異世界詐欺師のなんちゃって経営術

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宮地拓海
宮地拓海

無添加47話 途中経過とハムっ子と秘め事と -1-

公開日時: 2021年4月1日(木) 20:01
文字数:2,815

「……ご飯を食べている時に思い出した」

 

 応援合戦が終わり、白組一同はマグダに招集されていた。

 応戦席の前に立ち、マグダがきりりっとした無表情で言う。

 

「……マグダ、チームリーダーだった」

「忘れんなよ」

「……ヤシロが指示を出しているから、なんだかそれでいいかという気に」

 

 まぁ、長丁場だしな。

 マグダも、いろいろと興味を惹かれるものがあったりして、統率よりも楽しむ方に意識が向いていたのだろう。

 

「……ちなみに、かわいい隊の振り付けはマグダが行った」

「どうりで可愛さがあふれ出していたッス!」

「……まぁ、マグダ自身が参加していれば、もう500ポイントくらいもらえていたことは明白」

「間違いないッス!」

「おい、グーズーヤ。お前んとこの棟梁うるさいから黙らせろ」

「む、無理ですよ!? 棟梁、めっちゃ怖いんですから!」

 

 えぇ……なに、ウーマロ。身内には厳しいの?

 内弁慶ってヤツか?

 

「弱い者にだけ権力を振りかざすとか、サイテー」

「組織の長として当然のことしてるだけッスよ!? ほら、グーズーヤ! 誤解のないようにちゃんと説明するッスよ!」

 

 あぁ、そういえば。こいつと初めて会った時もかなり怒ってたっけな。

 部下の不祥事を怒鳴りつける上司として。

 

「……マグダ、裏表の激しい人は、ちょっと……」

「優しくなるッス! マグダたんの前にいる時のように!」

「……けど、仕事に責任と情熱を持てる熱い人は素敵」

「あぁ、悩ましいッス! 今のままでいいのか、変わるべきか!?」

 

 その前に、未発達の未成年にぞっこんな大人はどうなんだろうな、おい。

 

「それで、マグダっちょ。みんなを集めてなんの話があるです?」

「……午後の競技が始まる前に、点数の確認をしておきたいと思う」

「アーシもその意見に賛成だ。あとどんくらいで逆転できんのか知っといた方が、気合いが入るってもんだ」

「賢明な判断じゃねぇかですね、我が永遠のライバルマグダ」

「ちょっ、待てよモコカ! 親友はアーシだろ!?」

「親友とライバルは違ぇじゃねぇかですよ」

「どっちが強い!?」

「うるさいぞ、バルバラ。ちょっと黙ってろ」

 

 ヒートアップするサル女を黙らせる。

 お昼の間に足首の痛みが引いたと言っているモコカも、午後からは戦線に復帰する予定だ。

 

「……モコカ、足は?」

「もうすっかり平気だぜです! 大将が持ってきてた氷のおかげでシャッキシャキだったぜですから」

 

 マーゥルは、炎天下での観戦ということで氷を持ってきていた。

 魔獣の革で作った袋に氷を入れたもので、そこにタオルを載せて冷やしておき、冷えたタオルを首筋に当てたりして涼を取るものなのだそうだ。その魔獣の革に入れておけば、だいたい半日くらいは氷が溶けずに持つというから驚きだ。

 

 マーゥルクラスの貴族になると、猛暑期に備えて氷をストックしているらしい。

 豪雪期になると大量に生み出される氷を氷室に入れておくのだとか。

 やっぱ、そういう技術は存在したんだな、この街にも。

 

「微笑みの領主様から『明日は暑くなるから対策しやがれください』って手紙が来てたんで準備してやがったんですが、私のために使ってくれやがったんですよ」

 

 ナタリアの天気予報を事前に知らせていたわけか。

 相変わらずナタリアの天気予報はよく当たり、今日は朝から結構暑い。日差しも強いし、備えは必要だっただろう。

 細かくポイントを稼いでやがるなぁ、エステラのヤツ。

 

 でもまぁ、おかげでいい情報が手に入った。

 氷は、あるところにはある。

 そして、結構頼みやすいヤツが持っている。

 マーゥルには、モコカの給仕魂を目覚めさせたという貸しもあるし、こういう時に利用させてもらってもいいだろう。

 ちらりとグラウンドの入り口を見やるが、まだお目当ての人物は戻ってこない。

 仕方ないのでマグダの話へと意識を戻す。

 

「……イネス、デボラ。ここまでの得点はどうなっている?」

「はい。こちらに集計した物があります」

「現在、白組の点数は1040ポイント。健闘も虚しく、いまだ最下位を脱してはいません」

 

 おぉ……マグダのヤツ、当たり前のように給仕長ズを使ってるな。

 まぁチームリーダーだし、いっか。今、この中では一番偉いんだし。

 

 で、給仕長二人が示した点数は、現在こんな感じだった。

 

 

 青組:1355ポイント

 黄組:1273ポイント

 白組:1040ポイント

 赤組:1186ポイント

 

 

 これらは、応援合戦の50ポイントを加算した最新の得点だ。

 

「大分追いついてきましたね」

 

 嬉しそうにジネットが言うが、トップとの差は315ポイント。

 たしか、最初の競技『徒競走』終了時のトップとの差が254ポイントだから……離されてんじゃねぇか!?

 

「おい、どうなってんだよ!? 俺ら結構一位とってたろうが!」

 

 得点表らしき物を持っている給仕長ズへと詰め寄る。

 何かの間違いなんじゃないかと思って。

 ところが。

 

「確かに、台風の目、大玉転がしと、白組は一位を獲得しました」

「ですが、徒競走とお客様の中にレース、そしてパン食い競走でトータルポイントが最下位でした」

 

 そう言ってデボラが細かい数字が書き込まれた紙を見せてくる。

 そいつには、これまでの競技の成績と獲得ポイントが詳細に書き込まれていた。

 

【徒競走】

1位 青組 629ポイント

2位 黄組 569ポイント

3位 赤組 427ポイント

4位 白組 375ポイント

(※得点合計順位)

 

【台風の目】

1位 白組 50ポイント(合計 425ポイント)

2位 青組 30ポイント(合計 659ポイント)

3位 赤組 15ポイント(合計 442ポイント)

4位 黄組 0ポイント(合計 569ポイント)

 

【大玉転がし】(交流メインのためポイントは低め)

1位 白組 20ポイント(合計 445ポイント)

2位 赤組 10ポイント(合計 452ポイント)

3位 青組 5ポイント(合計 664ポイント)

4位 黄組 0ポイント(合計 569ポイント)

 

【お客様の中にレース】

1位 赤組 122ポイント(合計 574ポイント)

2位 黄組 112ポイント(合計 681ポイント)

3位 青組 67ポイント(合計 731ポイント)

4位 白組 65ポイント(合計 510ポイント)

(※得点合計順位)

 

【玉入れ】

1位 赤組 42ポイント(合計 616ポイント)

2位 白組 40ポイント(合計 550ポイント)

3位 青組 39ポイント(合計 770ポイント)

4位 黄組 37ポイント(合計 718ポイント)

 

【パン食い競走】

1位 青組 535ポイント(合計 1305ポイント)

2位 赤組 520ポイント(合計 1136ポイント)

3位 黄組 505ポイント(合計 1223ポイント)

4位 白組 440ポイント(合計 990ポイント)

(※得点合計順位)

 

【応援合戦】

 ※各チームに50ポイント

 

 

「……たしかに」

 

 デボラの言った三競技で、白組は最下位のポイントを叩き出していた。

 おっかしいなぁ……もっとポイント稼いでるイメージだったんだけどなぁ。

 

 お客様の中にレースなんて結構頑張ったろ、俺?

 テレサも喜んでたしさ。観客だってうるうるしてたじゃねぇか。

 感動ポイントとか加算されてねぇのか? そういうの必要なんじゃね?

 

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