「悪いな。心配かけちまって」
「そんなことないっ!」
私が大きな声を出したせいで、ニワトリたちが騒ぎ出しちゃった。
けど、これは言わないと。ちゃんと伝えておかないと。
「ヤシロは何も悪くない! 絶対、悪くなんかないから!」
悪いのは、勝手にヤシロの記憶を食べようとしている魔草!
ヤシロは、被害者なんだから!
「優しいな」
「……え」
「ありがとな」
「…………う、うん」
こんな素直なヤシロ、初めて……かも?
なんだかとちょっと、変な感じ。
くすぐったい。
…………素直なヤシロ、か。
私も、ちょっとだけ、素直になってみようかな。勇気を出して……
「ね、ねぇ、ヤシロッ。ヤシロってさ……ど、どんな女の子が、好み?」
「G以上かなぁ……」
「なんでなんのためらいもなくおっぱいの話になるのっ!?」
「いやほら、俺って素直だし」
もう!
素直過ぎるよ!
Dだって結構大きいんだよ!?
……やっぱり、ヤシロって…………ジネットのこと…………好き……なのかな?
胸、大きいもんね……
……聞いて、みる?
でも、もしそうだって言われたら…………聞きたくないような、聞きたいような…………
「ね、ねぇ……ヤシロってさ……好…………た、大切な人、いる?」
精一杯の勇気を振り絞ってした質問に、ヤシロは、あっさりと答える。
「あぁ。いるぞ」
ドキッ……と、心臓が音を鳴らす。
「……だ、だれ?」
どきどき……
「お前……」
え…………っ。
「……ら、かな」
「…………『ら』?」
そして、ヤシロは「どんっ!」と、自分の胸を叩く。
……あの、寄生型魔草の種が付いている付近を。
「こんなヤツに負けて堪るか……って、思えるくらい大切なヤツが、俺には割といるみたいだ」
「……ヤシロ」
あぁ……私のバカ。
なんて利己的で自分勝手なことを考えていたんだろう。
自分のことを忘れてほしくない、なんて……
「そうだよ。ヤシロには、大切な人がいっぱいいるんだから。根性見せてよね」
「おう!」
私のことはもちろんだけど……ジネットたちを忘れちゃったヤシロなんか、見たくないじゃない。
そんな当たり前のことを、すっかり失念していたなんて……ダメね、私。
反省。……おでこ、こつん。
「よぉし! ヤシロが頑張れるように、私が美味しい卵料理を作ってあげる!」
「器用な手先でよろしく頼むよ」
「もぅ、またそういう意地悪なことを言う! ダメよ、そんなんじゃ。女の子にモテないよ?」
あんまりモテ過ぎても、困っちゃうけどね。
「待っててね。今、一番美味しい卵を選んであげるから!」
「そんなの、分かるのか?」
「私を誰だと思ってるの? 簡単よ。あのね、ここを見て。殻の表面が……」
もう自分勝手に悩むのはやめた。
私はヤシロを応援する。
「うん! コレだ! これが一番美味しい卵! 間違いないよ」
百個近い卵の中から、この日一番の卵を探し当てる。
色、つや、形、大きさ、それに殻の表面のざらつき。
断言できる。この卵絶対美味しい。
「何で食べるのが一番いいかなぁ? シンプルにゆで卵? でももっと豪勢にオムレツとかもいいよね。う~ん……ヤシロ、何かリクエストない?」
「ふふ……くすくすくす」
「へ? な、なによ? 私、何か変なこと言った?」
「あ、いや。悪い。違うんだよ。プロだなと、思ってな」
「そうよ。プロよ。……もう、何がそんなにおかしいの?」
無邪気な顔をして、ヤシロが私の顔を見る。
透き通るような、キレイな瞳。そこに、私が映ってる。
「やっぱ、この仕事をしてる時が一番輝いてるよな、ネフェリーは」
「――っ!?」
か、輝いている!?
ウソッ!? ヤシロがそんなこと…………でもでも、確かに言ったよね!?
『やっぱ、この仕事をしてる時が一番輝いてるよな、ネフェリーは』って………………『ネフェリー』っ!?
「ネ、ネネネ、ネフェリー…………って?」
「ん? お前の名前だろ? 忘れたのか?」
「そうじゃなくて! 思い、出した……の?」
「ん…………あ、そういえば」
そういえばって…………もう、暢気なんだから、ヤシロはっ!
こっちがどれだけ心配したか…………けど、思い出してくれてよかった。
よぉし。
それじゃあ今度は、私は応援する方に回るね。
きちんと、みんなのことを思い出せるように。
だって、私はヤシロの応援団……チアガールだもん。
「フレーフレー、ヤ・シ・ロ!」
「なんだよ、急に」
「どう? 元気出た?」
「もしかして、チアガールか?」
「そう。懐かしいでしょ?」
それも、ヤシロに教えてもらったことだよね。
こうやって応援すれば、元気が出て頑張れるって。
「お前、ホントそういうの好きだよな。お芝居とかも」
確かに。
ヤシロに誘われて何度かお芝居をしたことはあるけど、そういうの、結構好きかも。
なんだか楽しいし。
「将来、女優とか、モデルとかになってたりしてな。ウクリネスもモデルにしたがってたし」
女優……モデル……確かに、心惹かれるものはあるけど……
「私はどっちもパスかな」
「興味ないのか?」
興味は……正直あるけどさ。
「私は、ここで働いていたいから。これらもずっと」
「ははっ。ホント、ネフェリーはニワトリが大好きなんだな」
くすくすとヤシロが笑う。
うん、そうだね。それ『も』、ある。
けどね……一番の理由は――
大好きな人に『一番輝いてる』って言ってもらえた仕事だから、だよ。
もう、少しくらいは気付いてよね。
ホント、ヤシロは……鈍感なんだから。
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