来、女優とか、モデルとかになってたりしてな。ウクリネスもモデルにしたがってたし」

 

 女優……モデル……確かに、心惹かれるものはあるけど……

 

「私はどっちもパスかな」

「興味ないのか?」

 

 興味は……正直あるけどさ。

 

「私は、ここで働いていたいから。これらもずっと」

「ははっ。ホント、ネフェリーはニワトリが大好きなんだな」

 

 くすくすとヤシロが笑う。

 うん、そうだね。それ『も』、ある。

 けどね……一番の理由は――

 

 

 大好きな人に『一番輝いてる』って言ってもらえた仕事だから、だよ。

 

 

 もう、少しくらいは気付いてよね。

 ホント、ヤシロは……鈍感なんだから。

 

 

 

 

 

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